【NHKスペシャル】 私たちのこれから Our Future
#超少子化

論客が考える!超少子化

さらに詳しく知るためにこちらで解説します。

「少子化」は
変えることができる

本気度が足りなかった政策「少子化」という言葉が使われるようになった1990年代前半、政府は最初の少子化対策である「エンゼルプラン」を作成しました。その後も、2000年代前半にかけて、いくつかの対策を講じました。しかし、合計特殊出生率の低下という「少子化の流れ」を変えることはできませんでした。その一番大きな理由は、戦後の2回の「ベビーブーム」の経験があげられます。この頃は、特別の政策をとらなくても、出生率が高く、多くの赤ちゃんが生まれました。したがって、少子化対策にたくさんの予算をかけなくても、いずれ2000年前後に「第3次ベビーブーム」が来るだろうと、多くの人が考えていました。また、日本の人口は大すぎる、少しくらいは減ってもよいのではないかという意見も見られました。結局、1990年代の少子化対策は、経済的支援が乏しいなど、不十分なものでした。

76対5.5
日本の社会保障給付費(社会保障制度を通じて国民に支給される金額の総額)をみると、高齢者向けがおよそ76兆円、児童手当や保育所等の子どもや家族に対する給付額は、およそ5.5兆円です。「76対5.5」という数字が、子育てに対する社会的支援が小さいことを示しています。日本では、「子育てと教育は家庭の責任」という意識が強く、子育て支援や教育に対する社会的支援の額の対GDP比が、西欧諸国と比較して、大変小さいのが現状です。

しかし、日本の総人口が減少するという「人口減少社会」が到来した現在、いつまでも低出生率でよいのかという問題が明瞭になってきました。労働人口や消費者人口の減少による経済の低迷、年金・医療保険等の社会保障制度の持続可能性への懸念、地域の活力の低下など、社会の基盤が揺らいでいきます。「消滅可能性都市」という言葉が現実のものとなるかもしれません。
少子化対策のあり方
少子化対策の目的とは、(1)若い世代が結婚して子どもを生み育てやすい環境をつくること、(2)生まれてきた子どもを健全に成長させることです。そのためには、「単品」の政策ではなく、総合的な政策の展開が必要です。(1)育児費用や教育費の負担軽減を図る経済的支援の充実、(2)保育所や放課後児童クラブの増設などによる子育て支援サービスの充実、(3)仕事と育児の両立を図る「ワークライフバランス」の推進、(4)若者の就労支援、(5)子どもや子育てを社会全体で支援するという意識改革、これら5つの分野で若い世代のニーズに合致した政策を立案・推進することが大事です。

すでに多くの政策が行われているようにみえますが、まだまだ不十分です。たとえば、保育所の待機児童問題がいまだに解決していません。待機児童が生じた地方自治体は、その年のうちに待機児童をなくすような取り組みが必要です。育児費用の負担軽減では、所得の多寡にかかわらず、2番目・3番目の子どもの保育料の減免、教育費の負担軽減では、奨学金の貸与制度だけではなく、給付制の奨学金や返済免除の仕組みの創設が考えられます。ワークライフバランスでは、男性の育児休業取得率を高めるために、育休取得を義務化したらどうでしょうか。

これらの政策を実施しようとすると、多くの財源が必要となります。日本では、子育て支援への社会保障給付の水準が低い状態にありますから、工夫する余地は十分あります。政府は、消費税引き上げの増収分から年間7千億円を子育て支援にあてるとしています。さらに、医療費や介護費用などの高齢者向け給付の伸びを抑制して、それにより生じた財源を子育て支援に充てるという方策が考えられます。また、子育て支援政策が充実しているフランスでは、家族手当等の財源として、企業は従業員の賃金総額から5.4%を全国家族手当金庫に拠出しています。日本では児童手当に対する企業の拠出金は、賃金総額の0.5%にすぎません。子どもが将来の労働者や消費者になることを考えれば、企業の社会的貢献のひとつとして、拠出金の割合を引き上げて子育て支援の財源を拡充する案を提案します。
「少子化」は変えることができる
現在では出生率が高いフランスやスウェーデンでも、1980年代には当時の日本と同じくらいの水準にまで出生率が低下していました。けれどもその後、経済的支援や保育サービス充実等の政策により、反転上昇させました。日本でも、低出生率を変えていくことは決して不可能ではありません。その際、「少子化対策」というと、国民全体からは、出産や子育てという一部の世帯向けの政策とみられます。

ヨーロッパでは、「少子化対策」という言葉は使われず、子育て世帯や家族を支援する「家族政策」(ファミリーポリシー)という言葉が使われます。日本でも家族の基盤や家族のきずなを強化する「家族政策」として政策を展開した方が、多くの国民から支持を得られることでしょう。さらに、「子ども家庭省」あるいは「家族省」を設置して、家族政策を強力に推進していく体制を整えるべきであると考えます。

増田 雅暢
岡山県立大学教授 専門は、社会保障政策論。81年厚生省に入省。04年から内閣府参事官として政府の少子化対策を担当。埼玉県出身。