自分の意思で

家族の元や施設ではなく、介助者に支援してもらいながら、地域で１人で暮らす障害者たち。
映画では食事や入浴も“してもらう”“させられる”ではなく、自分の意思で決めていく姿を追っています。
映画を作った田中悠輝さん（３２）は、ふだんは介助者として障害者に接しています。

“地域で自分らしく生活していきたい”と願う障害者たちを伝えたいと、３年かけて制作しました。

田中悠輝さん
「日々何を食べるか、誰と暮らすか、どんな仕事をするか考えていくときに、それぞれの自立生活があるはずで。自分らしい生活みたいなものは、それぞれが作ると思います」

田中さんが映画を撮り始めたときに、親元を離れ、１人暮らしを始めたトリスさん。
高次脳機能障害のため、右半身のまひと失語症の症状があります。

介助者の支援を受けるトリスさん。
うまく言葉が出ないため自分の意思を伝えられず、自立生活を始めた頃は笑ってごまかし、やり過ごしていました。

障害があっても自立生活を続けたい。
その成長する姿をうつしたいと田中さんは考えました。
トリスさんは介助者に何度も思いを伝えていくうちに、打ち解けられるように。

 

自立生活センターの支えで

トリスさんが１人暮らしができるようになった背景には、地域にある自立生活センターの存在がありました。
トリスさんは１人暮らしのサポートを受けたほか、センターで集団生活をするなど、さまざまなことを経験しました。

自立生活夢宙センター代表 平下耕三さん
「地域の中で自立した障害者が誕生する、というのが自立生活センターなんで。障害者って“特別な存在なのかな”っていうのを見たことによって変えてほしい。“ああそうなんやみんな同じなんやな”と思ってほしい」

田中さんは映画の撮影が終わったあとも、トリスさんを気にかけ交流を続けました。

トリスさんは３年たったいまも１人暮らしを続け、スーパーに買い物に行って自炊ができるようになりました。

今では心から笑ったり、ごまかさずにやりたいことを伝えられるようになりました。

田中悠輝さん
「愛想笑いをしてまわりにあわせてなんとなく生きてるみたいな感じでしたが、だんだんと取り繕った顔じゃなくて、本当の感情を取り戻していくような…自立生活もこういう形でできるんだと思いましたね」

 

“障害者観 変わってほしい”

映画について多くの人に知ってもらいたい。
一般の人も招き、11月、大阪で３年ぶりにこの映画の上映会が開かれました。
障害者も直接、自らの言葉で自立についての思いを伝えました。

鍛冶克也さん
「僕は自立生活してよかったと思うし。まだまだ普通じゃないというところがあるので、この映画を見ていただいて障害者観が変わってほしい」

映画を見た人
「障害者っていうひとくくりではなく、いろんな方がいろんな生活スタイルで過ごしているって改めて感じられて。すごく興味深い映画だなと思いました」

映画を見た人
「介助者の方と当事者の方々との関わりの部分で、長い間関わって積み重なっていくところにとても感動しました」

田中悠輝さん
「自立感って、どうしても経済的な自立であったりとか、自分のことが自分でできるっていう身辺的な自立だったりとか、そっちの方ばかりに偏っている気がしていて。もっと自分のことを自分で決められる意思決定の方が、自立なんだという考え方。もっと自立の概念が広がっていくと、もっと生きやすくなって…そういうものが取り払われた先に、それぞれの幸せが近づいていくんじゃないかな。自分が思う幸せみたいなものを、ようやくそこで考えられるんじゃないかなと思います」

田中さんは介助の仕事を通じて、自立を目指す障害のある人たちをサポートするとともに、今後も現状を知ってもらうための活動を続けていきたいということです。

上映会を企画したJICA＝国際協力機構は、日本の障害者支援のノウハウを世界へ広めたいと考えていて、映画を多くの人に見てもらいたいと考えています。

ＪＩＣＡ関西 糸山大志さん
「日本でも多くの問題はあるけれど、障害者支援は世界で見ると日本が進んでいるんです。
大阪の自立支援施設で生き生きと生活している姿を映画を通して見てもらい、一歩踏み込んだ優しさ、草の根の活動を広げたい」

 

(12月６日 ほっと関西で放送)