2019年06月12日 (水)
物語に魅せられて 更級日記・平安少女の秘密
源氏物語に憧れて物語作家となった、菅原孝標の娘。晩年にしたためた「更級日記」には、10歳から53歳までの自分の人生を回想した、瑞々しい文章が綴られていました。千年前の女性の心の内をたどることができる、貴重な記録。しかし、作家であることを書かなかったというところに、大好きな物語を出世の道具にしてしまったという、後悔の念がありました。
作家の江國香織さんが、大切な人を失った孝標の娘は源氏物語によって心癒されたというお話を受け、「物語は現実のほうにはみ出して力を及ぼす。そして、人を強くする。」とおっしゃっていたのが、とても印象的でした。物語という「創作」の世界から、リアルなものとして、勇気や力をもらうという経験、みなさんもありませんか。
「更級日記」には、身近な人を亡くした経験や道中での景色などが、晩年になって回想したとは思えないほど、細やかに記されていました。孝標の娘が忘れたくない気持ちや経験を書き残してくれたことで、私たちも、平安時代の女性の気持ちに思いを馳せ、自身の人生を振り返る大切な時間を分けてもらえるのだと思います。さらに千年後の日本人が、更級日記を紐解いてどんなことを感じるのか想像するだけでも、文学が過去や未来をつなぐ大切な歴史遺産であることを感じます。
『石山寺縁起絵巻』に描かれた、菅原孝標の娘のまどろんだ姿…愛らしく、ほっこりしましたね。先日、その絵巻を所蔵する石山寺を訪れました。石山寺は、紫式部が源氏物語の構想を得、孝標の娘や『蜻蛉日記』の作者、藤原道綱の母も訪れたという、女流作家ゆかりの地です。青もみじの新緑が目に眩しい季節。うねりあがるような硅灰石の迫力に圧倒されつつ、この地に身を置くと、私自身も日常生活を離れて、何か心の内を振り返りたくなるような気持ちになりました。紫式部像にご挨拶をし、孝標の娘にも会いたかったのですが、あいにく絵巻は出張中とのことで、残念。
西国三十三所巡礼の第十三番札所になっている石山寺。白洲正子さんの『西国巡礼』を読んでからというもの、いつか始めたいと憧れていた西国巡礼を、今回、石山寺で始めることができました! 等身大の仏様に祈ったという菅原孝標の娘は、こちらの観音様をどんな思いで見上げていたのかな、と色々想像しながら、私もいつか人生を振り返ることで、自分と向き合う豊かな時間が持てるといいなと、憧れを抱きました。今は、ブログを書くのも遅筆の私…夢は、ちょっと遠いように感じつつ。
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