2019年09月18日 (水)
やまとの季節 七十二候「三輪山に いでし月」
「ならナビ」9月18日放送
映像作家・保山耕一さんが、NHK奈良放送局「ならナビ」に、「やまとの季節 七十二候」をテーマとした極上の映像詩を届けてくれています。音楽は、スペインで活躍するピアニスト・川上ミネさんが、奈良で100年近くの時を刻んできたピアノで、オリジナル楽曲を奏でています。
七十二候「三輪山に いでし月」 白露・中候
保山耕一
TBS世界遺産などで活躍してきたフリーTVカメラマン。6年前、がん余命宣告を受け、治療中に「奈良には365の季節がある」をテーマに奈良県各地の撮影を始める。日々、奈良の空や光、花、月、寺、などを撮影し、SNS発表・上映会を続けている。
スペインと京都を拠点に活動しているピアニスト・作曲家。「ラジオ深夜便・ピアノが奏でる七十二候」、Eテレ「やまと尼寺精進日記」などの音楽を手がけている。昨年、春日大社奉納演奏会を機に保山氏と出会い、「こころの時代」でコラボレーション。この秋、「やまとの季節 七十二候」の新たな作曲・演奏をスタート。
奈良ホテル・100年ピアノ
1922年、スタインウェイ社のハンブルグ工場(ドイツ)で製造。1926年、奈良ホテルの調度品として鉄道省によって購入された。
やまと七十二候 「三輪山の月」
保山耕一
美しさを愛でるだけなら、月は空気が澄む真冬が一番です。秋の月は、コオロギやマツムシなど秋の虫の音を聞きながら眺めることで、より一層美しさを感じると思います。映像に良い音楽が付くと、さらに映像が高められて見る人の元に届くのと同じですね。
多くの人が、太陽のことを気にしながら生活していると思います。日の出、日没、日が高い、日暮れ。日の長い短いで季節を感じて、太陽と共に1年を過ごす。かたや、月を感じて生きるのは、昼間忙しいとなかなかイメージしづらいかもしれません。新月も満月も、ひと月に1回巡って、時間が止まることなくどんどん進んで行くのを教えてくれています。
三輪山に昇るまん丸の月は、何とも言えない美しさをたたえています。大神神社(おおみわじんじゃ)の御神体である三輪山は、太古の昔から神さまのおられる神聖な山としてあがめられてきました。かつては、禁足の山として一般人の入山は厳しく制限された時期もあったと聞いています。お参りが目的の登拝が許されるようになったのは、近代以降のことだそうです。
月を見て、御神体の三輪山に向かい思うことは、太古の昔から今まで、一体どれだけの人が思いを込め、山に祈りを捧げてきたかということです。
特別な意味のある風景には、果てしなく続く時間と、人々の切なる祈り、思いが折り重なっています。岡本彰夫先生(奈良県立大学客員教授)は「春日大社のおん祭りも東大寺の修二会も途切れたことがない。続いてきたのは祈りがあるからこそ」と言われます。
昨日はその昨日と続いて、そのまた昨日と続いている。過ぎ去った時間は、細切れに存在するのではなく、気が遠くなるほどの過去とつながっている。時間のつながりの中で連綿と続いているのが「祈り」で、奈良の人は1300年以上、人々の平安と安寧を求め、途切れることなく祈ってきた。祈りとは「思い」であり、心を込めて昔を思えば、その心は過去に届き、通じ合い、時を超えてつながると私は考えています。
悠久の自然と歴史に思いをはせることで、過去とつながれる場所は、奈良にはたくさんあります。その特別な場所を選んで映像にし、伝えるのがカメラマンとしての私の仕事です。
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三輪山の大鳥居を撮ろうと思っていたら、大鳥居の後ろにたなびく雲が茜色に染まり始めた。ラッキーだなと思いながら撮影していたら、私の近くで写真を撮っていたおっちゃんが「にいちゃん、良え絵撮れたな。あんたは三輪さんに歓迎されてるな」ってさりげなく言ってくれた。三輪山の周辺で暮らしている人にとって、ええことしたら「三輪さんが喜んでくれはる」。得したら「三輪さんのおかげ」。よくないことがあったら「三輪さんのバチがあたった」。いつも三輪さんと一緒なんです。
(聞き書き:伊藤享子)
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