かんさい深掘り

2022年12月23日 (金)

医療体制の薄い高齢者施設 コロナ禍でどう支援する?

新型コロナの感染が拡大するたびに増える高齢者施設のクラスター。早急な治療につなげていけるかどうかが大きな課題になる中で、病床がひっ迫し、重症化リスクの高い高齢者でも受け入れることは難しくなっていたのが実情です。医療ひっ迫を防ぎながら、高齢者施設でのクラスターにどのように対応するのか。

京都市では新たな取り組みが始まりました。 

 

全国で増える 高齢者施設のクラスター

cou01.jpg 厚生労働省の集計では、高齢者施設で去年以降に起きた5人以上の集団感染はおよそ1万5000件。
感染力の強いオミクロン株への置き換わりを背景に第6波と第7波で一気に増えました。
全体のクラスターの約半数を占めるようになり、今も急増しています。

 

難しい…施設の感染対策

cou02.jpg 私たちが取材したのは、およそ110人の高齢者が入居する、京都市内の特別養護老人ホーム。食事やトイレ、風呂などは、共用です。
入居者の9割が認知症を患っているといいます。
そのため、マスクを着けてもらったり、消毒に協力してもらったりするのが難しく、感染対策が取りにくいのが実情です。

cou03.jpg施設では、ウイルスが入り込むのを防ごうと、厳しい水際対策を実施してきました。
1つは、家族との面会です。
感染が拡大している時期は、オンラインのみで対応。
感染が落ち着いた時でも、玄関近くに設置されたブースでのみ、面会できます。
入居者と家族との間に、アクリル板も置くという徹底ぶりです。


職員はマスクのほか、ゴーグルを付けて、介護に当たっています。
職員たちは3年近く、食事会や旅行を自粛。職員が感染した場合、入居者にうつすだけでなく、介護にあたる人員が確保できなくなるというリスクもあるためです。

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しかし、ことし8月、1人の発熱をきっかけに、職員を含む20人以上に感染が広がりました。施設の嘱託医が対応しましたが、感染が広がるスピードは思った以上に早かったといいます。
この施設では、病気やけがなどの場合は、入院して療養してもらうことになっています。
何かあれば入院できるという安心感が、離れて暮らす家族の安心にもつながっているといいます。
今回、感染した人の多くは90歳以上で、基礎疾患を抱えていました。
嘱託医は感染者全員の入院を要請しましたが、病床のひっ迫を理由に断られ、実際に入院できたのは4人だけでした。

 

医療資源少ない高齢者施設

こうして高齢者の療養を余儀なくされる施設。
ことし4月の京都市の調査では、コロナ治療薬の投与を受けられる態勢が整っている施設は、全体の39.6%にとどまっていました。

私たちが取材した施設は「コロナの治療薬の錠剤が大きく、誤えんのリスクもあり、毎日飲んでいる薬との飲み合わせや副作用を考え、慎重にならざるを得なかった」といいます。

点滴は自分で抜いてしまう人もいるため、看護師が見守らねばなりませんが、常勤の看護師が2人という中では、感染した入居者だけにかかりきりになれず、施設での治療、療養は困難を極めたといいます。こうした事情で施設の嘱託医もコロナ治療薬の投薬をする事前登録をしていませんでした。

特別養護老人ホーム 山岸孝啓施設長は「入所者の多くは基礎疾患を抱えておられます。施設での治療や療養は限界があるため、入院していただくことが最善であると考えています」と話していました。

 

施設での治療 医師会が支援

十分な医療を提供するのが難しい高齢者施設をどう支援するか。

京都市では、ことし8月からクラスターが発生した高齢者施設に地域の医師会が支援に入り、診察や薬の投与などを行う取り組みを始めました。

cou04.jpgその仕組みです。

まず、クラスターが発生した施設が、市に対し「対応が難しい」と連絡をします。
市から依頼を受けた医師会の医師と看護師が施設に向かい、対応にあたります。
医師会が組織的に関わることで、クラスターの規模や高齢者の症状に応じて柔軟にチームを組むことができます。

cou05.jpg特徴のひとつは、複数の医師と看護師が入って一気に診療を行うことです。
上の映像のときには、5人の医師と4人の看護師が手分けして診療にあたりました。

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右京医師会 寺村和久会長
「重症化を防ぐには早期に治療することが大切です。クラスターの規模に応じて、医師が1人ではなく、数人で入って、できるだけ短時間で治療ができれば、重症化する人を減らせる可能性がある。そのために必要な体制を考えて支援に入っています。軽症の患者を施設で診るというのは原則になりつつあるので、次の第8波ではより効率的に対応していきたいと思います」

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取り組みに地域差はあるものの、京都市では、外部の医師や看護師が入ることで、早期の治療につながっていると評価しています。

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京都市介護ケア推進課 遠藤洋一課長
「入所者さんが感染された場合には、早期に治療につなげていく.なるべく早く医師の派遣とかの相談とかをしていただく、そういった形に持っていくのが重要というふうに考えています」

 

診療の体制 数字でなく内容を

実は、第6波のあとで厚生労働省は施設への往診体制の確保を求め、全国の多くの自治体は、ことし5月の調査で、「ほぼすべての施設が医師や看護師の往診を受けられる」と回答しています。

しかし、第7波ではそれでは治療までつながらなかったケースが私たちの取材ではいくつも出てきます。

施設の中で多くの高齢者に感染が広がっても、そして、地域で感染が拡大した状況でも本当に治療につなげられる体制が整っているのか。

行政には、数字だけでなく、その内容をきちんと確認することが、求められています。