2022年06月22日 (水)
通学路の安全どう守る~亀岡事故から10年~
小学2年生になったばかり。
女の子はいつもと同じ笑顔で自宅の玄関を出て行きました。
同級生たちと合流し、学校に向かう通学路。
その途中で事故に巻き込まれました。
京都府亀岡市で集団登校中の児童たちの列に無免許運転の車が突っ込み、10人が死傷した事故から、ことしで10年。
通学路の安全対策はどこまで進んだのでしょうか。
(京都局記者 絹川千晴・春口龍一)
■安全なはずの通学路で・・・
10年前の平成24年4月23日。
京都府亀岡市で当時18歳の少年が無免許で運転していた車が、集団登校中の小学生の列に突っ込み、児童2人と子どもに付き添っていた妊娠中の女性のあわせて3人が死亡。7人が重軽傷を負いました。
運転していた少年は裁判で懲役5年以上9年以下の不定期刑が言い渡されました。
亡くなった児童の1人、小谷真緒さん(当時7歳)です。
3姉妹の次女で、明るい性格だったという真緒さん。
真緒さんの自宅には事故当時、履いていた運動靴や持っていた筆箱などがあの日のままの状態で、大切に保管されています。
父親の小谷真樹さんは事故のあと、各地で講演会を行い、通学路の安全対策の強化を繰り返し訴えてきました。
これまでの自分の取り組みを真緒さんがどう見ているか、10年がたったいま、知りたいと思っています。
(遺族 小谷真樹さん)
「真緒はどんな大人になって、どんな友達をつくって、どんな夢をもって、どんなことに一生懸命だったのか。本当に夢でもいいから、僕が活動してきた10年をどういうふうに見ていてくれていたのか、教えてほしいなって思います」
亀岡市での事故をきっかけに、全国の通学路で安全点検が行われ、ガードレールや標識の設置などさまざまな対策が取られてきました。
主な通学路の安全対策です。
▼ガードレールや標識の設置
▼指定した区域の速度を30キロに制限する「ゾーン30」
▼ポールを設置して道路の幅を狭くする「狭窄(きょうさく)」
▼道路上に「こぶ」をつくり、ドライバーに減速を促す「ハンプ」
▼通学路の見守りボランティア育成など
しかし、道幅が狭い通学路では、ガードレールがそもそも設置できなかったり、不便になるとして住民の理解が得られなかったりして、対策が進んでいないのが実情です。
子どもたちが犠牲になる通学路での事故はその後も相次いでいて、小谷さんは安全対策がまだ不十分だと考えています。
(遺族 小谷真樹さん)
「子どもたちの安全を第1優先に、地域の方が一緒になって考えてもらったら、この10年で起きた通学路での事故や事件は1つでも少なくできていたかなと思います。何にも変えられない命を守るために対策を行ってほしいと思います」
■問われる運転マナー 現場で続く模索
ことし4月の現場の様子
亀岡の事故現場も生活道路で道幅が狭く、歩道やガードレールを設置するといった対策を取ることはできませんでした。
並行する国道の渋滞を避ける抜け道として、走行してくる車は多く、速度をいかに下げるかが課題となりました。
行政と警察、住民が協議を重ね、事故後からこれまでに取られてきた対策です。
▼車道を狭く見せる青い線を引く
▼車道の幅を狭めるポールを立てる
▼通学時間帯の朝7時~9時は一方通行に
▼制限速度を時速40キロから10キロ引き下げ など
しかし、事故を知らないドライバーが増え、最近は危険な運転をする車が再び目立ってきているといいます。
亀岡地域交通安全活動推進委員協議会 大道秀男さん
亀岡市の交通安全に25年にわたって取り組んでいる大道秀男さんは、毎朝、現場近くの小学校の前で、子どもたちの登校を見守っています。
「登校時に危ない車が増えている」という地元の要望を受けて、去年9月からは事故現場近くで見守りをしています。
とくに問題となっているのは、スピードを出す車と一方通行を逆走してくる車が増えていることだといいます。
逆走車を止める大道さん
取材した日には、およそ2時間で4台の車が逆走して通学路に侵入してきました。
(亀岡地域交通安全活動推進委員協議会 大道秀男さん)
「この道で事故があったというのに、安全運転をしない、しようとしないドライバーがいる。私の姿を見たとたんに減速はするけども、通過したらまたスピードアップしていくというのは、やっぱりちょっとおかしいのではないかと思いますね」
■車を減速させる 新しいシステム
車の速度を減速させるため、ことし2月からは新しい対策も始まりました。
児童たちが通っていた小学校の前の交差点に導入された新たな信号システムです。
このシステムでは、朝7時半から1時間は、歩行者側の信号が原則「青」。車側の信号が「赤」になっています。
街なかにはよく、車側の信号がずっと青で、歩行者が押しボタンを押すと赤になり、車が止まったところで、歩行者が渡る「押しボタン式信号」がありますが、この信号はその逆です。
車側の信号が常に赤で、車が近づいて横断歩道の前で停車したことをセンサーで感知すると、ようやく車側の信号は「青」に変わります。
通り過ぎると再び車側は「赤」に戻り、歩行者側はずっと「青」の状態になります。
横断見守る大道さん
このシステムの導入以降、子どもたちの見守りボランティアをしている大道さんは通学路の信号の手前で、車が確実に止まるようになったと話します。
(亀岡地域交通安全活動推進委員協議会 大道秀男さん)
「以前は、子どもたちが青信号で渡ろうとする時に滑り込んで前を通過する車があったんですよね。だけど今はもう完全にドライバーの目から見たら赤信号になっていて、きちっと止まってくれるようになった。それでもうやっぱり安心感がだいぶ違います」
京都府警によると、こうした歩行者を優先する信号システムの導入はまだ全国でも珍しいということです。
■防犯カメラを設置 遺族の思い
設置作業を見守る中江美則さん
新しい信号システムが導入された交差点には、ことし新たに防犯カメラも設置されました。
この防犯カメラは遺族の1人、中江美則さんが寄付したものです。
中江さんの娘の松村幸姫さん(当時26歳)は10年前の事故に巻き込まれました。
当時、妊娠中で、児童たちが安全に登校できるようにと付き添いをしていたのです。
カメラの側面には、幸姫さんの名前が書かれています。
中江さんはこのカメラが幸姫さんの目の代わりとなって登校する子どもたちを見守ってほしい。
そして危険な運転をする人への抑止力になってほしいと願っています。
(遺族 中江美則さん)
「交通事故を減らすためにはドライバーのモラルも大事だと言ってきました。道の改善は何万、何千と整備されたと思いますが、まだまだ事件や事故はあります。
ハンドルを持った人たちに、ここで監視カメラが捉えていることがわかってもらえれば、緊張感をもって徐行運転しようということにつながると思いますし、それで少しでも事件や事故が減ってほしい」
■通学路対策は道半ば・・・
国の調査では2021年12月末時点で、全国の通学路で対策が必要な危険な箇所は約7万6000か所に上っています。
事故から10年がたちましたが、依然として対策は道半ばです。
すべての通学路でハード面を整備することには限界がある中、遺族は社会とドライバー 一人一人が意識を変えていくことが大切だと考えています。
(遺族 小谷真樹さん)
「事故で私が想像していた幸せや真緒とともに生きる未来は一瞬にして奪われました。決められた通学路を歩いて、自分がルールを守っていても、心ない運転によって命が奪われてしまうという怖さを感じました。
社会が意識を高めれば必ず交通事故は減ると思っています。ドライバーの意識ひとつで守れる命はあります」
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