災害時の「# 救助要請」は
救助につながったのか

「消防に電話してもつながらない、助けて。#(ハッシュタグ)救助」
大災害時にSNSで救助を要請する投稿(ツイート)は、時には何千回も拡散されて多くの人の目にふれる。しかし実際のところ、どの程度救助に結びついているのだろう。

西日本豪雨のときに記者が確認した約40件の救助要請ツイートを今回追跡取材した結果、すべてのケースで当事者は無事に救助されていたことが分かった。
一方で自治体の担当者から聞かれたのは、現実的なことばだった。

38件のツイートを追跡調査

7月の西日本豪雨で、大規模な浸水被害によって51人が亡くなった(災害関連死をのぞく)岡山県倉敷市の真備町では、当時家に取り残された人などがツイッターで救助を求める投稿が相次いだ。

こうした詳しい住所を書いて救助を求めた投稿は、7月7日の未明から翌日にかけて記者が確認できたものだけで、38件にのぼった。どのような思いで投稿されたのか。
そのうちの一人で、真備町から救助要請をツイートした17歳の女子高校生に、実際に話を聞くことができた。

「助からないかもと思った」

住んでいた地域に避難指示が出された時、すでに家の前は水に浸かっていて、避難できる状況ではなかったという。

「どんどん水が流れてきて、家の2階に避難しました。『助けて!』と流される人の声が聞こえましたが、真っ暗で何も見えず、助けを求めてる人に何もできなかったことや、もしかしたら自分も助からないかもしれないと、とても怖かったです。
朝になってようやく電波が通じるようになってツイッターをみると、友人たちが救助要請のツイートをしていることに気づきました。家族や近所の人の助けを求めようと、ツイートしました」(ツイートした女子高校生)

救助する人たちにもわかりやすいよう、ツイートには住所も書いた。助けを求めて4時間ほどたった午後1時過ぎ、家族は全員無事に救助された。
ツイッターが救助につながったかどうかはわからないものの、無事救助されたことに感謝しているという。

ツイートした人を探して現地へ

当時確認した住所が分かる38件のツイートについて取材を進めた。このうち20件については、投稿した人たちがみずから「救助されました」などと無事を報告していた。
また3件は、ダイレクトメッセージなどによる取材に「無事でした」と返答していただいた。
残る15件については、ツイートに記載されていた住所が手がかりになる。今回の災害で亡くなられた方々の名簿も参考に、記者は被災地に取材に入った。

浸水被害から4か月。真備町でも被害が大きかった地域では、まだ2階の天井近くまで泥の跡がついた建物や、窓やドアを開け放して家具を外に運び出したままの家屋が目につく。
夜になると一帯は真っ暗になり、地域に以前の暮らしが戻ってくるには相当の時間を要すると感じた。

該当の住所を一軒一軒訪ね、お会いできた方に取材の意図を説明したうえで安否を伺った結果、残る15件についても無事が確認された。これで記者が当時確認した38件のツイートすべてについて、当事者は無事に救助されていたことが確認できた。

「わからないと消防に言われたのでツイートした」

被災地の取材の中で、実際にツイートで救助を要請した30代の男性から当時の状況を聞いた。
男性は両親と3人暮らしで豪雨に襲われた6日の夜は、両親は寝室で寝ていて、男性は居間でサッカーのワールドカップを見ていたという。


「避難の情報がたくさんスマートフォンに送られてきて両親に伝えましたが、『大丈夫だろう』という感じで、すぐには避難しませんでした。しばらくたって気づいた時には家の前の道が冠水していたので、これはまずいとなり、両親をなんとか起こして2階に避難しました」

2階から119番にかけてもつながらず、部屋を歩き回ったりしている間にじわじわ水位が上がってきた。2階まで水が迫ってきたころにようやく119番につながったが、消防の話に男性は愕然としたという。

「『正直助けに行けるかわからない』と言われたんです、消防の人に。もう不安がつのるばかりで、ツイッターで救助を呼びかけました」

ついに2階まで水が押し寄せてきた。男性は窓からタンスを出してそれを台にして屋根の上にあがり、なんとか両親も押し上げて、家族3人でソーラーパネルの下で助けを待った。数時間そこで救助を待って、家族は無事に救助された。
2階の部屋の壁には、胸の当たりの高さまで泥につかった跡が今も残っている。

「住所を載せてツイートすることに不安はありましたが、ツイートすることで助けてもらえる可能性が高まると思ってやりました。
途中でツイートを見た友人から電話があって安心しましたし、『ここにいるんだ』ということが周りに知られているという安心感があったので、ツイートしてよかったと思っています」

ツイートは自治体に届いたのか?

