“日本ならでは”のウクライナ支援とは? 軍事侵攻2年

ロシアによるウクライナへの侵攻開始から2年。
東京では「日・ウクライナ経済復興推進会議」が開かれ、官民一体となって復旧・復興を支援していく方針を確認した。日本が果たせる役割とは? 奔走する外務省や民間企業の関係者に話を聞いた。
(五十嵐淳、保井美聡、安藤和馬)

56の協力文書

2月19日、東京・大手町の経団連会館。


日本とウクライナ双方の企業関係者およそ300人が集まっていた。
壇上では、岸田総理大臣とウクライナのシュミハリ首相が立ち会う中、次のような7つの分野で、56の協力文書が交わされた。

(支援一覧画)。①地雷の除去・がれき処理②人道状況改善・生活再建③農業の生産性向上④バイオなど産業高度化⑤デジタルの展開・成長⑥電力・交通インフラ整備⑦汚職対策・ガバナンス強化

外務省の幹部はこう解説する。

「まだ戦闘が続いているので現地の活動に制約があるが、戦争が終わったあとの復興は日本の経験が発揮される分野だ。中長期的に支援を継続する仕組みづくりができた」(外務省幹部)

参加する企業は

両国の間で交わされた協力文書には、商社や大手メーカーだけでなく、日本のスタートアップ企業も多数、名を連ねた。

静岡県沼津市にある「アライドカーボンソリューションズ」もその1つだ。

植物由来の界面活性剤を製造する技術を持つ企業で、今回、ウクライナの農業法人などと原材料の調達や実証実験で協力することになった。

界面活性剤は、洗剤や化粧品など幅広い分野で活用され、石油を原料とするものも多く使われているが、この会社の製品は、植物由来のため、環境への影響を抑えられることが特徴だという。

山縣洋介代表取締役は、去年11月に政府関係者とともにキーウを訪問。
ウクライナの農業法人の協力も得て、現地で生産される菜種やひまわりの種を使ったヨーロッパ向けの界面活性剤の量産を計画している。

2022年 ウクライナのひまわり畑

長引く軍事侵攻で荒廃したウクライナの農地復興にも役立てたい考えだ。

山縣洋介代表取締役
「欧米では、界面活性剤を石油由来から植物由来のものに移行する傾向にある。畜産や肥料の添加剤に使うなど、農業での利用方法もウクライナの企業と確立していきたい」

幅広い分野で協力


建物が破壊された現地の様子

このほかにも進出を検討する日本企業は多い。

▼大手機械メーカー「IHI」

ウクライナ南西部の寸断された道路の復旧や、大規模な橋の建設に関して協力文書に署名した。
新たに建設するのは、ウクライナと隣国・ルーマニアを結ぶ橋などを想定していて、物流機能の強化を目指すという。

▼沖縄県恩納村のスタートアップ企業「EF Polymer」

工場での製品製造の様子

農地にまく「ポリマー」と呼ばれる材料の生産などに関する協力文書を現地の企業と結んだ。
ダムが破壊され、農地の水不足が懸念される中、吸水性が高く、オレンジの皮など自然由来の原料を使った自社のポリマーを普及させ、環境にも配慮しながら、少ない水や肥料で作物を生産できるようにしたい考えだ。

▼兵庫県西宮市の「セレンディクス」

3Dプリンターを使って建設した住宅

3Dプリンターを使って短時間で住宅を建設する事業に取り組む。
医療施設や公共施設の提供に向けて、現地の建設会社と協力文書を交わした。

原点はキーウで見た光景

会議の準備に奔走してきた1人が、辻清人外務副大臣だ。

去年11月 キーウ訪問 シュミハリ首相と握手する辻外務副大臣

去年11月には、日本企業10社の経営者らとともに首都キーウを訪問。
現地のニーズを把握し、協力のあり方を探るため、シュミハリ首相らと会談した。


ウクライナでは、ロシアが敷設した地雷の除去が大きな課題の1つとなっている。

地雷除去の訓練を受けるウクライナの隊員

地雷探知機50台の引き渡しも行った。

地雷探知機

このとき辻副大臣は、ウクライナの経済復興を進める必要性を目の当たりにしたという。

辻清人外務副大臣
「朝の7時半ごろに街に出ると、当たり前のように子どもたちが通学し、スーツを着た人たちが会社に行く光景がキーウ市内では見られた。確かに戦争は継続しているが、一方で経済をしっかりと支えなければならない。ウクライナ側からは協力してほしいという強い要望があった」

