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2022年01月12日 (水)

全国女子駅伝~愛媛・山中柚乃の決意~

東京オリンピックの女子3000メートル障害に出場した 愛媛の山中柚乃選手(21)。全国女子駅伝について「たすきだけではない、夢とか希望とかもつないでいけるようなすてきな大会」と表現しています。

 

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“上位に行けない”を覆す


 

この10年、愛媛は、最高成績が19位(平成30年)で、ほとんどが20位台か30位台と苦戦が続いています。そうしたなか、キャプテンを務める山中柚乃選手は淡々と言ってのけた言葉があります。

 

「私が関わることによってそれを覆したい」

 

そこには、自分が走るからには結果を出さなくてはならないという、覚悟責任感が感じられました。

 

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山中選手が持つ挑戦できる強さ


山中選手はもともと愛媛出身ではなく、大阪・堺市生まれ。高校までは無名でしたが、卒業後、恩師の紹介で愛媛の実業団に進んだころから「オリンピック出場」を本気で意識し始め、陸上に取り組む姿勢が変わりました。

 

03.jpg<去年6月の日本選手権>

 

かつて1500メートルの日本記録保持者だった小林史和監督の指導のもと、記録をぐんぐん伸ばし、去年6月の日本選手権の3000メートル障害では、日本歴代2位のタイムで初優勝したのです。

 

04.jpg<愛媛銀行・小林監督>

 

小林監督も予想しなかったほどの急成長を見せ、オリンピック出場をつかみ取りました。

 

小林史和監督

「彼女は高いハードルを課すとそれを突破してくる。チャレンジできる強さがある選手ですね」

 

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東京オリンピックという大舞台でも、それは変わりませんでした。予選10位で決勝に進むことはできませんでしたが、世界のトップ選手たちの中でも力を出し切り、日本女子としてのオリンピック記録を更新しました。そして、結果以上に、すがすがしい笑顔が印象的でした。

 

山中柚乃選手

「一緒に走る選手が格上の選手ばかりで、この場をちょっとでも楽しみたいと思っていた。自分の実力を思い知ったからこそ、もっと強くなるためにはどうしたらいいか、それを考えましたね」

 

貴重な経験を下の世代に


1月4日に行われた愛媛代表の合同練習。山中選手はともに走る中高生に向けて「オリンピックに出場した身なので、みんなにその経験をしっかり伝えていけたらなと思っています」と挨拶しました。

 

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その言葉通り、山中選手は積極的に中高生に声をかけていました。気になった選手を呼び止め、「股関節を上げるトレーニングをすればいい」などとアドバイスもしていました。自身も中高時代は伸び悩み、上のレベルを知ることによって成長できたと振り返ります。だからこそ、オリンピックというかけがえのない経験は、必ず伝えていきたいと考えていたのです。

 

山中柚乃選手

「私は昔から力があったわけじゃない。夢を追いかければ結果は絶対ついてくるということを伝えたいなと思いますし、それを背中で見せられる先輩でありたいなと」

 

学びたかった気持ちの強さ


 そんな山中選手の気持ちに応えたいと感じている選手も出てきました。八幡浜高校3年生で大会に出場する上田琴葉選手です。1メートル67センチの長身で、恵まれた体格と粘り強い走りが特徴の有望な選手ですが、課題も感じていました。

 

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 上田琴葉選手

「すごく緊張しやすいんです。特に上のレベルの選手と走ると自分が小さく見えてしまうというか、弱気になってしまって。メンタルがまだまだ弱いなと」

 

先月の全国高校駅伝ではその弱点を出てしまいました。1区を走った上田選手は、周囲のハイペースにリズムを乱され、終盤にスパートをかけきれませんでした。そうした中で訪れた、山中選手とチームを組める絶好の機会。気持ちの強さはどこから来るのか、少しでも学びたいと考えていました。練習の終わりに、上田選手は山中選手に話しかけていました。

 

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上田選手から「オリンピックでめちゃくちゃ緊張したと思うんですけど、どうやって気持ちをコントロールしたんですか」と尋ねられた山中選手。「なんやろな」と関西弁でつぶやいたあと「とりあえず笑顔でいようと思って。なんかニコニコしてたら自然と緊張はほぐれてきたから。駅伝の本番でもすごく緊張すると思うけど笑顔は大事にね」と伝えていました。わかりやすく具体的なアドバイスに上田選手はヒントをつかんだ様子でした。

 

上田選手

「すごくありがたかったです。私はいつも緊張して全身に力が入ってしまうんですけど、笑顔をすることで力も抜けて自分らしい走りができるんじゃないかと思いました」

 

夢や希望もつなぐ大会に


全国女子駅伝は、中学生から社会人までがチームを組んで走ります。下の世代にとっては非常に大きな経験になると、山中選手は強く意識しています。

 

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山中選手

「都道府県駅伝は“物”としてのたすきだけでなく、夢や希望もつないでいけるようなすてきな大会だと思う。そういうところをチームとして目指していければ」

 

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オリンピックを経験して成長した山中選手と同じく、中高生もここで飛躍のきっかけをつかむかもしれない。次のオリンピアンもここから生まれるかもしれない。そんなことも想像しながら、ことしの愛媛の活躍に期待したいと思います。

 

(取材:松山拠点放送局記者・清水瑶平)

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