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2022年03月29日 (火)

センバツ高校野球 近江の主将は"魂"でけん引

センバツ高校野球で、近江高校が滋賀県勢初のベスト4に進出しました。しかも、今回は、チーム内で新型コロナウイルスの感染が広がった学校に代わって、急きょ補欠からの出場。キャプテンの山田陽翔投手がチームを引っ張っています。

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急きょの出場でもベスト4


近江は、出場決定からわずか3日で臨んだ1回戦で、長崎日大高校と対戦。延長13回タイブレークの接戦に勝つと勢いに乗り、2回戦で福島の聖光学院、準々決勝では金光大阪高校に勝って、ベスト4に進出しました。センバツでは滋賀県勢初、補欠校から出場した学校のベスト4も初めてです。

そのチームの中心にいるのが、キャプテンを務める、エースで4番の山田陽翔投手です。140キロを超えるストレートと鋭く曲がるカットボールやスライダーを織り交ぜるピッチングで、31イニング、合わせて379球を1人で投げ抜き、5失点。打っても、延長13回タイブレークとなった1回戦で決勝タイムリーを打ちました。

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近江を30年以上率いる多賀章仁監督は「土壇場で魂を込めた投球や打撃ができる選手で、魂ということばがすごく似合う」と評価します。

 自分のけがのせいで…


山田投手は、2年生で臨んだ去年夏の全国高校野球でも全試合先発のマウンドに上がり、打線の中軸も務め、チーム20年ぶりのベスト4進出に大きく貢献しました。
しかし、この大会で肩とひじを痛め、秋の公式戦では1回も投げることができませんでした。チームは近畿大会の準々決勝で敗退し、ことし1月の選考委員会では出場校に選ばれず、山田投手は「自分のけがのせいで迷惑をかけてしまった」と大きな責任を感じていました。

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キャプテンとして


目標を失ったチームをどう導くか。キャプテンの山田投手が力を入れたのが、チームが伝統としてきた「守りからリズムを作る野球」です。ケガの影響で、ピッチング練習ができなかった時期は、チームメートともに、守備の練習に励みました。去年秋の公式戦では、勝負どころでのミスが目立ったためです。さらに、自身のピッチングについては、体への負担が少ないフォームを模索しました。連戦でもけがのリスクを少なくして、投げ抜けるよう努力を続けました。
さらに周りの選手にも積極的に声をかけました。「不器用で、感情を表に出すのが苦手」と感じていたキャッチャーの大橋大翔選手には「もっと表情を明るくしたらチームが変わる」とアドバイスするなど結束力を高めていきました。

 磨いてきた近江の野球で雪辱


そうしたなかで、開幕直前に急きょ出場が決まった今回のセンバツ。1回戦では対戦相手の分析をする時間もなく、滋賀県彦根市の学校からバスでおよそ2時間かけて甲子園に移動するなど、万全な状態で試合に臨むのは難しい状況でしたが、しっかりと勝利をつかみました。
そして、山田投手を中心に取り組んできたことが生かされたのが、近畿大会で敗れた金光大阪との準々決勝でした。1点リードの7回の守備、ワンアウト二塁三塁の場面で、山田投手は、相手がスクイズをしかけ、三塁ランナーがスタートしたことに気づき、とっさにボール球を投げました。低めの難しいボールとなりましたが、キャッチャーの大橋選手がしっかりと反応して捕球。三塁ランナーをアウトにしてピンチをしのぎました。近江はその直後の攻撃で2点を追加し「守りからリズムを作る野球」を大事な場面で実践したのです。
山田投手は「近江らしい野球ができ、自分たちがやってきたことが間違っていなかったです」と手応えを感じていました。

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 ライバルの思いも背負って


補欠校からの出場となった近江。山田投手は、チーム内で新型コロナウイルスの感染が広がり、大会出場を辞退した京都国際高校のエースの思いも背負ってマウンドに上がっています。京都国際のエース、森下瑠大投手とは中学時代から対戦したことがあり、いまもSNSなどを通して、コミュニケーションをとる間柄です。大会前に森下投手から「頑張って」と激励のメッセージをもらい、「いたたまれない気持ちですが、京都国際や森下投手の分までという思いが強いです」と右腕を振り続けています。

oumi6.jpg目標の日本一へ 一戦必勝

山田投手の覚悟は、試合後の行動にも表れています。近江の選手たちは試合に勝って、校歌を歌ったあと、全員が相手チームのベンチに一礼してからアルプス席に向かって走っていきます。最初は、去年の秋、キャプテンになった山田投手が1人で始めたものでした。山田投手の「スポーツの世界は相手があってこそ」という思いに共感したチームメートたちも一緒にやるようになりました。野球と向き合い、チームメートやライバルへの思いが誰よりも強い山田投手が引っ張る近江。山田投手は「甲子園の歴史に少しは名を残せたかなと思います。目標は日本一ですが、先を見ると足もとをすくわれるので、一戦必勝でチーム一丸となって戦いたいです」と初めての全国制覇を目指し、チームに魂を注ぎ込んでいく決意を示しています。
oumi7.jpgセンバツ取材班・記者 並松康弘