2020年03月30日 (月)
感染症専門家 "100年に1度の危機"
世界で感染拡大が続く、新型コロナウイルス。兵庫や大阪でも、感染者の増加を受けて不要不急の外出を控えるよう呼びかけるなど緊張が高まっています。
いまの感染の状況と今後について、感染症対策が専門の神戸大学・岩田健太郎教授に聞きました。(インタビューは3月25日に実施)
(神戸放送局記者 安土直輝)
■兵庫県内の感染“食い止められている”
ーまず、地元の兵庫県内の状況について、どう見るかー
兵庫県内では5つのクラスター(感染者の集団)が発生している。
姫路市の精神科病院、小野市の総合病院、宝塚市の病院の3つの医療施設、それから伊丹市のデイケア施設、神戸市の保育園。
きょう(3月25日)の段階では、小野市の総合病院や神戸市の保育園のクラスターは、ほぼ終息している。宝塚市の病院も終息に近づいている。姫路市の病院は、患者特有の感染対策の難しさもあって、まだ感染者が出ている。
ただ、県全体では、当初、懸念していた医療体制の崩壊は起きていない。
医療機関で感染者が出てしまうと、医療従事者が濃厚接触者になるので、外来や入院の受け入れを取りやめることになる。そうすると周辺の病院にしわ寄せが来る。実際、そうした事態も起こっていたが、いま、なんとかうまく乗り切っている。もっと被害が広がった可能性も十分想定できたが、兵庫県内でのクラスター対策、つまり濃厚接触者の捕捉や感染者の把握がうまくできていた結果だと思う。
それでも安心はできない。あるクラスターを抑え込めても、どこからか別のクラスターが発生するかもしれない。感染経路が分からない人が新たなクラスターを作り、感染経路の捕捉や抑え込みができなくならないようにするのが大事だ。
現時点で、兵庫県内で感染経路が特定できない患者は約10人とされ、数は多くないが、いま、外国、特にヨーロッパから戻ってきた人を中心に感染者が見つかっている。東京では、感染経路が追えない人が多く見つかっている。感染者の経路を捕捉し損なうと、ヨーロッパやアメリカのように、爆発的に感染者が増えてしまう。今は大丈夫でも、いつ、そうした最悪のシナリオに転じるか全く予想できない。
■最悪のシナリオ 感染者急増で医療崩壊
ーその最悪のシナリオとはー
オーバーシュート(爆発的感染)が起きてしまったときだ。感染者が短期間のうちに何百人何千人と一気に増える。このうちの2割が重症化し、たちまち病院を埋め尽くす。自分が診察する感染症指定医療機関では、いま数人の重症患者を治療しているが、オーバーシュートが起きると、こうした患者が桁外れに増えていく。病院に整備されている人工呼吸器が足りなくなり、呼吸状態が悪くなっても何もできないという状況が生まれてしまう。
ヨーロッパでは救急車が手配できず、医療機関にたどりつくことすらできない状況が起きている。こうした医療崩壊が最悪のシナリオだ。日本の医療は常にアクセスできるし、対応できている。まだ、最悪の状況からは、かなりかけ離れていると言っていい。
ー世界で感染者が爆発的に増える中、日本の感染者数は少なすぎるという指摘があるー
検査数が少なすぎて実際の感染者数を見誤っているのではないか。そうした指摘は、確かに海外メディアから寄せられている。しかし、日本は、ドイツなど一部の国と違い、そもそも感染者の全数把握を目指していないことに注意すべき。
日本は、選択的に検査を行う方針をとっている。感染者がこれだけ増えると、その数を正確に把握すること自体、あまり意味を持たない。むしろ感染者の傾向、トレンドをしっかり押さえて、重症者、死亡者をいかに少なく抑えるかがポイントになっている。数が把握できていなくても、日本が、諸外国よりもずっと抑え込めているのは事実である。
■軽症者・無症状患者 “居住スペース”確保も手か
ー最悪のシナリオ、医療崩壊に陥らないためにどうすべきかー
当初から指摘しているが、無症状の人や軽症の人は入院すべきでない。対処すべきは患者で、ウイルスではない。病院の中にウイルスを持っている人が増えれば増えるほど、院内での2次感染のリスクも高まる。軽症者や症状がない人は入院しない方がいい。
ただ、中国では、自宅で家族から感染するケースが結構起きているそうで、東北医科薬科大学が家庭内の感染対策の手引きを発表しているが、それでも管理が難しい人はいる、例えば、認知症や徘徊(はいかい)をする人。軽症であっても、すべて家庭内で管理するのは難しい。
今後、武漢で行われたように軽症の人の居住スペースのようなところを作るのがいいかもしれない。そういったものを作ることで病院の負担を減らせる。
ー病院での院内感染も医療崩壊につながる。患者にどう接しているのかー
私が勤務している病院では、新型コロナウイルスの患者やその疑いの患者を診察する際、聴診器は使っていない。診察の際、防護服を着用するが、耳、首回りが弱点で、聴診器を使うとウイルスに触れる可能性がある。患者さんの胸の動きと、酸素飽和度やモニターを見れば、聴診器を使わなくても呼吸状態が把握できる。
日常モードであれば、聴診器を使って異常な音を把握するが、使わなくても「それなり」に把握ができる。この「それなり」がいま大事で、100点満点の医療を目指すべきではない。
