しあわせニュース

2022年11月10日 (木)

桜の妖精って思うほど...

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2018年4月2日。

桜が咲く季節に、576グラムで生まれた安宮侑杏(やすみや・ゆうあ)ちゃん(4)。

満開の桜の下で、カメラに向かってポーズをとる姿はまるで妖精のよう。

笑顔がかわいい女の子です。

小さく生まれた侑杏ちゃんはお母さんとお父さんに見守られながら、少しずつ成長しています。

(大阪放送局記者 北森ひかり)

小さく生まれた赤ちゃんたち

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704グラムで生まれたやすあきくん。

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470グラムで生まれたはなちゃん。

今月、大阪市内で開催されている「小さく生まれた赤ちゃん」の写真展です。

展示されているのは2500グラム未満で生まれた低出生体重児28人。生まれたばかりの時の姿と現在までの成長過程です。

1年間に生まれる赤ちゃんのうち、10人に1人ほどが低出生体重児です。

 手のひらサイズの女の子

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安宮侑杏ちゃんもその1人。

4年前の4月、576グラムで侑杏ちゃんは生まれました。
母親の安宮友佳子さん(40)は持病の影響で入院していたところ、妊娠25週で緊急帝王切開となりました。

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侑杏ちゃんは8年の不妊治療の末に授かった待望の赤ちゃんでした。

命の危険もある中で、娘は順調に育つのか。

人工呼吸器やたくさんの医療機器につながれたわが子を目の当たりにし、安宮さんは不安でたまらなかったと言います。

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つらい状況の中、安宮さんに力をくれたのは夫の芳宏さん(42)の存在でした。

母親 安宮友佳子さん
「なんてことをしてしまったんやろうって罪悪感と私のせいなんやなって。大きな病気をこれから発症しないかとか、いきなり脳出血が起こらないかとか、心配はずっとありました。そんな中で夫が保育器の中の娘を見てかわいいかわいいと言って、ずっと目を細めて娘を見ていて。その姿を見たら生んで良かったなと思えましたし、そう思ってくれる人が横にいるのでこれから頑張れるなって思いました」

侑杏ちゃんは敗血症の治療や未熟児網膜症の手術を乗り越え、4050グラムまで大きくなり、生後5か月で退院しました。

成長続ける侑杏ちゃん

退院後、侑杏ちゃんはなかなか寝返りやハイハイができるようになりませんでした。

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このため、母子手帳の1歳のページはほとんどが空白のままです。

低出生体重児は、母親のおなかの中で十分に成長する前に生まれるため、発達がゆっくりな子も少なくないからです。

友佳子さんがとりわけ気がかりだったのは「1人で歩けますか?」の項目です。

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そうした中でも、侑杏ちゃんは少しずつ、成長を続けていました。

体重が増えて大きくなった侑杏ちゃん。

つかまり立ちもできるようになった侑杏ちゃん。

安宮さん夫婦は侑杏ちゃんのペースに寄り添い、近くの公園や外に出かけて歩く練習を続けていました。

そして、去年6月。いつものように家族で出かけた公園でのことです。

安宮さんがそっと手を離すと、侑杏ちゃんは1人で歩き始めました。

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3歳2ヶ月。

待ち望んだ瞬間でした。

安宮さんと夫は、歩き出した侑杏ちゃんの背中を見守りました。

自然と涙があふれていました。

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友佳子さん
「ずっと見たかった姿だし、ずっと待ち望んだ姿。本当に娘がうれしそうに歩き回っていて、その姿を見ているときっと娘自身も1人でこうやって歩きたかったんやろなって思って感動しました」

父親 芳宏さん
「いつ歩き出すのかと不安に思っていたところもあったので、本当にうれしかったです」

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侑杏ちゃんは月に2回、療育施設に通っています。

未熟児網膜症の影響で、視力はめがねをかけていても0.1ほど。

手先を使った細かい作業が苦手ですが、楽しみながら練習を繰り返すことで、少しずつできることが増えています。

侑杏ちゃんが生まれた当初は、「小さく生んでごめんね」と自分を責めていた安宮さん。

侑杏ちゃんの成長を見守る中で、徐々に心境も変化していったと言います。

友佳子さん
「娘がポジティブな笑顔を見せてくれるので、ごめんねばかりじゃなくて生まれてきてくれてありがとうって心の底から思う。最初は周りの子に比べたらできないことが多いっていう面ばかり気になってたけど、それでも本人が楽しそうに日々過ごしてる姿を見てると、できないことばかりに目を向けるんじゃなくて、小さなことでもできるようになったことを、喜べるようになりました」

小さな成長 大きな喜びに

自分の経験が育児に悩む親の道しるべになるのではないかと考え、同じ低出生体重児の親たちでつくる「キラリベビーサークル」の写真展に参加することにしました。

小さく生まれた赤ちゃんの成長を見てもらうことで、これから子育てをする人の希望にしてほしいという思いを込めた写真展です。

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安宮さんが選んだ写真は、1人で立って、しっかりと大地を踏みしめる笑顔の侑杏ちゃん。

誕生日の4月、満開の桜の下で撮影した写真です。

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友佳子さん
「私、桜の妖精を生んだのかなって思うほど、かわいい。小さな成長が大きな喜びに変わるっていうのはのんびりさんならではだなって思うと、なんか幸せだなって感じることがとても多いなと思います」

芳宏さん
「本当に天使です。かわいいです」

小さく生まれた侑杏ちゃん。ゆっくりでも自分のペースで着実に成長しています。

小さく生まれた赤ちゃんを知って

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「いまから公園行くの。一緒に来ない?」

取材中、満面の笑顔で私たちを公園に誘ってくれた侑杏ちゃん。

侑杏ちゃんはいまも、定期的に病院に通っています。

小さく生まれた赤ちゃんの中には、退院後も医療的なケアが必要な子も多く、親子は日々、課題と向きあっているのも現実です。

赤ちゃんと家族にそっと寄り添える社会であってほしいと思います。