かんさい深掘り

2018年06月08日 (金)

ゴミ捨てができない!?

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「明日からゴミを捨てることはできない」と言われたらどうしますか?たちまち困りますよね。このゴミ捨てをめぐって地域である問題が起きています。

「自治会に入らないとゴミは出せないと言われました」

きっかけは、ツイッターに投稿されたシングルマザーの”悲痛な叫び”でした。自治会に加入しないと、地域のゴミ集積所が使えないというのです。背景にはどこの地域も抱えている、深刻な問題がありました。(大阪放送局記者 松原圭佑、中本史、松井亜紀)

 

シングルマザーの悲痛なツイート


5月中旬、ツイッターに投稿されたこのつぶやき。

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《ところで、今日週明けに引越しをするために挨拶回りにいった。自治会の班長とか言う人が、「自治会に入るかどうかは個人の自由だけど、ゴミの問題がある」と。「ゴミ当番はしますので」と言ったら「そういう問題ではない。役員したくなくて入らない人が出てしまうから。ゴミはだせない」とのこと》

ゴミ収集は、自治体のサービスですから、誰もが受けられるはずです。
 

いったい何が起きているのか。


私たちは、この女性とコンタクトをとりました。女性は、大阪・高槻市に住む40代のシングルマザーで、3人の子どもを育てていると言います。

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さっそく会いに行ってみると、自宅には10日分のごみ袋が積み上げられていました。暑くなってきて、においも気になるころです。

女性は私たちに涙ながらに話しました。

女性:「このゴミを見ると人間としての基本的な生活が出来ない状態なんだと、暗く沈んだ気持ちになります」

 女性の話では、ことの次第はこうでした。

5月中旬に、引っ越してきた女性。子どもを連れて近所にあいさつまわりをしました。すると自治会の班長から思いがけないことを言われました。

 「自治会に入らないなら、ゴミ捨てはできない」

ゴミを出す集積所は、自治会が管理しているため、自治会に入らないと、この集積所を使えないというのです。確かに自治会は掃除当番を持ち回りで担当し、カラス対策のネットを購入しています。

そこで女性は「自治会に入らなくても掃除当番などは分担します」と伝えましたが、自治会としては、例外は認めないというのです。

女性は困り果ててしまい、ツイッターに投稿したということでした。

 

なぜ自治会に入らない?


女性は、なぜ自治会に入らないのか。

シングルマザーということで女性はフルタイムで医療関係の仕事をしています。勤務は深夜に及ぶこともあり、土曜日や日曜日に勤務することも少なくありません。仕事から帰ると、家事が待っています。育ち盛りの3人の子育ては一筋縄ではいきません。3人それぞれ学校の行事もあります。女性は毎日が精いっぱいです。

そんな状況の中で、土日が多い自治会活動に参加するのは不可能だと言います。

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女性:「自治会の活動のために土日の仕事を休むのは難しいです。自分と子どもたちの生活をきちんとするのが、まず第一で、私には自治会活動は出来そうにない」

女性は、実家の父親に相談したところ、シングルマザーであることなど事情を説明して理解を求めたほうがいいとアドバイスを受けました。ただ、女性には近所の人たちに自分のプライベートな部分をすべて話すのは抵抗があったと言います。自治会の加入は本来、自由なはずです。

女性:「義務であれば事情をさらけ出すのもしかたがないとは思いましたが、任意の団体なのに、そこまでさらけ出さないといけないのかと思いました」

自治会活動ができずに近所に迷惑をかけるのも気が進みません。そこで女性は自治会には入らなくても、掃除当番や管理費用は負担することを申し出たのですが、冒頭にあるように自治会からは、「正式に加入して、活動にも参加が原則」と断られてしまったのです。

しかたがなく女性は、子どもたちになるべくゴミを出さないように言い聞かせながら、途方に暮れていました。

 

自治会存続のためには


一方、自治会側は、どう考えているのか。私たちは、自治会長にも話を聞くことができました。自治会長は、現役世代の男性です。

この自治会には100世帯ほどが加入していて、以前から未加入者には集積所の利用を認めていないということでした。その背景には、役員のなり手が少ないという事情があるといいます。

最近、自治会活動を負担に感じる人も少なくありません。自治会長は「自分も含めて、みなそれぞれ仕事や家庭などの事情を抱えながら自治会をやっている。1人だけ例外を認めると、自治会を抜けたい人が増えてしまい成り立たなくなる」と危惧していました。

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近年、生活スタイルの多様化が急激に進みました。昔ながらの大家族は少なくなり、女性も外に出て仕事をするのは普通のことになっています。地域のコミュニティが希薄化しているという指摘もあるとおり、隣近所の結びつきが薄れてきたなと感じる人も多いのではないでしょうか。

生活の中で、「自治会があって良かった」と実感できる場面が多くはないかもしれません。しかし、各地の自治会は行政の手が届かないところ補う役割を担ってきました。

行政から依頼される仕事も少なくありません。災害への備えや防犯パトロール、最近では高齢化に伴って地域のお年寄りを見守る活動など、住民どうしが支え合い、地域を守る活動の中心となってきました。そして、誰かが自治会長や役員をやるしかありません。加入者が減ってしまうと持ち回りの仕事はすぐに順番が回ってきてしまいます。

取材を通じて感じたのは、自治会の立場に立ってみると、ゴミ集積所を使うためであっても、加入してくれる人を確保したいという気持ちは十分理解できるということでした。

「自治会は任意加入だから入っても入らなくてもいい」

と済ましてしまうには、あまりに大きな役割を担わされていると言えるかもしれません。今回の自治会の対応も、こうした背景の中から出てきたものだと感じました。

 