「ふだんならこうしている」という発想を全部捨てるべき。看護師さんなら、ナースコールがあればすぐに現場に行ってベッドサイドで対応するのが一般的だが、できるだけ現場に行かない工夫が必要。例えば電話で対応できることは全部、電話で対応する。現場主義に陥らないことが大事で、とにかく医療従事者を守る。守るためにリスクを背負わない。
この新型コロナウイルス感染症は、1918年のスペインかぜ、4000万人が命を落とした第一次世界大戦のころの感染症以来の、おそらく人類にとって最大の感染症クライシスで、100年に1度の危機と言ってもいい。こうした超非日常において、日常的な対応を取ることはやめるべき。
■五輪延期は「唯一の選択肢」
ー東京五輪の1年程度の延期はどう評価したかー
日本も失敗を重ね、ようやく軌道修正が大事と自覚はできるようになってきた。その象徴がこの東京オリンピック・パラリンピックの延期の決断だ。
2016年のブラジルのリオオリンピックでも感染症のリスクがあった。
あのときはジカ熱、蚊に刺されて起こる感染症が起きた。妊婦が感染すると小児の先天性異常のリスクが高まるとのことで、非常に危惧されていた。リオのときは、ほとんどブラジルだけの感染症だった。ブラジルの感染対策をきっちりやって、抑え込むことで安全にオリンピックを開催することができた。
今回の新型コロナウイルスの場合は状況が違う。東京で感染対策を進めることが必要だが、仮に東京で抑え込んだとしても、選手や観客を世界中から招かなければいけない。
ところが世界ではコロナウイルスの感染が爆発的に広がっていて、ヨーロッパ、アメリカ、南米、オセアニア、それからアフリカで感染が起きている。どこも収束の見込みが立っていない。おそらく、7月までに全世界的に収束させるのはほぼ不可能。選手が集まったときに、今、帰国者に対して行っているように、2週間の隔離をすることを選手は受け入れられないだろう。
そして、多くのスポーツは、我々がリスクと考える、狭い空間でたくさんの人がプレーする。レスリング、柔道、バドミントン、卓球、バスケットボールと、閉じた空間でいろんな人が集まり、接触がある。これはもう明らかに国内での感染リスク。
こうした目の前のリスクを正しく認識すると、いま、オリンピックを延期することは、我々がとれる唯一の選択肢と分かる。少なくとも7月に開かないと決めるのは、唯一の正しい選択だったと思うので、その選択をしたことはよかった。
多くの海外の選手も、リスクを背負ったままでオリンピックを開催するのはよくないと言っていますよね。
■今後は… コロナと共存も1つのシナリオ
ー終息はいつになるのかー
半年で終息する可能性はきわめて低い。日本国内ではある程度終息する可能性はあるが、世界的に終息する可能性はきわめて低い。日本を鎖国状態にして、抑え込む方法はあるかもしれないが、それはもはや日常ではない。
2009年の新型インフルエンザは、実はいまも流行している。あのとき、あれだけ騒いだインフルエンザは10年以上たっても今、日常的に流行し続けている。新型コロナウイルスもそうなってしまうことがありえる。
コロナウイルスと一緒に共存していく社会も想定しないといけない。いま、武漢では感染が抑えられ、ビジネスも8割方、再開しているらしいが、海外からの感染の輸入例はまだ起きていて、感染リスクゼロという状況になってきてはいない。武漢は分かってるだけでも8万人、それ以上の感染者が出たと言われているが、人口1000万もいるので、ほとんどの人がまだ感染していないという考え方もできる。サーモグラフィーを街じゅうにつけて、緊張したレベルが続いている。
もしかしたら、それが、明日の我々の姿かもしれない。
つまり、コロナウイルス感染症のリスクが、交通事故、地震、大雨のように、常に我々の日常の隣にいるみたいな生活を続ける、そういう社会もひとつのシナリオだ。
ー感染対策はいつまで・・・ー
見通しがつかないが、長期戦になる。ただ、都市機能の制限を強くし過ぎると人々は疲れるし、飽きる。そうすると慣れが生じてきて、日常生活に何となく戻ってしまう。油断が広がると、まん延のきっかけになってしまう。
ただ、ある程度リラックスする時間は意図的に作らないと疲れてしまう。上手に抜いて緊張を戻す。病院の中でもそうだが、緊張した状態が続くとミスが増える。上手な休養の取り方も必要。
行政も個人もこの線引きを常に微調整する必要がある。地域によって感染の規模やリスクが違うので、それぞれにおいてテンションの上げ方、下げ方を正確に判断する。極めて微妙なデリケートな判断が必要になる。
従来の日本の感染対策では、全国一律に同じ対策をとっていた。厚生労働省が指摘したことを、そのまま自治体や保健所が受け取って、上意下達のやり方だったわけだが、それでは通用しない。保健所、自治体がみずから判断・調整し、刻々と対応を変えていかないといけない。
日本の社会が昔から苦手としていた、その場その場の状況判断だが、やらなければならない。
かんさい深掘り
ニュースほっと関西 特集・リポート
ほっと関西ブログ
関西 NEWS WEB
京都 NEWS WEB
兵庫 NEWS WEB
和歌山 NEWS WEB
滋賀 NEWS WEB
奈良 NEWS WEB