議会の位とは何なのか

「議場をばかにしちゃいかんよ!」
「ルールを守らないやつは発言するな!」
9月28日の熊本市議会。ある議員がのどあめを口に含んだまま質疑を行ったことで、議場は騒然となった。
問題となったのは「議会の品位」。そこで今回、議会においての「品位」について考えてみた。
(ネットワーク報道部 郡義之/熊本局 杉本宙矢)

のどあめ

8時間にもわたって審議が中断した熊本市議会。

かぜを理由に、のどあめを口に含んだまま質疑を行った緒方夕佳議員に、議長らが指摘したのが、「議会の品位を規定した規則に抵触するおそれがある」というものだった。

市議会では懲罰動議が可決されたが、緒方議員は謝罪要求を拒否したため、出席停止処分を受けた。

礼儀・礼節の問題

そもそも、熊本市議会には、審議を円滑に行うための「会議規則」というルールがある。149の条文からなり、会議を進めるための手続きなどが細かく書かれている。

その中に、議長らが指摘した部分に該当する「議員は、議会の品位を重んじなければならない」という条文があった。一方、今回指摘された飲食に関する禁止事項はない。

では、「品位」とは何か。

国語辞典を見ると、「人や事物に備わっている気高さや上品さ」などと解説されている。

緒方議員はNHKの取材に対し、「聞き苦しくならないように薬用のどあめをなめていただけだ。議会が8時間も中断したことは非常に残念だった」と話す。

一方、熊本市議会の原口亮治議会運営委員長は「あくまで、一般的な社会常識と議員としての礼儀・礼節の問題で、相談もせずに演壇でのどあめをなめたのは不適切だ」と話している。

ネット上では

今回の問題にネット上では、さまざまな反応が見られた。

まずは、議会そのものへの批判。
「のどあめをなめていた女性議員を懲罰動議にかけ、可決したことが、何よりも議会の品位をおとしめている」
「のどあめをなめると品位がない…。居眠りしているのは品位があるのか?」などと、厳しい意見が相次いだ。

一方で、緒方議員への意見。
「どこの会社でも、あめをなめながらプレゼンする人間はおらんやろ」
「議会への敬意と、ルールを守る態度が欠けていたことが問題」
「のど飴なめるなら、会議前にやるでしょ」

どちらにも非があるという指摘も。
「私が議員でのどが痛いなら別の手段で対処するが、『マナー違反だ!』と騒ぎ立てて8時間も議会を中断させる連中も大変マナーが悪い」
「あめ玉のコロコロの音は生理的に嫌だけど、この議会の対応も生理的に嫌なんだよなあ。なんかどちらの肩をもつ気にもならん」

実は過去にもあった

議会と品位をめぐる問題。実は今に始まった話ではない。過去にも、全国各地の地方議会で、こうした問題が起きていた。

例えば、青森県の三沢市議会。

今から約20年前の平成8年、当時の男性議員がスラックスとワイシャツ姿で本会議に出席している事に対し、ほかの議員から「議会の品位が損なわれる」という指摘を受けた。

このため、市議会は、男性議員に上着とネクタイの着用を義務づける「服装規則」を制定。その後、ことし6月の定例市議会からは、ノーネクタイでの軽装が期間限定で認められたものの、「服装規則」は今も残っている。

三沢市の議会事務局の担当者は、「常識を持ちながら、真剣な議論を行ううえで、外見上も身なりをきちんとしておくことも品位なのだろうと思います」と話す。

また、別の県議会では、プロレスラーの男性議員がトレードマークの覆面をつけたまま、本会議に臨むかどうかで議論になったこともあった。

品位の解釈「難しい」

調べれば調べるほど、謎が深まる「品位」という言葉。

実は全国の市議会が会議規則を定める際の見本となる条文があった。

「標準市議会会議規則」というものだ。

全国市議会議長会(東京)が昭和31年に作ったもので、その中に、「品位の尊重」という文言を見つけた。なぜ、このような文言が入ったのか。

全国市議会議長会は、当時のことはわからないとしながらも、「議員は良識や常識を持って、仕事をしていることが前提だが、品位のボーダーラインを示すことは難しい。標準の規則はあくまで参考のためであって、地方分権の中にあって、画一的なものを見せていくのは違和感がある」としている。

うーん、ますます、難しくなってきた。

専門家「事の本質を」

そこで、地方議会制度に詳しい、山梨学院大学法学部の江藤俊昭教授に尋ねてみた。

江藤教授は、議会の大前提として、住民に開かれた空間で、自由に発言できる議会をどう作るかが大事だと強調したうえで「最初から決められたルールをずっとやっていって、逸脱すれば、『品位を損なう』というのは、学芸会的な議会運営になってしまっている。あめをなめたかどうかというのは、極めてさまつな話。時々寝てしまったり、議事を妨害する行為もある。何が議員の品位として求められているのか、今一度、事の本質を議論する時だ」と話した。

また、カナダの最大都市トロントの議会では、飲み物や食べ物を自由に口にしながら議論している例を挙げ、「もう少し自由さを取り入れることを、そろそろ考えていく必要がある。時代に即した会議規則の改定というのが必要ではないか」と訴える。

結局、議会の品位って

地方議会は、私たちの貴重な税金を使って、まちの将来を決める重要な場所。だからこそ、むだがなく、一点の曇りもない議会運営をすることが求められているはずだ。

決められたルールを守ることは大事だが、のどあめをなめたことで処分にまで発展した出来事は、住民の目にはどう映ったのだろうか。

さまざまな地方議会の姿からかいま見えた「議会の品位」。

江藤教授は、私たちの取材にこんなことを話してくれた。
「議場でしっかり議論する姿勢こそが、『議会の品位』。住民に議会が開かれ、そして尊敬される。新しい時代にこそ、新しい議会を作っていく必要があると思う」

とらえ方が十人十色の「品位」という言葉。どれだけ実を伴って、住民の付託に応える議論をしていくのか。

ぼんやりした言葉の中で、かすかに見つけた答えのような気がした。

ネットワーク報道部記者
郡 義之
地方紙記者を経て平成22年入局。前橋局、釧路局を経て29年から現職。ネットニュースなどを担当。
熊本局記者
杉本 宙矢
平成27年入局。県警担当、阿蘇支局を経て現在、熊本市政を担当。