やまとの季節

2019年09月25日 (水)

やまとの季節 七十二候「彼岸花に 染まる」

「ならナビ」9月25日放送 

映像作家・保山耕一さんが、NHK奈良放送局「ならナビ」に、「やまとの季節 七十二候」をテーマとした極上の映像詩を届けてくれています。音楽は、スペインで活躍するピアニスト・川上ミネさんが、奈良で100年近くの時を刻んできたピアノで、オリジナル楽曲を奏でています。 


七十二候「彼岸花に染まる」 秋分・初候 


保山耕一

TBS世界遺産などで活躍してきたフリーTVカメラマン。6年前、がん余命宣告を受け、治療中に「奈良には365の季節がある」をテーマに奈良県各地の撮影を始める。日々、奈良の空や光、花、月、寺、などを撮影し、SNS発表・上映会を続けている。

川上ミネ

スペインと京都を拠点に活動しているピアニスト・作曲家。「ラジオ深夜便・ピアノが奏でる七十二候」、Eテレ「やまと尼寺精進日記」などの音楽を手がけている。昨年、春日大社奉納演奏会を機に保山氏と出会い、「こころの時代」でコラボレーション。この秋、「やまとの季節 七十二候」の新たな作曲・演奏をスタート。

奈良ホテル・100年ピアノ

1922年、スタインウェイ社のハンブルグ工場(ドイツ)で製造。1926年、奈良ホテルの調度品として鉄道省によって購入された。 


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やまと七十二候 「明日香の彼岸花」

保山耕一

私の中で、彼岸花が咲くといえば、墓地。怖いイメージです。

 「彼岸花を切って部屋に飾ると火事になる」という言い伝えを子どもの頃聞かされた。
 奈良の南部の人は、彼岸花を「幽霊花」と呼ぶらしい。
 「屍人草」と呼ぶこともあるという。
 毒草である。

 近ごろ、秋になるとあちこちの町や村で「彼岸花(曼珠沙華)まつり」が行われています。観光客誘致のためのポスターの図案が「抜けるような青空 と一面の彼岸花」だったり。暗いイメージが貼り付いていた彼岸花は、今やハイキング客に愛でられる明るい「秋の花」として、観光資源の務めを果た している感があります。
 今回の映像のファーストカットに、現代の人が好む「青空と田んぼのあぜ道に咲く彼岸花」を選んだのは、時の流れで価値観が変わっていくことを現したかったから。もちろん、変化を批判しているのではなく。現代のみんなの彼岸花に対する思いはこうかな!?という絵です。
 
 どんなものでもいろんな見方で撮れてしまう。ドキュメンタリーと一緒で、明るい部分だけを撮ろうと思って撮影すれば明るい絵ができる。暗い部分も同じ。明るくも暗くも被写体の正体ですが、全体を平均に撮ることはありません。これまで何度も彼岸花を撮影してきましたが、怖い風情が出るように撮った時は、あとで見てもぞっとする絵になりました。
 あと、撮る側のその時の気持ちも影響します。気持ちが明るかったら明るいところに目が行くし、すごく落ち込んでいたらそんな映像になる。ものの見方にはこれが正解です、というのは無いのがおもしろい。

 たとえものすごくきれいな景色でも、自分の気持ちにピタッと合わなかったら、撮りたいとも何とも思わない。すごく魅かれるのは、自分の精神的な ことと被写体の波長が合った時。病気になってからは自分の気持ちが上がったり下がったりで、肺の影が無くなったと言われたら明るい気持ちになって明るい面ばかり見られる。二、三日経って、影が無くなったのに何でこんなにしんどいんやろ?と思いだすと、暗いようにしか見えなくなったり。本当に暗くてどん底の気分になったら、それより下は見られへんからあえて上を見ようとしたり。病気をしてからは気持ちがジェットコースターみたいで、 ものの見え方も前とは随分変わったと思う。
 
  ロケで奈良の南部の方へ行った時、山のちょっと荒れた所に彼岸花がたくさん咲いてるのを見つけました。なぜ、田んぼのない山の中に、彼岸花が 群生しているのか。村の人に聞いてみると「人家が建っていた所で、彼岸花はその名残。こんな場所はいくつもある。昔は山奥にもいっぱい家があったんやで」と。彼岸花は自生することがないそうで、最初は必ず人が植えているのだと教えてもらいました。

