2021年03月18日 (木)
亡き監督の教えを胸に~奈良・天理高校~
大会2日目に初戦を迎える奈良の天理高校。6年前からチームを率いる中村良二監督は、恩師の教えを胸に、特別な大会に臨みます。
恩師でもあり親父でもある
中村監督が恩師と呼ぶのは、去年10月に亡くなった天理高校の前監督、橋本武徳さんです。昭和61年夏、橋本さんはチームを初めての全国制覇に導きました。そのとき中村監督はキャプテンを務めていました。幼い頃に実父を亡くした中村監督にとっては“恩師でもあり、親父でもある存在”でした。
天理 橋本武徳 前監督
中村監督は、橋本さんの指導について「好きな練習を好きなだけやらせてもらっていた印象しかないです。怒ることもないし、おおらかに僕らを暖かく見守っていてくれました」と振り返ります。選手の“自主性”を大切にした橋本さんは、冬には、選手の希望で練習にラグビーを取り入れたこともあったとか…。その一方で、試合では勝ちにこだわる一面も持ち合わせていました。中村監督は「負けず嫌いで、目先の1勝をすごく気にされて、練習試合でも公式戦でも本当に同じような感じで常にやっていました」と言います。そして、試合終盤の劣勢の場面では「ぼちぼちいこか」と優しく鼓舞したそうです。そんな“橋本野球”を継承したいと語ります。
おまえが笑っていたら勝てる
橋本さんは監督を退いたあとも、総監督として時間を見つけては毎日のようにグラウンドに通いました。スタッフルームのグラウンドが見渡せる席にどっしりと座って、好物のコーヒーを飲みながら練習の様子を楽しそうに見守っていたそうです。中村監督の指導方針や試合での采配について口出しすることはありませんでした。それでも大事な大会の前に「おまえが笑っていたら勝てる」と中村監督の帽子のつばに“笑”のひと文字を書き込みました。
達筆な橋本さんから“笑”は大事な大会の前に3回贈られました。中村監督は「1回目は5年前の夏。指導者として初めて臨む甲子園だったので、難しい顔や厳しい顔をしてしまうだろうと。そんな顔よりも穏やかな顔で臨んだ方が選手たちがのびのびとやれるんじゃないかとアドバイスして下さったんだと思います」と受け止めました。
恩師の教えを継承
選手の自発的な取り組みで体力や技術を磨き、試合では笑顔でその力を発揮させる。橋本さんの教えを受け継ぎ、中村監督は毎日全体練習のあとに必ず個人の練習時間を設けるなど自主性を大切にしてきました。選手もその指導に応えています。大リーグでプレーするのが夢というエースの達孝太投手は、先月から球速やボールの回転数などを細かく解析できる最新の装置を取り入れ、理想の投球を追求しています。達投手は「天理高校は自主性を求められる。自分でやらないと伸びていかないので、そこは自分に任せられている分、責任感というのはある。自分たちで考えて甲子園で勝つということを目標に、橋本先生に恩返ししたい」と話しています。
特別な大会で伝統をつなぐ
ことしで創部120年となる天理高校野球部。“橋本野球”が“中村野球”と進化し、今の選手を育てます。中村監督は「僕が笑っていればいいんじゃないですか。笑っていると彼らは練習通りの力を発揮できると思うので。まずは橋本先生じゃないですけど、目の前の1勝を全力で臨んで手にしたいなと思います」と、恩師が亡くなって、最初の全国大会となる特別なセンバツに臨みます。
(担当:今村亜由美記者)
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