おはよう関西

2020年12月21日 (月)

コロナ禍で深刻化する過食症

食べ過ぎる、食べなさ過ぎたりと、健康的な食生活を送ることが難しくなってしまう病気、摂食障害。全国に推定20万人の患者がいますが、発症しても本人に自覚がない場合が多く、実際の数はその数倍とも言われています。なかでも、食欲をコントロールできず食べて吐くことを繰り返してしまう過食症の患者の多くが、コロナ禍で症状を悪化させていることが調査からわかってきました。

食べられない拒食症と異なり、外見的には健康的な体型に見える場合も多い“気づかれない病気”過食症。「普通に食べられるようになりたい」と話す当事者の切実な思いを取材しました。

取材:小林あかりディレクター(NHK大阪)

 コロナの外出自粛で症状悪化 過食症患者の苦しみ

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大阪市で、夫と2人で暮らすほなみさん。親子関係の悩みや、専門学校での実習の忙しさが重なったことがきっかけで、3年前に過食症を発症しました。以来、入退院を繰り返しながら闘病生活を続けています。

長いときには朝から晩まで過食とおう吐を繰り返し、10万円以上が過食に消えていく月も珍しくありません。経済的な苦しさに加え、昼夜を問わず襲ってくる過食衝動のため、寝つけなかったり、仕事に行けなかったりと、日常生活のさまざまな場面に支障が出ている状態です。やめたいと思っているのに過食をやめられず、普通に食べて生活することができない自分に対して、嫌悪感を抱いてきました。

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 ほなみさん

「何から何まで全部食べ物。他のことを考えようとしても考えられないくらい。もうつらくてつらくて、何回も繰り返すのに、そのたびに死にたいって思っちゃう」

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苦しむほなみさんに追い打ちをかけたのが、新型コロナの感染拡大です。外出自粛によるストレスや不安が重なって、症状が悪化したと言います。

日本摂食障害協会が5月に行った調査では、回答したおよそ300人の摂食障害患者のうち、73%が「過食が増えた」と答えるなど、多くの患者が症状の悪化に苦しんでいる実態が見えてきました。

治療する側にとっても限界・・・ 限られた時間での生活指導

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治療薬がない過食症は、治していくことも簡単ではありません。発症に至った原因をカウンセリングで探りながら、食生活の指導を通して少しずつ過食の回数を減らすという地道な治療を、時には十数年にわたって続けることになります。ほなみさんの通院は2週間に1回。専門医が少ないため、患者の多くは数週間に1回、15分~30分程度と治療の時間が限られているのが現状です。

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過食回数を減らすためにもっとも重要なのが、3食をきちんと食べる習慣をつけることです。食べ過ぎてしまう過食症の症状から考えると逆説的にも聞こえますが、規則正しく食べることで、空腹時に来る過食衝動を軽減することができると考えられています。そのために利用されているのが、日々の生活と食事の記録。朝から晩までのスケジュールと、食べたものを細かく記入していき、診察の際に医師と確認しながらアドバイスをもらいます。しかし、医師の側にとっては文字だけでは量を把握できないうえ、頻度や時間の限られる診察の中で記録のすべてに目を通すことには限界があると、治療に当たっている山内医師は感じています。

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大阪市立大学附属病院 神経精神科 山内常生医師

「2週間頑張り続けてその評価を2週間後の診察でようやく受けることができるのみで、あとはけっこう孤独な治療ということになってしまいます」

 治療の孤独感をどう軽減できるか? 医師の模索

日常的に患者の経過を把握し密にコミュニケーションがとれるよう、山内医師が現在取り組んでいるのが食生活の記録用のアプリの開発です。

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まず、患者が食事の写真を投稿し、食べた量や内容をそのつど主治医と共有します。さらにそのときの心理状態や、体調などもあわせて記入。こうしたテータは、主治医が過食をしやすいタイミングなどの傾向を分析するのに役立てることができるといいます。治療の孤独感を少しでも緩和できるよう、投稿の内容に主治医が「いいね」やコメントをつけられる機能も備えました。

 

大阪市立大学附属病院 神経精神科 山内常生医師

「病院に来なくても治療の形が維持できるっていうことがとても大事ですので、双方向で患者さんに指導ができるっていう形があれば、モチベーションの低下を防いで治療への意欲を継続していくっていうところにはすごく役立つのではないかと思っています」

 

取材後記

「過食症」ということばはなんとなく知っているような気でいましたが、複数の当事者を取材する中で、過食することの苦しさ、それが生活に及ぼす影響、治していくことの障壁・・・まったく知らなかった過食の壮絶な実態を知り、胸が痛みました。

実際、過食症に苦しむ人たちの中には「食べて吐くなんてぜいたくな病気」「食欲くらい我慢できるでしょ」と、誤った認識のために周囲から心ないことばをかけられ、自分を責めてしまう人が少なくないそうです。外見からは病気とわかりにくい場合も多く、世の中の認識が当事者の抱える生きづらさに追いついていないように感じました。

1日3食のごはんを楽しみに生きている私(ディレクター)にとっては、ほなみさんの「普通に食べて、普通に生きたい」ということばが忘れられません。ひとりでも多くの人が楽しく食べられるよう、摂食障害がもたらす生きづらさをどう解消していけばよいのか、これからも取材を続け、考えていきたいと思います。