 かつて山奥には、今よりも多くの家が建ち、人の暮らしがあった。
 いつの頃からか、人は山の家を出てそれきり戻らないことが多くなった。
 あるじをなくした家は朽ち、次第に崩れ、ついに跡形も無くなった。
 後には人が植えた彼岸花だけが残った。

  

(聞き書き:伊藤享子)


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■ コメント(24)
  • 武田和子

    2019年09月25日 18時30分

    「明日香の彼岸花」

    収穫を待つ田んぼのあぜ道に沿って咲く鮮やかな彼岸花。
    自然の美しさを感じる里山の風景は穏やかで、なんとのどかなことでしょう。

    川上ミネさんのピアノの調べと明日香村の棚田の美しさに魅了されました。

    私は関東人ですが、奈良とくに明日香村の美しさには心惹かれます。
    この日本の原風景を未来にも継承して頂けますように祈ります。

    素晴らしい映像を放送して下さり、心より感謝しています。

    次の放送も楽しみにしています。

  • 安藤憲一郎

    2019年09月25日 19時11分

    綺麗、心に染みる。彼岸花は里山の、日本の原風景です。もっと長い時間で見ていたい。奈良にお住みの方だけでなく、日本全国の人に日本はこんな綺麗なところだと伝える為にも全国放送をお願いします。

  • 永野聡子

    2019年09月25日 20時09分

    保山さんの映像もいいですが、このブログに載っているコメントもとても良いです!

  • 澤井由美子

    2019年09月25日 20時29分

    素晴らしかったです。
    全国で放送していただきたいです。

  • 朝陽

    2019年09月26日 02時45分

    関西ブログで保山さんの映像が見れて 嬉しかったです。ありがとうございました。虫の音 田んぼに彼岸花 忘れてしまいそうな 子供の頃の記憶が戻ります。そして 若い方達も この日本の美しさを感じて欲しいと思いました。

  • 荒木良二

    2019年09月26日 06時37分

    細部にまで、心を込めて撮影されており、保山さんの映像には何時も心が洗われます。もっと、NHKで放映していただきたいものです。

  • 坂井 節子

    2019年09月26日 06時50分

    『ならナビ』毎水曜日PM6:30の中 やまとの季節七十二候をPCにて拝見しました。
    映像作家 保山耕一さんを知ってから奈良の落ち着いた美しさに感心しています。

    整然と並んだ彼岸花の後ろに見える山の名前は? 神様の御座します古の山でしょうか。
    瓦屋根の民家 彼岸花のUPは芸術的にも見えます。
    川上ミネさんのピアノも重厚な音の中に優しくソフトな流れが映像にマッチしていると
    思います。
    残念なのは全国ネットで見たい!! 映像時間が短い!! という事です。

  • 香川 しのぶ

    2019年09月26日 07時31分

    穏やかな映像と柔らかな音色、奈良の四季の一部を切り取った感が、たまりませんね。奈良に住めども・・気づかぬ風景だと思います。時間に追われバタバタする日常では、気づけない景色。フッと立ち止まった時、目にうつる景色・四季を感じさせる映像、残して欲しい❗️残さなきゃ~と思える景色ですね❗️

    これからも楽しみにしております。夕方の一時、心休まる時間・・映像や音楽とともに❗️

  • 佐々木美保子

    2019年09月26日 15時09分

    素晴らしい映像と音楽、感動と感謝です。ブログでのお話もおもしろく、楽しませていただいてます。大阪にいるため、テレビで見る事ができないのが残念です。是非もっと多くの方が見る事ができるように、関西や全国ネットで放映してください。また、時間も拡大もお願いいたします。

  • 宮原 麻美

    2019年09月27日 04時25分

    色彩を描くことのできるミネさんのピアノ
    風や匂いを感じることのできる保山さんの映像…
    なんと贅沢なひとときなのでしょう
    遠い記憶が心の奥から湧き出てくるのを、いとおしく味わっていました。
    今回も素晴らしい作品をありがとうございます。
    全国放送を心から願っています。

  • まちこ

    2019年09月28日 11時12分

    保山さんの映像と川上ミネさんの音楽、毎水曜日の放送を家族で心待ちしています。
    特に、今回の三輪山は、地元に住む者にとって、かけがえのない映像でした。
    神の山三輪山とお月さま、神々しい風景でした!

