2020年03月02日 (月)
震災からの復興 根底から支えた「測量士」
街なかで時々、三脚の上に乗せた機器をのぞきこむ人を目にしたことはありませんか。土地の位置や距離を測る「測量」にあたる人たちです。建物や街をつくっていくために欠かせない仕事です。
1月は阪神・淡路大震災から25年、3月には東日本大震災から9年になりますが、実はこうした大災害の後、街の復旧・復興を根底から支えたのも「測量」だったんです。
(大阪放送局ニュースリポーター 小野田真由美)
■震度7の激震 地面1メートル以上動く
阪神淡路大震災では、震度7の激震により、地面が最大で1メートル以上動きました。地震の揺れや火災の影響で、およそ25万棟の住宅が全半壊。もともとあった建物や道路の場所が、わからなくなってしまいました。
そこで必要になったのが、「測量」です。
土地の境界を確定させ、再開発に向けたデータを早急に集めることが求められたのです。震災直後から、測量士など、のべ2万人が過酷な現場に入りました。
そうした測量士の1人が水口悟さんです。
震災の翌日、神戸市を見下ろす六甲山を、10キロもの機材を抱え山頂に向かいました。
水口悟さん
「山頂にある『三角点』が、地震によってずれていないか確認するためでした。観測に使ったのは、当時最先端だったGPSの受信機です。山頂は、持参した弁当が凍ってしまうほどの寒さでしたが、衛星からの電波をひとり1時間以上かけて受信しました」
測量に欠かせないのが、基準となる「点」です。その1つが「三角点」です。花こう岩などで作られ設置されたもので、全国におよそ10万9000あります。
「測量の結果、三角点はおよそ30センチ動いていました。基準となる点を確認しないまま復旧・復興の工事をすると、道路や土地の境界などにもずれが生じてしまいます。自分にできる測量をやることが復興にいちばん近いと信じ、仕事に励みました」(水口悟さん)
■測量は海に浮かぶ人工島でも
震災直後から多くの測量士が入り、作業にあたった場所があります。
神戸港にある人工の島・ポートアイランドです。
測量士の大塚光二さんも、そうした1人でした。当時最新のGPS受信機を使って、データ集めに奔走しました。
大塚光二さん
「島を囲む岩壁のほとんどが海側に崩れていました。最大で6メートル近くも崩れた所もあって、立つことすら危険な現場でした。神戸港を建て直さなければ、神戸市の経済は復活しない。そんな思いで、みな死に物狂いで作業にあたりました。従来なら1年はかかる作業を、2週間ほどで完了させました」
■震災の記憶伝える「復興基準点」
阪神淡路大震災では、測量のスピードを上げるために“新たな点”も作られました。
「復興基準点」です。
こうした復興基準点も活用して、測量士たちは懸命の作業にあたりました。神戸市で復興計画にたずさわっていた吉井真さんは、当時の様子を次のように話してくれました。
吉井真さん(元神戸市職員・都心復興計画担当)
「『復興基準点』は、個人の家と道路の境界などを明らかにして、一刻も早く住宅地や商店街をよみがえらせたいと、国が、兵庫と大阪に800か所設けました。地図には一切載っていませんが、神戸の街を歩くときにはちょっとだけ下を向いて探してみてください。そこには“復興の象徴”が刻まれています」
「測量は縁の下の作業ですが、測量士がいなければ神戸の復旧はあんなに早くできなかったのは間違いないと思います。復興を後押ししてくれました」
■災害後も生かされる測量の技術
阪神淡路大震災で培われた測量の技術は、その後の災害でも生かされています。東日本大震災や熊本地震では、GPSはもちろん、上空から地形の変化を捉える最新のドローンなども活用されました。
震災直後にポートアイランドで測量にあたった大塚さんは、現在は、建設コンサルタント会社の経営にあたっています。若手の社員に、被災地での測量技術を伝えています。
大塚光二さん
「測量の技術は発展しながら、各地の復興を支えています。若手技術者たちには『測量機器を災害時にどう生かすか、常々考えておくことが大切だ』と伝えています。測量には、命を守ることと同じくらい重要な役割があります。災害が起きたときには、いの1番に駆けつけて地域を守る“守り人”という意識を持ってもらいたいです」
道路を造る、線路を敷く、家を建てる。そのすべての始まりが「測量」です。測量士たちは、きょうも“縁の下の力持ち”として、災害に強い安全な街づくりを支えています。
ところで、測量の方法は阪神淡路大震災をきっかけに大きく変わりました。
「電子基準点」の導入です。
衛星からの電波で、緯度・経度・標高などを連続的に観測できるようになりました。測量だけでなく、地殻変動の監視にも役立つものとして全国に約1300点。最北端は稚内・最南端は沖ノ鳥島・富士山などの山頂にも設置されています。
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