2019年09月13日 (金)
やまとの季節 七十二候「朝露 煌めく」
映像作家・保山耕一さんが、NHK奈良放送局「ならナビ」に、「やまとの季節 七十二候」をテーマとした極上の映像詩を届けてくれることになりました。
音楽は、スペインで活躍するピアニスト・川上ミネさん。奈良で100年近くの時を刻んできたピアノで、「やまとの季節」を奏でてくれます。
七十二候「朝露 煌(きら)めく」 白露・初候
保山耕一
TBS世界遺産などで活躍してきたフリーTVカメラマン。6年前、がん余命宣告を受け、治療中に「奈良には365の季節がある」をテーマに奈良県各地の撮影を始める。日々、奈良の空や光、花、月、寺、などを撮影し、SNS発表・上映会を続けている。
京都とスペインを拠点に活動しているピアニスト・作曲家。NHK「ラジオ深夜便・ピアノが奏でる七十二候」、Eテレ「やまと尼寺精進日記」などの音楽を手がけている。昨年、春日大社奉納演奏会を機に保山氏と出会い、「こころの時代」でコラボレーション。この秋、「やまとの季節 七十二候」の新たな作曲・演奏をスタート。
奈良ホテル・100年ピアノ
1922年、スタインウェイ社のハンブルグ工場(ドイツ)で製造。1926年、奈良ホテルの調度品として鉄道省によって購入された。
やまと七十二候 「朝露 煌めく」法起寺
保山耕一
最終電車でJR法隆寺駅へ行き、歩いて現場に向かう。道端のベンチで4時間、日の出までじっと待つ。その間、することといえば、朝日が昇る1時間半前にカメラの電源を入れるくらい。ところがこんな何もない待ち時間の方が、発見が多かったりする。真夜中、こんなにもたくさんの鳥が鳴いているのかとか。2時ごろ、ほんの一瞬すべての虫がピタッと鳴き止むとか。待ち時間の発見は、テレビカメラマンだった頃にはなかったことで、病気をしたからこその気付きだなと。
一方、流れ星を20コは見たなというある夜は、自分の安モンのカメラでは流れる星を撮ることができなくて、カメラマンとしての無力さを感じたり。
最初は朝日だけを撮るつもりでした。でも、白露(はくろ)の時期だから、朝露がそこらじゅう一面にキラキラと輝いていて、本当にきれいでだったので。
撮影中、草むらの朝露の中に一つだけ、むちゃくちゃ大きな露の粒が葉っぱにくっついているのを見つけた。目をこらすと、露の中に朝日が昇っていく姿が見えた。何なんやろ、これ。まん丸の朝露の中に、太陽が昇って行く。
マクロのもの、ミクロのもの。ものすごい遠くのもの、目を凝らして見るもの。見渡すと無数の露、一粒一粒に太陽が映っている。ああ、そうか。どんなものにも朝が来るということか。でも、朝露は、朝日が当たると数分で消えてしまう。
朝日は平等にすべてのものを照らしてくれる。大きいもの小さいもの。隔てなくすべてに、朝の光が当たっては消えてゆく。「誰にでも陽は昇る」と、人を励ますときに言い、露が消える有様を歌にしては儚く思い、消えると悲しむ。でも、僕は儚さや悲しみは感じない。朝露は、太陽の光を受けて姿を変え天に昇っていくのだと思った。僕が見た朝露は、一つのサイクルの中の一瞬の姿。そこから何が読み解けるかというと「同じ姿を見せない」ということ。水でも何でも、自然の中でいろんなものが姿を変える。循環の中に命がある。映像に込めた思いです。
本来、作品の意図は映像を見て感じてもらいたいので、言葉にするのは本意ではないのですが。映像で唯一届けられないのが現場のストーリーで、撮影に行くと必ず一つは物語があります。この時は、朝日を待っていたら近所のおじいちゃんが「何してんの?」とやって来た。「朝日、待ってます」。「俺も朝日待って散歩してるねん」。「もうすぐ五重塔の横から昇ってきますね」。「そうやな」。おじいちゃんに「何時に起きるんですか」って聞いたら、「日の出の30分前に起きる」って言わはるねん。
普通の勤め人だと、朝は7時とか決まった時間に目覚まし時計合わせて起きるでしょ。おじいちゃんは、起きたら30分歩いてここで昇ってくる太陽を拝むのが日常。太陽が昇る時間に合わせて起きる時間を決めるなんてね。羨ましいというか贅沢というか、人間らしいと思った。
(聞き書き:伊藤享子)
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