2023年12月27日 (水)
地域によりそう 助産師の思い
コロナ禍に1人の助産師が立ち上げた“子育てひろば”が、大阪にあります。
このひろばを始めたのは、病院ではなく、地域を拠点に活動する助産師。
子育てに奮闘する親たちを支え、地域へとつないでいきたい。
助産師の活動を取材しました。
大阪放送局 ニュースリポーター 小川真由
誰でもふらっと来てね「子育てひろば」
大阪市内の商業施設にある“子育てひろば”。
駅直結の便利な場所にあり、買い物のついでにふらっと立ち寄ることができます。
ここには子育て相談のほか、親子が交流する場もあり、いつも大勢の親子連れでにぎわっています。
3年前にこの“子育てひろば”を立ち上げた、助産師の望月里恵さん。
取材した日は、赤ちゃんが順調に成長しているか心配する親が、望月さんに相談する姿も見られました。
望月さんはひろばに来てくれる親子を1人ずつ丁寧にフォローしています。
やりとりを重ねながら、親子の成長を見守りたいと考えているそうです。
きっかけは新型コロナ
かつては産婦人科で働いていた望月さん。
病院で親子に関われるのは、出産前後の限られた時間が中心だったため、望月さんはもっと継続的に親子に寄り添いたいと、病院を退職し、活動の拠点を地域に移しました。
その矢先にはじまったのが、新型コロナの流行です。
感染対策が最優先となる中、育児教室や子育て交流の場は軒並み中止になりました。
そんな中、望月さんが目の当たりにしたのは、不安でいっぱいの親たちの姿でした。
望月里恵さん
「乳児訪問などで自宅を訪ねて話を聞くと、涙を流して不安を訴えるお母さんやお父さんがいて。みなさんとても孤立していると感じました。平常時でも子育ては大変なのに、コロナ禍ではなおさら。外に一歩も出ずに、夫婦で家にこもって子育てをしている方もたくさんおられ、危機感を持ちました」
地域に子育て世代の拠り所を
コロナ禍だからこそ、親子をリアルに支える場が必要だと感じた望月さん。
2年前、大阪市の委託を受ける形で、“子育てひろば”を作りました。
週5日空いていて、利用料は無料です。
テーマの1つが、「孤育てからつながる育児へ」です。
ひとりぼっちの育児をしなくて済むように。
ひろばに来ることで、育児仲間や専門家とつながれるようにという思いを込めています。
生後2か月ごろからひろばを訪れている夫婦に話を聞きました。
初めての子育てに不安がいっぱいで、毎週のように訪れて、授乳のしかたなどの悩みを、望月さんに相談してきたといいます。
「ここで子どもを遊ばせるうちに、自分だけではなくほかのお母さんたちも、それぞれ悩んでいることもあるんだなとわかり、ひとりで育児しているんじゃないと感じました。ここがあるから安心できます」
地域で出会いの輪を広げる
望月さんは、ひろばだけでなく、出会いの輪を地域に広げようと取り組みを進めています。
いま力を入れているのが、2か月に1度、ひろば近くの川沿いで開催している「はぐくみマルシェ」です。
マルシェでは、使わなくなったおもちゃや服を譲り合うコーナーや、青空のもとで自由に本を読めるコーナーなどもあります。
新型コロナが5類に移行してからは、集まってくる人も少しずつ増えてきました。
この場所に集うことで、自然と会話が生まれ、地域の人がゆるやかにかかわりあう場になってきたそうです。
望⽉⾥恵さん
「ちょっとしんどい⽅や行き詰まっているなというような⽅が、ここでの交流を通じ て笑顔になっていくのを⾒るのがうれしいです。こういう交流を地域で育んでいきた い」助産師として地域の親⼦を⾒守る望⽉さんの活動が、まちのあたたかい結びつき も育んでくれているようです。
取材を終えて
私⾃⾝、コロナ禍の2020年に出産。 ⼦育て教室への参加も⾥帰りもかなわず、⼤変な思いをしました。 特に出産直後や育休中は、⼩さなことでも深く思い悩んだり、社会から断絶されている気 持ちになってしまったり。 精神的にまいってしまう時があったので、取材をしながら、望⽉さんのような⽅が隣にい てくれたらと思いました。 “⼦育て”が“孤育て”にならないように、⽀え、分かち合う場を作っていく。 望⽉さんのような活動が、あたりまえになってほしいと願います。