  • 浅田昌子

    2019年09月28日 11時26分

    今週も素晴らしかったです。
    もっと長いと嬉しいですが、今週は映像の前後に間をとって下さっていたので、短くても落ち着いてみられて、映像の魅力をよりじっくりと感じることができました。
    ふだんは全国ニュースを見ていますが、このコーナーを楽しみに水曜は奈良のニュースを見るようになり、地元の話題を知ることができて、ますます奈良が好きになりました。
    奈良育ちの者にはみなれた風景、それでもこれだけ感動するのですから、このシリーズを世界のかたが見ればどう感じられるでしょうね!今後が楽しみです。

  • 堀尾岳行

    2019年09月28日 21時16分

    彼岸花は人の耕作と共に広がって行った花ですが、秋に彼岸へ渡るための祈りの花だったのかもしれませんね。保山耕一さん映像が奈良の風景を丹念に切り取って私たちに見せてくれています。次回も期待しております。

  • 永井有子

    2019年09月29日 01時38分

    この上ない心の贅沢を頂いております。

    どうして自分はこれほど奈良が好きなのか、
    なぜ必然のようにこの地に住むと決めたのか?

    その答えが、この保山さんの映像にありました。
    一瞬も見逃さないよう拝聴しております。

  • 田中弘子

    2019年10月04日 21時57分

    三重県松阪市に住んでおります。奈良ナビは三重県からは視聴出来ないので、関西ブログで1日遅れて…やまとの季節 七十二候を見せて頂いております。一瞬一瞬の煌めく様な保山耕一さんの映像と 百年ピアノの深い響きに感動しています。季節の移ろいの美しさを感じる時…。こんなに美しい日本で生きている…生かされている事の幸せと感謝が溢れます。多くの方々にこのやまとの季節を見て頂きたいです。どうか全国放送をして頂けたらと願っております。

  • 青井三保子

    2020年09月26日 20時21分

    彼岸花!
    ある日突然のように花が咲く!
    保山さんの映像詩に「あっ!もう咲いているんだ!」
    と、気づかせてもらう!
    小さき命に目を向ける!
    その仕草に目を奪われる。
    優しき心に癒される。
    これからも、いつまでもよろしくお願いします。
    ありがとうございます。

  • 片山和美

    2021年09月20日 12時07分

    日々の慌ただしさをリセットしてくれる映像を何時もありがとうございます
    流れるよな時間の中でふと立ち止まる一瞬が何時もここにはあります
    たった2分ですが次に気持ちを切り替えるまでのほんの少しの休まりがあり心豊かになってまた頑張れます
    ありがとうございます
    NHK様にも何時も放送ありがとうございます
    これからも放送よろしくお願いします

  • 小黒江利子

    2021年09月20日 12時21分

    私も子どもの頃からずっと好きではなかった彼岸花。子どもの時は毒々しいとか、お墓にばかり咲いているとか、どこかの部分に毒があるとか聞いたことがあったので。
    それでも、昨年たまたま一輪咲いていた曼珠沙華の、すくっと立ち繊細なレース作りのような美しさに、心を奪われ、自然の造形の傑作だなあと思うようになりました。
    保山さんの映し出す彼岸花の赤は美しくどこか愁いを湛えているようです。ちょっと彼岸花にこれまでごめんね、と言いたくなります。

  • ニワマサコ

    2021年09月20日 13時33分

    関西ブログで拝見しています。
    彼岸花が咲いていることに気づきもせず、秋を迎えておりました。
    保山さんの映像は私の生活の歳時記になっています。
    ありがとうございます。

