高校野球

2018年08月22日 (水)

大阪桐蔭~"一球同心" 史上初の偉業を支えた記録員~

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100回の記念大会となったことしの夏の全国高校野球。大阪桐蔭高校はたぐいまれな勝負強さを発揮し、100年以上の歴史の中で史上初となる春夏連覇を達成しました。その大阪桐蔭高校野球部の部訓は「一球同心」。高校野球担当記者として今年のセンバツ大会から取材を重ねてきた私は、ある選手にその部訓の意味を実感させられました。

 

ことしの大阪桐蔭高校はプロ野球のスカウトも注目する投打の主力、根尾昂選手や4番の藤原恭大選手など5人が高校生日本代表に選ばれるほど戦力が充実していました。ともするとこうしたスター選手の活躍に目が行きがちですが、私は史上初の偉業を支えた影の立て役者としてスコアラーを務めた記録員の小谷優宇選手に注目していました。

 

小谷選手は中学時代、ピッチャーとして140キロを超えるストレートを投げる本格派として中学の日本代表に選ばれるなど将来を期待されて大阪桐蔭高校に入学しました。

しかし、2年生の時に右ひじを故障してしまい新チームでのメンバー入りはかなわず、今年春のセンバツ大会では記録員としてベンチから優勝の瞬間を見届けました。

その後、故障から回復した小谷選手は、春の大阪府大会で初めてベンチ入りして公式戦にも登板し「チャンスは少ないが結果を出してアピールしたい」と最後の夏のメンバーを目指しました。

けれども選手層の厚い大阪桐蔭高校。残念ながら小谷選手の努力は実りませんでした。

それでも小谷選手は「メンバーを外れても自分の持ち場での役割がある。対戦相手を分析することで勝利に貢献したい」とマウンドで投げたいという自分の思いを封印しデータ分析に取り組みました。

夏の甲子園では「対戦相手の試合を最低でも2試合分は繰り返しチェックする」とチームの練習中や宿舎で寝る時間を削って映像を見続けました。そして分析した内容をコーチとともにすり合わせた後に見やすいようにとB4用紙1枚にまとめてミーティングで選手たちに配るとともに試合中でも変化や気づいたことは選手たちに進言してきました。

例えば、3回戦の高岡商業戦。相手の高校日本代表にも選ばれた左投げの山田龍聖投手の対策として配球に特徴があることを小谷選手はつかんでいました。その分析が結果として表れたのが1点を追う3回でした。ヒットとフォアボールでランナー一塁二塁として3番の中川卓也選手の打席、ツーボール、ノーストライクの場面。小谷選手は分析の結果から「カウント2-0ではアウトコースの速球でストライクを取りに来る」と配球を読みました。中川選手は分析通りアウトコースの速球をレフトに運び、2点タイムリーツーベースヒットで逆転しました。これが決勝点となり大阪桐蔭高校は3対1で接戦をものにして勝ち上がりました。

 

準々決勝は小谷選手が「1番の山場になる」と見ていた浦和学院との対戦でした。

この試合は最速140キロ後半の速球が持ち味の浦和学院の渡邉勇太朗投手の攻略がポイントとなりました。この試合で小谷選手のデータ分析が生かされたのが2点リードの5回、4番の藤原選手の場面。打席に入る前に小谷選手は「インコースの速球で攻めてきているから狙っていこう」と声をかけました。この場面で藤原選手は「打席に入った時にキャッチャーが外野手をレフト方向に動かした。この場合は速球でくる可能性が高いというデータもあった」と初球の厳しいインコースの速球をうまくとらえてライトへのホームランを打ち渡邉投手を攻略しました。試合後、藤原選手は「小谷選手のデータのおかげで狙い通りいけた」と振り返っていました。

西谷浩一監督も試合後のインタビューで「小谷選手を中心にしっかりとデータを分析してくれていることが大きい」と賛辞を惜しみませんでした。

試合後、小谷選手は私に「自分の分析の成果かわからないが毎試合、みんなが打ってくれると本当にうれしいしやりがいを感じる」と話してくれました。

浦和学院を破った勢いで春夏連覇に王手をかけた大阪桐蔭の決勝の相手はここまで1人で投げ抜いてきたエース・吉田輝星投手率いる金足農業でした。「最後の最後に今までで1番のピッチャー。やりがいがある」と小谷選手は準決勝が終わってから深夜2時すぎまで3試合分の映像を繰り返し見て研究しました。試合前には「やれることはすべてやった。あとはみんなを信じるだけ」と頼もしく話していました。

迎えた試合では追加点の欲しい2点リードの4回、ランナー一塁で5番の根尾選手がツーストライクと追い込まれた後にツーランホームランを打って金足農業を突き放しました。その後も打線の勢いは止まらずヒット15本、13点をあげて史上初となる2回目の春夏連覇を達成しました。

閉会式の後、「吉田投手は追い込むとアウトコース高めの速球で三振を取りに来る。そこを振り負けずに捉えてくれたことが結果につながった。試合には出られなかったが19人目のメンバーという気持ちで、勝つためにデータをやってきた。少しでも役に立てていたらうれしいし、報われた気持ち」と私に話してくれた小谷選手の表情は連覇を成し遂げた選手たちと同じ達成感に満ち溢れていました。

 

偉業達成について西谷監督は「部員63人全員でつかんだ連覇」とレギュラーメンバーだけでなく練習をサポートしたメンバー外や裏方、1人1人が自分の役割を全うして、みんなで勝ち取ったものと強調しました。

大阪桐蔭高校の部訓である「一球同心」を体現しての史上初、2回目の春夏連覇でした。

ちなみに、小谷選手は今後、大学進学を目指し、野球部に入って大阪桐蔭高校で学んだデータ分析のノウハウなどを生かしながらピッチャーとして活躍したいと将来の目標を話してくれました。

 (高校野球担当 金沢隆大)

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