倉敷市の公式ツイッターアカウントの担当者は、当時、救助要請のツイートについても情報を集めていた。
市の「くらしき情報発信課」で、ツイッターの「中の人」をつとめる安藤俊晴主幹に聞いた。

「市のSNSの運用では、救助要請への対応は想定していませんでした。しかし豪雨による被害が増えてきたなかで、SNSで救助を求める声があがっていることがわかりました。そこでまず、救助要請をしている人たちに向けたツイートをしました」(安藤俊晴主幹)


「市役所から自衛隊に派遣要請をしており、順次救助活動に入りますので、もうしばらく、なるべく安全な場所で待機してください」という、このツイートをきっかけに、倉敷市のアカウントに向けて直接救助要請のツイートが寄せられるようになった。

「SNSではなく119番にかけて」

安藤さんたちは寄せられたツイートを1件ずつプリントアウトして、同じ建物内の災害対策本部にいる消防局の連絡要員に渡した。
しだいに件数が増えたので1件ずつではなく一覧にまとめて伝える方法に変更し、情報を受け取った連絡要員はそれを消防局の本部に伝えていった。伝えたツイートの件数は「あわせて100件くらいだったと思います」(安藤俊晴主幹)

しかし、しばらくして消防局から「基本的にはSNSではなく、119番に直接かけるようにしてほしい」という連絡が来た。そのため安藤さんたちはツイートで119番にかけるよう呼びかけた。

これに対して「119番にかけてもつながらない」というコメントが寄せられたため、安藤さんたちは消防局内の一般回線の電話番号の一覧をツイートした。

ツイートから救助につながったかは「わからない」

安藤さんたちは救助を要請するツイートを消防に伝えたが、ツイートの情報がどのように生かされたかは把握していないという。

「情報がどう生かされたのかについての情報は、こちらには無かったんです。ただ当時は生かされるかどうかがわからなくても、目の前に情報が来ているんですから、無視するわけにはいかないです。
被災者としても119番が全くつながらない中で、なんとかして情報を届けたい、それを拾ってほしいという気持ちなので」(安藤俊晴主幹)

救助要請ツイートの情報を受けた倉敷市消防局では、どのように対応したのか。
市の消防局のシステムは、SNSからの情報についても内容を入力できるようになっている。しかし豪雨災害の当時は、119番通報だけで平均的な件数の30倍にものぼる、2,400件余りの通報が一日で寄せられていた。そのため16台あった指令台のすべてが119番対応にかかりっきりになってしまい、SNSの情報をシステムに入力できる人員がいなかったという。

「真備町に作った現地本部には、119番の情報だけでなく、SNSや一般回線から受けた情報も伝えられていました。しかし情報が重複してしまうリスクもあったし、情報の整理がしにくかった」と、倉敷市消防局警防課の山﨑敏隆主幹は語る。
「消防としてのスタンスはやはり、『119番を粘り強くかけてほしい』ということになります」

そもそも広範囲が浸水した今回の豪雨災害では、現地に救助の隊員がたどりつけないところが多かった。結果として「行けるところから順番に救助する」ことしかできなかったという。
「行けるところを進みながら、2階などにいる救助を求める人がいたら救助していくという形ですね。ですので、SNSの情報は現場には届いていて、その情報を元に現地の隊員が動いていたこともあると思いますが、その情報によって救助された人がいるかどうかまでは検証できない可能性が高いと思います」(山﨑敏隆主幹)
救助要請のツイートは、あまり効果は無かったのだろうか。

「ツイートが安心につながった」

離れた場所にいる家族のためにツイートで救助を呼びかけた男性は、救助要請のツイートには別の意味があったと話す。

東京に住む森保星児さん(39)は7月6日、たまたま真備町の実家の両親の元へ向かっていたが、雨が激しかったため岡山駅の近くで宿泊した。7日午前0時ごろ、安否を確認するため宿から両親に連絡したところ、「水がすごい、玄関の所まで来ている」と言われた。

