2019年09月25日 (水)
自宅に眠る『埋蔵携帯』 その驚きの価値は・・
学生時代に使っていたガラケー3台に初期のスマホが2台・・・。
これ、私の机の中に鎮座している古い携帯電話です。
もう電源も入らないものばかりですが、どうにも捨てられません。
すでに役割を終え、自宅で静かに「埋蔵」されているこうした携帯、その「価値」を追いかけました。
(大阪放送局記者・田辺幹夫)
■その価値、2兆1000億円!?
買い替えなどで使わなくなったのに、なかなか捨てられず、引き出しや押し入れの片隅で眠る携帯。
「埋蔵携帯」と名付け、その経済価値を計算した人がいます。
関西大学の宮本勝浩名誉教授。
「阪神タイガース優勝の経済効果」や「恵方巻き廃棄の損失額」など、身近な出来事を経済学の視点で分析してきました。
宮本名誉教授は、中古携帯の買い取り・販売を手がける「ゲオ」の協力で、国の白書や業界団体のデータを基に、埋蔵携帯の台数を推定しました。
その結果、国内にある「埋蔵携帯」の推定台数は、スマホが約1億3000万台、「ガラケー」と呼ばれるタイプの携帯電話が約8000万台となりました。
この台数に、店舗での平均買い取り価格を掛け合わせた結果、はじき出された「埋蔵携帯」の市場価値は・・。
推定で、あわせて2兆1000億円にのぼるというのです。
(宮本名誉教授)
「間違っていないかなと思って、もう1回、計算をやり直しました。他の人にも見てもらって計算間違ってないよねと。結果を見て、かなりびっくりしています」
■スマホの高性能化で中古でも高い価値に
なぜ、これほどまでの金額になったのか。
宮本名誉教授はスマートフォンの高性能化が進み、旧型でも十分に使えるため、中古市場で比較的、高い値段を維持していることが1つの要因と分析しています。
実際、中古のスマホは、どれくらいの価格で販売されているのか。
宮本名誉教授の調査に協力した「ゲオ」の店舗を訪ねてみました。
すると、性能や状態によってもさまざまですが、3年前に発売されたiPhoneでも4万円前後で販売されているものもありました。
確かに、ちょっと前のスマホでも、バッテリーのもちや、メモリーのサイズなどを気にしなければ、使うことはできる気がします。
(店員)
「幅広い年代層の方がお越しになりますが、以前に比べると中古のスマホを買う方も多いと実感しています」
■個人情報の流出は大丈夫?
それにしても、「埋蔵携帯」の数に驚きます。
なぜ、そんなに多いのか。
宮本名誉教授はその理由の1つとして、個人情報漏れが心配で手放さない人もいると分析しています。
確かに、一度、自分が使った携帯電話を売ろうにも、中に保存していたデータがどうなったのか、心配になる気持ちはわかります。
そこで、買い取られた携帯がどのように処理されているのか、ゲオに尋ねてみました。
ここでは、まずは買い取りの店の窓口で、持ち主の手で個人情報が消されているか、確認してもらっています。
さらに、買い取ったスマホを全国5か所にある拠点に集め、特殊なソフトを使ってデータを確実に消去する処理を行っているということです。
このソフトは端末のメモリーにさらにデジタルデータを上書きすることで、物理的にデータを読み取れなくする仕組みになっているということで、全国で、月平均およそ10万台のスマホなどの中古端末のデータ消去を行い、次の利用者に向けた販売を行っているということです。
(ゲオ 戸塚健人さん)
「個人情報の流出には、とても厳しい目が向けられていますので、売る方にも買う方にも安心してもらうために、念には念を入れて情報の消去に取り組んでいます」
■埋蔵スマホで「あおり運転」策も?