  • 中山真澄

    2021年09月20日 16時13分

    NHKさま、ずっと以前の19.9.25放映の『やまとの季節七十二候』「彼岸花に
    染まる」にコメントさせて頂いてよろしいでしょうか。
    まず、染まるの文字が赤になっていることに、なんと繊細な演出かと、保山耕一さんの細やかさに心を打たれました。
    関東在住で、リアルタイムでは勿論拝見することはできず、パソコンの扱いにも疎かった私は、この5月からやっと関西ブログさんで拝見しています。
    その後、遡って過去の『やまとの季節七十二候』を拝見し、こんなにも美しい
    映像があるのか、とすっかり虜になってしまいました。
     黄金色の水面の大きな水紋に細やかに仏さまの影が揺れているように見える
    のはどちらの池(?)なのでしょう?
    子どもの頃には、その色にちょっと恐れをなしていた彼岸花。
    今は年齢のせいか、まるで神さまがお造りになったかと思わされるその繊細さに感じいっています。
    先日川べりを歩いていて土手に咲いているのを見つけました。
    赤は勿論、白色のまでありました。
    思わず近寄り、その蕊を1本、2本と数えてしまいました。
    保山耕一さんの映像は、胸の奥にある遠い昔の思い出を呼び起こしてくれて、
    懐かしさでいっぱいになります。
    「聞き書き」を拝読し、その時々の保山耕一さんの撮影に臨む姿勢、対象を
    見つめる眼差し、お人柄などを感じさせられました。
    いまこの欄はなく、また復活して頂ければ嬉しゅうございます。
    映像は、私に子どもの頃の故郷での色々なことを思い出させてくれました。
    このような映像を届けてくださる保山耕一さん、その映像を静かに引き立てる
    川上ミネさんのピアノ音色。そして、何よりも放映してくださるNHKさまに
    感謝申し上げます。
    どうぞ、いにしえの都、奈良の風景を映すこの映像詩を今後もずっとお観せ
    くださいますようお願い申し上げます。


  • にこまる

    2021年09月20日 16時41分

    保山さんの映像の虜になり、過去のものを見られることに感謝しております。

    燃えるような赤い彼岸花。
    夕焼けの赤と競い合っている気がする映像ですね。
    空の青と稲穂と赤の対比が美しい。
    また1つ、行きたい場所が増えました。
    ありがとうございます。

  • 戸田克子

    2021年09月21日 22時18分

    人が心の奥底に抱えているものを照らし出してくれる映像でした
    ピアノ演奏はもちろん、保山さんの小さい頃の思い出話や、価値観の変遷、心の有り様によって撮り方が変わってくるというお話も、より一層深みを与えています。
    ずっと放送されることを希望します。

  • 矢島裕子

    2021年09月23日 01時13分

    彼岸花は突然咲いて、インパクトのある花なので、金木犀の香りと前後して、秋がきた!とわかる花ですね。最近は家の庭や公園でもみるようになりました。
    保山さんの手にかかると、花の個性が際立つというか、一番きれいに見えるように撮ってもらえるので、たぶん花もうれしいでしょう。
    聞き書きに、対象と波長が合う話が出ていて、ああやっぱりと思いました。花や木や草、水、空、風。自分の気持ちが重なった時は胸にこみあげるものがあります。
    七十二候は毎回、いい時間をいただいています。
    東京で保山さんの映像詩は、NHK地上波で深夜3時台に不定期に放映されていますが、もっと多くの人に見てもらいたいなと思います。

  • 鳳仙花

    2021年09月23日 17時13分

    ちょうど二年前の明日香村の彼岸花、今年もきれいに咲いているでしょうか。
    青空と稲穂と彼岸花も素敵ですが夕日のシルエットの彼岸花が心に残りました。
    保山さんのコメント、興味深く読ませていただきました。
    私たち視聴者を念頭に置き期待に応えながらなおかつ伝えたいメッセージも込めての映像詩、さらにご自身の体調や気持ちのゆらぎのなかで放送までに定まらないこともあるのではないでしょうか。
    見え方が違うとか撮る気にならないとかほんとうにそうだなと思います。
    今も保山さんの思いは変わらないのでしょうか。今は芸術そのものといった感じがします・、
    保山さんが映像に込められた思いをなるべく多く受け取れたらと思います。
    現場でのエピソードは復活していただけたら嬉しいです。

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