心配でたまらず午前5時ごろに連絡を取ると、1階はすべて浸かってしまい2階まで水が来そうだと聞いて、写真を送ってほしいと両親に頼んだ。

「届いた写真を見て、これはツイッターに投稿するべきだと思って、最初のツイートをしました。救助につながればという思いもありましたが、それよりもこれは伝えなければいけないという思いが強かったと思います」(森保星児さん)

ツイートにはすぐに多くの人からコメントが寄せられた。その中には「救助してもらいやすいように蛍光色の服を着た方がいいです」とか、「目立つ色の布を物干しにくくりつけると、ヘリコプターに見つけてもらいやすい」といった具体的なアドバイスもあったので、そのまま両親にメッセージアプリで伝えていった。

「いざという時に備えてバッテリーを節約するために、電話は極力使わないように両親には伝えていました。アドバイスも電話ではなくメッセージで伝えるようにしていました。実家の固定電話は1階にあって水に浸かって使えなくなっていたので、119番などの連絡は基本的に私がしていました」(森保星児さん)

しかしなかなか電話がつながらず途方に暮れていたところ、やはりツイッターで「119番以外の消防署の一般回線の電話番号がある」と教えてくれた人がいた。倉敷市役所の安藤さんたちがツイートした情報のことだった。その電話番号がつながり、初めて消防に両親の居場所を通報することができた。

ツイッターで励ましのコメントをもらいながら両親からの連絡を待ち、夕方になって無事救助されたことを確認できた。

「ツイートを発信したことでそれを見た人から情報が来て、それを両親に安心情報として伝える。もしくは消防にこちらから伝えるというサイクルができました。また励ましの言葉をもらうだけで、ひたすら待っているつらい時間帯に安心できたという利点もありました」(森保星児さん)

専門家「緊急性の低いツイートが、8割以上」

東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は、ここ数年の災害を経て、発信する側の情報の「質」が高くなっていると話す。

「東日本大震災のころからSNSを救助要請に使う人が出てくるようになったが、当時は具体的にどこに救助に行くべきかなど、分からないものも多かった。
去年の九州北部豪雨災害では、住所やどのような人が何人救助を待っているかなど、具体的な情報が発信されるようになっています。
また今回の真備町のケースのように市のアカウントに直接伝える方法は、救助側の目にもとまりやすく有効だと思います」(佐藤准教授)

一方で関係の無いツイートも多かったという。今回の西日本豪雨の際に投稿された「#(ハッシュタグ)救助」がついたツイートを佐藤准教授らが分析したところ、2,171件のツイートのうち8割以上は、救助要請をする際の注意点を説明したものや災害の状況を伝えるものなどで、実際に救助を求める内容ではなかったという。

「被災地の外の人による緊急性の高くない書き込みが多く、本当に重要な情報が埋もれてしまっていました。『当事者以外は救助要請のツイートをしない』ことが必要です」(佐藤准教授)

多様なSOSに対応できる体制を

大規模な災害時にツイッターによる救助要請の効果が初めて注目されたのは、2011年の東日本大震災での「奇跡の情報リレー」といわれたケースだろう。

巨大地震による津波が押し寄せて孤立した宮城県気仙沼市内の公民館に、福祉施設の児童ら400人余りが取り残された。そのことをメールで知った海外にいた家族がツイッターに救助要請を投稿し、拡散したツイートを見た東京都の幹部が東京消防庁のヘリコプターを現地に向かわせ、全員が無事救助されたというものだ。

その後、大規模な災害時にはツイッターで多くの「救助要請」が投稿されるようになったが、今回の取材では、自治体の救助活動のシステムや人員がSNSの情報に対応できていなかったことが分かった。

多くの人が電話をかけて119番がつながりにくくなったとき、災害に強いとされるSNSを通じた救助要請を生かすためには、行政側はシステムと人員の体制作りが必要だ。そしてSNSユーザーにも、当事者以外の「#(ハッシュタグ)救助」は、リツイートも含めて控えることが求められている。

ネットワーク報道部記者
高橋 大地
平成16年入局。宇都宮局、科学文化部、岡山局などを経て現所属。ベイスターズと園子温監督作品のファン