かんさい深掘り

2022年12月16日 (金)

大阪 めっちゃふぐ食べるやん 全国の6割?なんでなん?

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代表的な冬の味覚、ふぐ。
大阪の繁華街を歩けば、ふぐと書かれた看板やふぐの形をしたちょうちんを多く見かけます。

昔からふぐの消費量で日本一と言われる大阪。
実に全国のおよそ6割を占めるとも。

産地でもない大阪でなぜこれほどふぐが食べられるのか。
その謎を調べていくと、ふぐをめぐるある異変も見えてきました。

(大阪放送局 千田慎太郎)

「ヒレ酒との相性が抜群!」

まず向かったのは忘年会でにぎわう大阪・ミナミのふぐ料理店。
ふぐを食べる理由を聞いてみました。

(70代男性)
「やっぱりてっちりは酒が進むから。ヒレ酒との相性が抜群」

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(30代男性)
「やっぱり冬と言ったら鍋!鍋と言ったらふぐ!そう決まっている!」
(60代男性)
「いろいろな食べ方があるからですね。最近は焼くのにハマってます」

それぞれ好みの食べ方もあるようで、ふぐへの愛がひしひしと伝わってきました。店も、忘年会需要にほくほく顔です。

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(玄品ふぐ 岡島孝彦執行役員)

「この時期は平日、朝から晩まで常に満席の状態です」

大阪のふぐ料理人 東京の5 山口の15

大阪の人々の「ふぐ愛」を象徴する数字があります。

ふぐの調理に必要な免許を取るための試験は都道府県ごとに異なりますが、大阪でふぐをさばく資格を持つ人は実におよそ11万人にのぼります。

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ふぐで有名な山口のおよそ7000人、東京のおよそ2万人と比べると、その多さがよく分かります。

毒との戦いの歴史

しかし、なぜこれほどまでにふぐが好きなのか。
ふぐの歴史を調べていくと、意外な発見がありました。

西日本を中心に、古くから食べられていた、ふぐ。
大阪・東大阪市の縄文時代の貝塚からも骨が見つかっているといいます。

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そこで、ふぐと大阪の歴史を調べるため、全日本ふぐ協会の大田晶子会長のもとを訪ねました。大田さんに話を聞いてみると、ふぐをめぐる歴史は毒との戦いの歴史ともいえる内容でした。

大阪湾で取れていたこともあり、昔から親しまれていたふぐ。

ただ、大阪にゆかりの豊臣秀吉の時代になると、ふぐを食べて中毒死する者が相次いだことから「ふぐ食禁止令」が出される事態に。

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こうしたことから生まれたことばがあります。

大阪などでは、ふぐ鍋のことを「てっちり」、ふぐの刺身のことを「てっさ」といいます。

大田さんによると当時、ふぐを食べると鉄砲に撃たれたように死んでしまうこともあったことから「鉄砲」はふぐを指すようになりました。

てっちりは、鉄砲(「てっ」ぽう)と、ちり鍋の「ちり」

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てっさは、鉄砲(「てっ」ぽう)と、「さ」しみの略語なのです。

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江戸時代に入っても藩によってはふぐ食が禁止されるなど、各地で禁止の動きがあったそうですが、大阪の庶民の間ではひそかにふぐ食は続けられてきたといいます。

これについて大田さんは、大阪人の気質が関係していると指摘します。

(全日本ふぐ協会 大田晶子会長)
「どんな魚も食していこう、いろんな知恵や工夫を使って食べよう、という精神が毒のあるふぐをも食べる大阪の食文化につながっていったと思います」

おいしいものは毒があっても食べる。
食の都と言われた大阪に住む人々の「こだわり」が感じられるエピソードです。

大阪にふぐがあつまり一大消費地に

長く続いたふぐ食の禁止。
明治時代以降、本格的に解禁され、高度経済成長期には需要が急増します。

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大阪湾沿岸で埋め立てが進み、ふぐは徐々に取れなくなっていきましたが、西日本各地からふぐがミナミの黒門市場に集まるようになります。

大阪の人々の「ふぐ欲」は、府外からの「輸入」で満たされるようになり、現在に至っています。

天然ふぐの漁獲量が激減!ふぐに異変!?

大阪で大人気のふぐ。
最近の漁獲量を調べていると、ある「異変」が浮かび上がってきました。
産地である瀬戸内海で天然のふぐの漁獲量が激減しているというのです。

水産研究・教育機構によると、2002年の瀬戸内海でのトラフグの漁獲量はおよそ185トン。それが2021年には36トンまでに。およそ5分の1まで落ち込んでいます。

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天然のふぐが食べられなくなるかもしれない。
実情を取材しようと、大阪市中央卸売市場に足を運びました。

全国からふぐが集まる、この市場。
卸売会社によると、ここへやってくるふぐにも異変がおきていると言います。

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(大水 近海課 平井龍治さん)
「天然物が減ってきています。下関産はあまり見かけなくなり、その代わり、最近は福島産が目立つようになりました」

温暖化でふぐが北上

天然ふぐにいったい何が起きているのか。
ふぐの生態に詳しい専門家に話を聞きました。

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(水産大学校 高橋洋 准教授)
「トラフグは17度が活発に活動できる水域ですが、その海域が北上してきていると言えます」


トラフグはもともと西日本や中部の暖かい海域に生息していました。
しかし、地球温暖化の影響で海水温が上昇。
ふぐは適した水温を求めて、生息域が東北地方などに北上してきているのです。

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例えば福島県相馬市にある相馬双葉漁協では、1シーズンでのトラフグの水揚げがこの4年間で14倍の28トンに跳ね上がっていると言います。

先ほど紹介しましたが、瀬戸内海での2021年シーズンでの漁獲量が36トンです。

相馬双葉漁協の水揚げ量が相当多いことが分かります。

毒がどこにあるのか分からないふぐも!

一方、生息域が変わったことで、予期しない事態も起きています。

一見すると同じに見えるふぐ。

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しかし、真ん中の「雑種」は調理しても食べられません。

ふぐは種類によって毒のある部位が違うため、種類を見極めて調理する必要がありますが、一部の種では生息域が変わったため、他の種との交雑が進んでいます。雑種は毒の部分が分からず、調理できないのです。

(水産大学校 高橋洋 准教授)

「ふぐの毒は処理される人がきちっと種を判別することで、的確に除去することができています。しかし、雑種というのは、毒がどこにあるかはっきりしていないので、流通させることができず、捨てるしかありません。漁業者さんにとってはすごく困ったことになっています」

大阪のふぐ食は大丈夫??

「天然物のふぐが食べられなくなるんじゃないか??」

そう思われた方も多いと思います。
ですが、安心してください。

専門家によりますと、天然物が食べられなくなるという心配は今のところありません。

主に出回っているトラフグとマフグについては、交雑する可能性はあるものの、現時点では大規模な交雑は起きていません。

さらに国も対応に動いています。
試験で雑種についての知識を問うよう各都道府県に通知を出していて、資格の保有者が多い大阪府でも今年度から出題されているといいます。

流通しているふぐの多くは養殖物ということもあり、ふぐの需要は十分満たせる状況です。

地球温暖化などの影響を受けつつも、大阪のふぐへの愛は止まりそうにありません。

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