2022年12月24日 (土)
全国高校駅伝 取材記 旭川龍谷(北海道)~最高の仲間たちの熱い思いとともに~
旭川龍谷高校(北海道)が11回目の出場となる都大路で目指すのは、チームで初めてとなる8位入賞です。仲間のけが、新型コロナの感染、厳しい冬の中での練習・・・。多くの壁を乗り越えて、大舞台の切符をつかんだチームへの密着取材から見えてきたのは、最高の仲間との絆、そして、熱い思いでした。
目標は入賞!中心は去年のメンバー4人
ことしのチームは、去年の大会に出場した選手4人が残る経験豊富なチームです。北海道大会でマークしたタイムは1時間10分22秒。全国大会の入賞レベルとされる1時間9分台に手が届く位置にいます。
去年の全国高校駅伝を経験したのは、1年生から2年連続で都大路を走ったエース、3年生の石川苺選手と、いずれも2年生の3人です。中野芽衣選手は、3000メートルの持ちタイムがチームトップ。笑顔あふれるムードメーカーで、去年は1年生で5区のアンカーを経験しました。益塚稀選手は、スプリント能力の高い選手で、去年は4区を担当。山本望結選手は、持ち前のスタミナで5000メートルが得意。去年は1区で大健闘しました。
阿部文仁監督
「過去で一番いいタイムを持っていますし、実際に本番でも力を出せるようなメンタルを持っている。過去一番強いチームだと思っています。どの区間を任せても結果を出せる選手たちがそろっている」
この4人を中心に、チームは、北海道大会で7連覇を達成。多くの選手が、旭川市内の寮で寝食をともにし、家族のように過ごす高校生活。一丸となって、都大路への切符をつかみました。
全国大会でも、みんなと一緒に走りたい
優勝した北海道大会で、去年のメンバー4人に加わったのが、3年生の工藤凜果選手です。高校生活最後の今シーズン、強い思いを持って走り続けてきました。
工藤選手は2年前、校外で練習した後、車にはねられる交通事故にあいました。全身を強く打つ大けがで、およそ半年間のリハビリ生活を余儀なくされました。
「なかなか治らなくて、走るまでに時間がかかりました」
「また走れるのだろうか?」
弱気になっていたとき、支えてくれたのがチームメートでした。新型コロナウイルスの影響で、病院にお見舞いにも行けない頃。ふと窓から外をのぞくと、笑顔の仲間たちが1枚ずつ、ボードを高く掲げて並んでいました。
「くどりん、まっているからね」
仲間たちの心のこもった激励のメッセージは、不安に押し潰れそうな心に、光をあててくれました。「自分は1人じゃなかった」と再認識できた時、工藤選手は復帰への思いをあらたにしました。
一歩ずつでも前に進むことを考えました。走ることができなくても、筋力が落ちないように人一倍、筋トレに時間を割きました。半年後、チームの練習に合流してからは、1日も無駄にせずに練習に集中しました。
仲間に支えられ、仲間とともに目指す、最初で最後の都大路。少し照れながら、もう1つの原動力を口にしました。
「やっぱり一番は、みんなと走りたいから」
コロナ感染の影響 キャプテンの苦悩
10月の北海道大会のあと、チームは、新型コロナウイルスに襲われました。部員15人のうち、11人が感染。活動は完全に休止し、多くの選手が住む寮も閉鎖に。大事な時期に練習を積めませんでした。
その後、新型コロナから復帰して徐々に練習を積み重ね、多くの選手が、全国大会のメンバー入りを目指して、コンディションをあげていく中で、なかなか本調子に戻らない選手がいました。キャプテンで、3年生の泉桃果選手です。
泉選手はもともと気管支ぜんそくの持病があり、コロナ感染の影響を大きく受けていました。運動を続けると呼吸がきつくなり、全員で走る朝の「ハイペースジョギング」や、日々の練習についていけず、1人で別のメニューをこなすこともありました。
それでも、阿部監督から「焦ることない。ゆっくり前に進もう」と声をかけられ、自分の道を進みました。