なるほど、売りに出された携帯は慎重にデータの消去が行われているようです。
ただ、それでも、買い替えなどで電話としては使わなくなったスマホを手放さずに、何か別の活用のしかたはないのか。
そんなニーズに応えようと、いま、注目されている使い道が、ドライブレコーダーです。
東京に本社のある自動車用品メーカー、「カーメイト」は埋蔵スマホを車のリア用のドライブレコーダーにするアプリを開発しました。
アプリは無料ですが、リアウインドーに取り付けるホルダーを販売しています。
アプリのダウンロード数は4月から7月までは、ひとつきに1000件ほどでしたが、あおり運転が大きな問題になった8月には、1か月間のダウンロード数がおよそ1万5000件と、これまでの15倍になったということです。
■1台から金0.03g
「数年前のスマホなら価値があるかもしれないけど、わたしの持っている携帯は10年以上前のガラケーでそんなに価値があるとは思えない」
ここまで読んで、そんな風に感じた方もいらっしゃると思います。
ところが、あまりにも古くなって中古市場でも売れなくなった携帯やスマホにも、まだまだ価値はあるんです。
端末の中の電子基板には金や銀などの希少な金属が含まれていて、うまく処理すれば、こうした金属を回収できます。
宮本名誉教授によると埋蔵携帯を希少な金属の価値として計算した場合、1台あたりの価値は約220円、埋蔵携帯全体では約460億円になるということです。
こうした使い終わった電子機器は希少な金属がリサイクルできることから、「都市鉱山」とも呼ばれています。
その量はまさに「鉱山」級で、来年、開催される東京オリンピック・パラリンピックでも、大会で使われる金・銀・銅メダルあわせて約5000個を「都市鉱山」から作り出そうと、全国で携帯電話や小型家電の回収が進められ、2年間ですべてをまかなうだけの量が集まりました。
どうやって、電子基板から希少な金属を取り出すのか。リサイクル事業を行っている会社「アサヒプリテック」の工場を訪ねました。
希少な金属を取り出す工程は、回収した大量の基板を、機械を使って小さく砕いたあと、薬品で溶かすなどの処理を行います。
わたしが見ることができたのは、最初の細かく砕く作業だけで、その先の工程で、どんな装置や薬品を使うのか、独自のノウハウがあり、企業秘密だということでした。
この会社によりますと、端末の種類によって多少の差はありますが、携帯やスマホの基板1つに含まれる金の量はだいたい0.03gで、これは、同じ重さのパソコンの基板から取り出せる金の3倍に上るということです。
(アサヒプリテック 坂本一弘さん 実はガラケー4台を埋蔵している)
「携帯の基板は、都市鉱山という観点からは質が高い、貴重なものです。回収した金は再び、電子基板の製造メーカーや宝飾品を製造される企業に出荷していて需要は高まっていると感じています」
■思い出を救出するイベントも
いろいろと取材を進めると、さまざまな価値があることがわかった「埋蔵携帯」。
売りに出せば、それなりの金額で買い取ってもらえるかも知れません。
それでも、役割を終えたスマホや携帯を手放せない理由を探ると、「電源が入らなくなっても、大切な思い出が入っていて手放せない」という声も数多くありました。
こうした声に応えようと、大手通信会社の「KDDI」は2年前から、古い携帯電話を無料で復活させるイベントを全国で行っています。
電源の入らない携帯は単に電池が消耗しているだけで中のデータは残っているケースが多く、専用の装置を使って電池を復活できれば、7割ほどの確率でデータが取り出せるというのです。
私が取材に訪れたこの日、大阪・八尾市のショッピングモールには、40代の主婦がやってきました。
女性が手に持っていたのは2台の携帯電話。10年ほど前と4年ほど前まで使っていたものですが、いまでは電源が入りません。
担当者が状態を確認すると、1台は電源ケーブルをつなぐと電源が入る状態になり、もう一台も専用の装置で電池が復活し、どちらも中のデータは生きていることがわかりました。
女性が携帯の電源を入れ、おそるおそる中を確認すると、出てきたのは、2人の子どもの幼いころの写真でした。
現在、高校1年になった息子と小学6年になった娘ですが、この携帯で写真をとった直後、娘に大きな病気があることがわかりました。
いまでは2人とも何事もなかったように元気に過ごしているということですが、当時は親として、とても不安な日々を過ごしたことを思い出し、時折、涙ぐんでいました。
「データが復活できて、本当にありがたいです。こうやって思い出が残っているのがうれしいですよね。早くデータを移さないといけませんね」
「思い出の写真をコピーすれば携帯電話を手放せますか?」
女性に尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。
「まだちょっと手放せませんね。携帯電話は連絡を取るだけの道具、ただの通信機器だったはずなんですけど、いまではそれ以上の『何か』になっている感じがします。うまく言葉にできないですけども」
■埋蔵携帯、真の価値は?
今回の試算をまとめた宮本名誉教授。
日本経済の活性化のためには、「埋蔵携帯」を中古市場に出し、活用しない手はないと指摘します。
でも、インタビューの最後に、『ところで、教授は使わなくなった携帯はどうされているんですか?』と尋ねると・・。
「いや、実は、僕も2台くらい持っているんですよね。この年になると亡くなる友人もおるんですけど、その友人とのメールとか写真があるとやっぱり、置いとこうかなと・・・」
いまや、わたしたちの生活に欠かせないツールとなった携帯電話。
手に持った感触や、すり切れたストラップとともにわき上がる思い出には、お金には換えられない価値があるのかもしれません。
みなさんは、「埋蔵携帯」にどんな価値を見いだしますか?
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