2022年度 第43回
BKラジオドラマ脚本賞 審査結果

NHK大阪放送局(BK)主催の「2022年度第43回BKラジオドラマ脚本賞」は、年齢は20歳から81歳まで、115篇のご応募を頂きました。その中から、厳正な審査の結果、下記の作品を最優秀賞と佳作に選出しました。

審査員は、宮村優子(脚本家)、オカモト國ヒコ(劇作家、演出家)、新井まさみ(脚本家)、陸田元一(NHK大阪放送局コンテンツセンター第3部 統括プロデューサー)、小島史敬(NHK大阪放送局コンテンツセンター第3部 チーフ・ディレクター)の5名です。

この脚本賞は1980年から始まり、受賞者の中からは、BK制作の連続テレビ小説の脚本『ええにょぼ』を担当した東多江子さん、『芋たこなんきん』の長川千佳子さん、『舞いあがれ!』の桑原亮子さんをはじめ、『ゲゲゲの女房』『八重の桜』の山本むつみさんなど、テレビやラジオで活躍している多くの作家が誕生しており、次代を担う新人作家の登竜門として高く評価されています。今回の審査員、新井まさみさんも入賞者のお一人です。

なお、最優秀賞の『赤いあと』は、50分のラジオドラマ番組「FMシアター」として制作しNHK-FMで全国放送の予定です。

最優秀賞

『赤いあと』

高橋百合子(たかはしゆりこ)

神奈川県出身、在住
大学卒業後、医療機関の事務に就き、現在シナリオセンター通信研修科に在籍
函館港イルミナシオン映画祭2021年シナリオ大賞審査員奨励賞受賞

高橋百合子

大阪で暮らす加納幸乃(54)は、末期ガンの夫・加納健治(55)の入院見舞いに通う日々を送っている。ある日、妊娠中の娘・相田未希(28)と買い物中、幸乃は赤い観覧車の近くで、首筋に赤いアザのある女性の後ろ姿を見かけ、釘付けになる。その女性は、健治が二十年前に浮気をしていた立花美里(56)にそっくりだった。その日、健治の病室を訪れた幸乃は、窓際に飾られた真っ赤なバラを目にし、健治がまだ美里と続いているのではと疑う。家に帰り、健治の洗濯物を洗っていた幸乃は、二十年前に幼い未希と乗った観覧車から見た、腕を組んで歩く健治と美里を思い出す。そしてスナックで美里の乾いた目や赤いアザを盗み見たことも。

ある夜、幸乃は昔の姿の幸乃と美里が観覧車で向かい合う夢を見る。幸乃は健治のことを愛しているのかわからない、美里のことが気になってしまうことを伝える。そして幸乃は美里のアザに唇をつける。そこで夢が終わると、健治の危篤を知らせる電話が…。

想像力を刺激され、ビジュアルをうまくイメージさせる作品であり、この作品独特の世界観も感じられたことで、今回の応募作品の中では、最優秀の作品と高評価が集まった。

佳作

『天空のふたり』

阿部奏子(あべかなこ)

大阪府出身 奈良県在住
大学卒業後、建築設計業の職に就き、シナリオコンクールへの応募を続ける
現在、シナリオセンター大阪校作家集団所属 2021年度BKラジオドラマ脚本賞佳作受賞

阿部奏子

関根チカ(6)は家族の運転で、奈良と大阪の境に位置する生駒山の麓にある『シロガネ園』に突然連れて来られた。不機嫌なチカに園長のまり子やユキ(8)は優しく、トモヤ(8)からは『お嬢』とあだ名を付けられる。だがシンノスケ(7)だけは何かと突っかかって来た。トモヤらはチカの首に蛇のような形のアザを見つけて騒いだが、チカにはそれがいつ付いたものか記憶は全くなく、不安を覚える。

環境に少し慣れた頃、チカはおねしょで目を覚ます。まり子に見つかり、怒られることはなかったが、朝食の席で「寝ションしやがって」とシンノスケが呟く。自室に引き籠っているチカの元にシンノスケが来る。謝るかと思いきや、チカからオルゴールを奪い投げつける。宝物を壊されたチカは、絶対許さないと涙を流すが、面会日に他の入園者の家族を見て泣くシンノスケの孤独に触れ、心からの謝罪を受けた為にチカは許した。

以前からチカは山肌に走る光の帯が気になっていた。それは山頂まで続くケーブルカーの照明で、天辺に遊園地があるという。行きたがるチカに他の者も賛同し、遊園地にケーブルカーで向かうことに。90年以上の歴史がある飛行塔のゴンドラにユキと乗り込んだチカは、母の園美と乗った記憶が蘇り、思わず「お母さん!」と叫ぶ。混乱の中、乗り物から降りた直後、激しい雨が降り出す。雷が落ちる中、娘の容子とも昔乗っていた記憶が蘇る…。

関西の土地の雰囲気をイメージさせ、仕掛けがうまく作られている意欲作と感じられたが、音での表現には難しく、後半への展開が弱く感じられ、工夫をうまくすればもっと完成度の高いものになったのでは。

佳作

『サンジェルマン伯爵とのうろんな夏』

佐野光陽(さのこうよう)

静岡県出身 愛媛県在住
仕事の傍ら、自主制作でオーディオドラマの作・演出をしている
令和3年度NHK名古屋放送局創作ラジオドラマ脚本募集佳作受賞

佐野光陽

安藤太一(20)は人生に迷っていた。大学に入って大阪に来たものの、学生生活につまづき、キャバクラ嬢の椎菜(24)に惚れてしまい、バイトばかりしては夜の店に通う日々が続いていた。

そんな時、自らを十八世紀の錬金術師・サンジェルマン伯爵と名乗る奇妙な男と出会う。男は安藤の「恋の相談」にのるという。二人はキャバクラ店に行き、安藤は椎菜を指名し、伯爵にはきらり(24)という嬢がついた。

後日きらりから、椎菜が吹田に住んでいることを聞きだした二人は吹田駅前に張り込んでいると、椎菜が恋人と思わしき男と会っている姿を目撃する。そこで二人は偶然にも特殊詐欺事件の犯人を取り押さえることになるが、それがきっかけで吹田にいたことがバレてしまい、安藤は椎菜からシングルマザーであること、先の男と同棲していることを明かされ、プライベートのことは放っておいてほしいと告げられる。いまいち煮え切らない安藤を、伯爵は「うろん」だと言い、そして自分は人生に迷っている人間をそそのかし、動かすことで、その姿をまるで舞台を観るように楽しんでいるのだと挑発するように明かす。意を決した安藤は、椎菜に結婚を前提に付き合ってほしいと告白するが…。

関西を不思議な空間のようにとらえた物語のように思え、セリフの面白さは感じられたが、伯爵の設定などが甘く感じられ、かつテーマや伝えたいものへの熱量が薄かったとの声が多かった。

最終審査対象10作品(受け付け順)
『私は悪くありません』 松田裕志(兵庫県)
『巻き道』 森野東子(神奈川県)
『サンジェルマン伯爵とのうろんな夏』 佐野光陽(愛媛県)
『終わりよければすべてよし』 藤江洋一(東京都)
『天空のふたり』 阿部奏子(奈良県)
『お腹の虎が疼きます』 福丸慎弥(東京都)
『緑の旗』 菊地耕史(神奈川県)
『愛しくて不確かな約束』 森田志保子(神奈川県)
『迷い鳩』 綴喜るん(神奈川県)
『赤いあと』 高橋百合子(神奈川県)