自治体は・・・


では、本来、ゴミの収集を担う高槻市はどう対応しているのか。高槻市は、効率化のため10数世帯ごとに集積所を設けてゴミを集めています。集積所の管理は自治会が行っているケースが多いということです。

女性は、市に何度か相談しましたが、市からは「個別の収集は出来ないので、自分で自治会とよく話し合ってほしい」との回答が続いたそうです。

私たちが市に取材すると、次のような答えが返ってきました。

高槻市:「自治会に加入するかどうかと、ゴミ収集の問題は別の話だが、ごみの収集は集積所でしか行っていない。仮に自治会の集積所が使えない場合は、地域で10世帯程度が集まって自分たちで集積所を作ってもらえればごみの収集を行う。」

なお、自治会の集積所が使えるかどうかは、やはり地域でよく話し合ってほしいということでした。確かに市は自治会の加入とごみの収集は別問題だとしています。しかし、引っ越してきたばかりのシングルマザーの女性が、新たなごみ集積所設置に賛同する近くの10世帯を集めて自分たちで集積所を管理していくというのは困難です。

女性側、自治会側、市側、それぞれの意見を取材してきましたが、それぞれ、立場があったり事情があったり、うまく折り合いを見つけるのは難しそうでした。

 

 トラブル増加悩む自治体


同じような問題がほかでも起きているのではないか。そう考えた私たちはほかの地域を調べてみることにしました。ゴミの収集方法は市町村ごとに決めているため、まず、関西各地のゴミの収集がどのように行われてるかを調べました。

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赤く塗られているのが高槻市と同じようにゴミ集積所だけでごみを集めている自治体。
黄色が、家ごとにゴミを収集する「戸別収集」の自治体。
緑色が、両方を併用している自治体です。

「戸別収集」をしている自治体では、今回のようなゴミ集積所のトラブルは起こることはないでしょう。併用しているところは、それぞれの家が離れているなど、個別の事情があるところも含まれているようでした。

ただ、やはりゴミ集積所でまとめて収集しているという自治体は多くありました。こうした自治体のいくつかに聞いてみたところ、同じようなトラブルが珍しくないことがわかりました。

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そのうちの1つが高槻市の隣で、18万世帯が暮らす大阪・枚方市です。ここでもおよそ10世帯ごとに集積所で収集しています。

しかし、最近
▽高齢で自治会の役員が出来なくなってきた
▽共働きでゴミ当番が出来ない

などの理由で自治会を脱会したり、入らなかったりする人から、個別にゴミを収集して欲しいという要望が多く寄せられるようになったということです。しかし、枚方市では、現状のゴミ収集車の台数や人員を考えると難しいといいます。

担当者は、「高齢化や生活スタイルの変化で、これまでの収集方法ではうまくいかなくなってきている面がある」と頭を悩ませていました。

大阪市のように戦後すぐからずっと戸別収集をしてきた自治体もありますが、集積所方式をとってきた自治体が戸別収集に切り替えるのはハードルが高いのが実情です。大阪のある自治体では、事情を考慮して一部で例外的に戸別収集を始めたところ、どんどん希望者が増えてしまって、大変なことになっているというところもありました。

実はこうした自治体にも取材を申し込んだのですが、取材は難しいと断られました。自治体では、戸別収集の希望者がこの先も増えてしまうと立ち行かなくなってしまうという懸念があるとのことでした。

ちなみに、関西ではありませんが、札幌市の試算では、戸別収集に切り替えると時間も費用もおよそ3倍になるという結果が出ています。

  

そして決着へ


取材を進めているうちに、高槻市の女性のケースで進展がありました。今月1日、市の呼びかけで、女性と自治会、それに市の間で話し合いが持たれたのです。NHKの「ニュースほっと関西」の放送には間に合いませんでしたが、その後、①女性は掃除当番などできることはきちんと負担。②自治会の役員などの活動は免除、という形で、集積所を利用出来ることになりました。

ようやくゴミを捨てることができるようになったのです。

   

時代にあった新たなしくみを


こうした地域での問題について、専門家の意見も聞きました。地域社会を研究している大阪市立大学大学院の野村恭代准教授は、前提として現代において自治会は重要な役割を担っていることを、社会全体がしっかりと認識する必要性があるとした上で、次のように話しました。

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野村准教授:「自治会に入らないことが、ゴミ捨てが出来ないという問題に直結してしまうのは、今の仕組みが抱える問題だ。住民どうしができるだけ負担にならない形で可能な範囲で参加していく方法を模索するべきだ。これからさらに進む高齢化を考えると、今の時代にあった自治会のしくみを再構築する必要があるのではないか。」

ゴミの収集は本来、住民が誰でも受けることが出来る行政サービスです。そこに自治会の存続が絡んでしまっていることが、この問題を複雑化させています。地域のあり方が変わってきているなかで生じた”ひずみ”と言えるかもしれません。

もちろん自治会に入る、入らないは、個人の自由です。自治会なんて必要ない、わずらわしいと思う人がいるのもわかります。一方で、子どもやお年寄りの見守り、大きな災害が起きた時のことを考えると、自治会があって地域のつながりが強い方が安心して暮らせるのも確かです。

ゴミという身近で生活に欠かせない問題について行政も地域も個人もどうすればよりよいしくみを作ることが出来るのか考え直す時期に来ているのかもしれません。


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