泉選手にとっても都大路はずっと目標にしてきた目的地です。
泉桃果選手
「駅伝にかけるすべての高校生にとっての目標の場所だし、やっぱり私もそこに立ちたい。まだ走ったことはないですけど、夢の舞台です。夢を叶えにいく場所。そこにかける思いは誰にも負けないと思っています」
メンバー発表 監督の思い
全国高校駅伝で本番当日に走るのは5人。その前に、控え選手を含む8人の出場選手を登録します。この8人の選手登録から漏れれば、本番は走ることはできません。本番1か月前となった11月25日。阿部監督は、選手たちのこれまでのレースや練習、それぞれの状態などを加味して8人を選びました。1年間の中で、この瞬間が一番つらいと言います。
阿部文仁監督
「一番嫌な時間だし、一番嫌な日。できればやりたくない。本番よりも緊張しますし、本番を迎えるよりも緊張する。本当に真剣に考えて頭を悩ませて考えて出す日。できることなら、みんな出したい。高校野球のように、最後に代打とか代走で出させてあげたい。でも、駅伝はそれができないので」
メンバー発表。キャプテンの泉選手の名前は呼ばれませんでした。しかし、与えられた役割がありました。
阿部文仁監督
「このあとの記録会には出るし、遠征にも一緒に帯同してもらう。泉キャプテンの代で、ひとつ成果を出したいという思いは変わらない。一緒にチームを支えてもらう。力になってくれ。しっかりここから戦っていけるように」
泉桃果選手
「体調も万全じゃないですし、結果は受け入れています。走りたかったんですけど、これが駅伝だと思うし、勝負の世界だと思うので、仕方ないことなのかな。これから全部の行程に帯同するので、自分も最後までしっかり走って、最後まで自分の役目を果たします。選手が最大限に力を発揮できるようにサポートをしていきたい」
最後のタイムトライアル3年生3人の思い
全国高校駅伝まで3週間あまりとなった、12月はじめ。メンバーたちと泉選手は、京都に遠征に向かいました。大会前最後のタイムトライアルと、本番のコースの試走のためです。
最後の貴重な実戦。3000メートルに出場した、3年生のエース、石川選手は、大学生たちも一緒の組で5位に入り、順調な調整ぶりを披露。同じく3年生の工藤選手も粘り強い走りで3000メートルの自己ベストのタイムをマーク。本番に向けたアピールに成功しました。
工藤凜果選手
「自己ベストで終えてうれしかったですけど、まだまだ力発揮できるんじゃないかと思うので、都大路では全部出し切るようにしたいです」
そして、このタイムトライアルで高校生活のラストランを迎えたのが、同じ3年生の泉選手です。やや緊張した表情で3000メートルのスタートラインをきると、万全な体調でないにもかかわらず、気力を振り絞って積極的に足を前に運びました。
自己ベストにあと1歩で手が届くタイムでゴール。全力を出し切って倒れ込む選手もいるなか、泉選手は少し笑みを浮かべ、万感の表情。そして、ふり返ってトラックを見つめると、深々とお辞儀をしました。
走ることにすべてを捧げた高校生活。ひたむきに夢を追った青春の日々は、多くの人に支えられていたと実感し、自然と頭が下がりました。
泉桃果選手
「3年間で一番楽しいレースでした。もう本当にこれで最後だと思って、全部出し切ろうと思って、ゴールしたときはもう本当にやり切ったなって。本当に楽しかった。本番、私は走れない分、走る5人にはしっかり頑張ってもらいたいと思いますし、チーム一丸となってチーム全員で協力して目標達成できたらいいな」
仲間と地元の思いを胸に、都大路へ
いよいよ全国高校駅伝。青春のほぼすべてを仲間とともに走ることに注いできた選手たち。ひたむきに夢を追い求めてきた選手たちが、仲間の思いをたすきに乗せて、“1時間9分台”と“8位入賞”という目標に向けて、スタートを切ります。
取材:旭川放送局 記者・田谷亮平
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