キーウ市内の様子

“後藤新平”

会議を控えた2月16日。

辻副大臣は外務省でウクライナのコルスンスキー駐日大使と面会した。

コルスンスキー大使
「企業間で交わす協力文書の数や中身はとてもすばらしい」

辻副大臣
「文書の数が私たちの目標をかなり上回っている。それだけ、日本企業は復興だけでなくウクライナ企業と一緒にビジネスをすることに関心がある。ウクライナには大きなビジネスチャンスがあり、それが今回の会議の議題となる。この会議は未来についてだ」

大使は、かつて東京市長などを務め関東大震災からの復興に尽力した後藤新平の名前を出し、日本が震災などの経験から得た知見や技術力に期待を示した。

コルスンスキー大使
「日本がいくつもの地震や課題を乗り越えてきたことに敬意を表する。信じられないほどすばらしい」

2人は、両国の経済関係を強化し、復興を加速していくことで一致した。

面会のあと、辻副大臣は、次のように述べた。

「日本は直接、武器を供与し戦争に加担することはできないが、国民が望んでいるのは戦争を早く終わらせて日常を取り戻したいということだ。2国間の経済関係を強化することによって復興を成し遂げることを重要視しており、政府だけでなく民間の力も活用してウクライナを助けていきたい」

女性の視点も復興に

経済復興推進会議の共同声明には「WPS」というキーワードも取り入れられた。

女性・平和・安全保障を指し、紛争の被害者になりやすい女性が紛争の予防や和平に主体的に参画することで、より平和に近づくことができるという考え方だ。

会議では、WPSをテーマにしたセッションが開かれ、上川陽子外務大臣やウクライナの政府関係者、それにウクライナから日本に避難している女性8人も参加した。

1月にウクライナを訪問し、紛争下の子どもを支援するユニセフの活動を視察していた上川大臣は、WPSの視点を復興支援に取り入れることが重要だと力を込めた。

1月 ウクライナで視察する上川外相

上川陽子外務大臣
「ウクライナが再び美しい大地を取り戻し、国全体が活力ある成長を遂げるためには、女性のリーダーシップ、未来を担う子どもたちの力が不可欠だ。女性や子どもを含むウクライナの人々に寄り添い、WPSの視点を踏まえた具体的な取り組みを推進していく」

安全確保が課題

ウクライナの復興に向けて、震災などの経験から得た知見や技術力が期待される日本。

今後、協力文書の内容に基づいて、日本企業が現地に進出していくことが想定されるが、その際、課題となるのが安全の確保だ。

1月に上川外務大臣がキーウを訪問した際も、突然、空襲警報が鳴り響き、同行記者やスタッフが急きょ地下シェルターに避難する場面があった。

今回、外務省は、企業側からの要望を踏まえ、ウクライナ全土に出している「退避勧告」は維持したまま、復旧・復興支援に携わる企業・団体関係者が首都キーウに渡航する場合に限って、渡航制限を緩和した。

キーウの街路

省内には「人命が第一」だとして、緩和に慎重な意見もあったというが、防空システムが機能しているキーウのみを対象に渡航を緩和することとした。
各企業が安全対策を講じた上で、渡航の2週間前までに連絡先や宿泊先など渡航計画を届け出ることになっている。

外務省は、安全対策などについて相談窓口を設置し、現地での企業活動を後押ししたい考えだ。

今回の会議では“日本ならでは”の支援という言葉が多く聞かれた。
ロシアの侵攻が長期化し、欧米各国の間で、ウクライナへの支援が先細りすることも懸念される中、日本が復興に貢献し、国際的な機運を高めることができるのか。
日本の役割が問われるのはこれからだ。

(2月19日 ニュース7などで放送)

政治部記者
五十嵐 淳
2013年入局。横浜、山口、広島局を経て政治部。現在は外務省クラブで外務大臣番、欧州地域など担当。ウクライナに大臣同行で2度訪問。

経済部記者
保井 美聡
2014年入局。仙台局、長崎局を経て現所属。現在は通商分野の取材を担当。
政治部記者
安藤 和馬
2004年入局。山口局、釧路局などを経て政治部。外務省キャップを務める。