2022年10月14日 (金)

「舞いあがれ!」撮影チーフの"ここに注目!"

見出し画像

こんにちは。連続テレビ小説「舞いあがれ!」で撮影を担当しています大石と申します。

「舞いあがれ!」ついに放送開始しました。

3月下旬にクランクインし、今日まで約半年。やっとここまで来れたという気持ちと、あっという間…という気持ちが混ざった不思議な感覚です。連日撮影に追われ、キャストもスタッフも撮影中盤の今が結構しんどい時期ではありますが、放送が始まり、視聴者のみなさんの反応を見ることができるようになり、とても励みになっています。

放送では物語はまだ始まったばかりですが、現場ではすでに舞ちゃん(福原遥さん)と共に、物語後半の撮影にさしかかっています。なので、放送で子役の舞ちゃん(浅田芭路さん)を見ると、とても懐かしい気持ちになります。今日は、子役の舞ちゃんと過ごした五島列島でのロケも振り返りながら、朝ドラの印象に残っているシーンの裏話などもお話できたらと思います。

劇中写真 主人公の舞

 

撮影チーフとして「舞いあがれ!」を撮影中

「撮影」という仕事は、ドラマの現場でたくさんある仕事の中でも、比較的イメージがつきやすい仕事ではないかと思います。私たちの仕事はズバリ「お芝居をカメラで切り撮ること」です。もちろんただ撮るのではなく、距離感、サイズ、アングルなど、お芝居やその場の空気感が伝わる画を常に考えながら撮影を行っています。

撮影が長期間におよぶ朝ドラの現場では、撮影部はA班B班の2班体制で撮影に臨んでいます。各班カメラマン4名、アシスタント1名の5名体制、ロケでは更に、フォーカスマン(カメラのピントを合わせる担当)やレールなどの特殊機材部も加わるので、多くの人が撮影の仕事に携わっています。その中で、私は、撮影部のチーフを担当しています。

ドラマでは、演劇やミュージカルなどのようにお客さん自身が見る場所を選ぶことができません。制作者側が切り撮った映像で、視聴者のみなさんの視線を誘導していきます。つまり、自分の撮った映像次第で、見てくれる方の印象が変わってくるということです。現場でも、自分の撮った映像に合わせて、照明や音声、美術、時には出演者たちも動いていくので、責任の大きさにプレッシャーを感じることもしばしば…頭を悩ませながら、必死に目の前のお芝居に食らいつく日々です。

画像 撮影のようす

 

舞台のひとつ、五島列島の美しさを

さて、ものづくりの町、東大阪で産まれ育った舞ちゃんですが、第二の故郷となる五島列島に旅立ちました。この五島で、舞ちゃんはさまざまな出会いを重ね、大きく成長していきます。五島列島では、5月にロケを行いました。

画像 五島の海

五島の美しい風景には、一目見て圧倒されました。水色やエメラルドグリーン、濃い青とさまざまな色合いを見せてくれる美しい海、大海原に浮かぶ無数の濃い緑の島々、複雑な地形をした岸壁、数多く点在する荘厳な教会、アコウの大木、そしてとても親切な地元の方々。どれを取っても素晴らしいもので感動しました。

私自身は千葉の田舎出身で、海も割と身近なもので自然にも慣れ親しんで育ちましたが、五島で見た風景は、今まで私が見てきたものとは違うものでした。この五島の大自然をどう芝居の中で撮っていくのかが、五島ロケ通しての自身の課題でもありました。

撮影は、さまざまな機材・手法を駆使して行います。基本となる三脚での撮影、より主観的な表現になる手持ち撮影、その他にも移動ショットでは、レールやミニクレーン、スタビライザー(防振装置)など、その時の撮影に適した機材・手法を選択して、撮影を行っていきます。

画像
レールを使っての撮影
画像
スタビライザー(防振装置)を使っての撮影

その中でも、五島のロケでは大自然をダイナミックに撮影するのに、ドローンが大活躍しました。

画像 ドローン

 

 

あがるか!?ばらもんだこ

中でも印象に残っているシーンは、きょう14日に放送した舞ちゃんが一太たちと共に2mのばらもんだこをあげるシーンです。

劇中写真 たこをあげる
10月14日第10回の放送から

舞ちゃんが明るさと自信を取り戻し、前向きに歩みだすシーン。そして、舞ちゃんが空に憧れを抱くきっかけとなる五島編でもっとも重要なシーンでもあります。

このシーンで演出、撮影共にこだわりのカットは、ドローンを使ったばらもんだこごしのロングショットです。みんなの思いがこもったばらもんだこが見下ろす五島の人々と景色。そして、いつかパイロットになった舞ちゃんが見るかもしれない空からの五島の風景です。しかし、このドローンカットが撮れたのは、実は奇跡に近い状況でした。

というのも…

この2mのばらもんだこをあげるために必要と想定された風速が約5m/s。対して、ドローンが安全に安定して飛行し、撮影できるのが風速5m/s程度が限度。つまり、風速が5m/sより強くても弱くてもこのカットは成立しなかったのです。各部署が、ばらもんだこが飛ばなかった時、ドローンが飛ばなかった時の代替案を検討しながら、現場に臨むこととなりました。

当初の撮影予定日は雨のため延期となり、祈るような気持ちで迎えた撮影当日。天気は快晴!しかし、午前中は風が弱く、半分以下のサイズのたこをあげるのにも苦労する状態でした。

不安も抱えながら、地上でのお芝居の撮影は順調に進み、ついにドローンカットの撮影の時が…午後からは少しずつ風も出てきていたので、期待感も高まり…風速は5m/sちょうど!空高く舞いあがる大きなばらもんだこ。更にその上に高く飛ぶドローン。天気も味方し、海も空間も最高にきれいな時間に撮影でき、想像以上に印象的なカットとなり、現場でも安と感動の拍手が沸きました。

 

劇中写真 ばらもんだこ

物語の中だけではなく、本当にいろんな人の思いがこめられて飛んだばらもんだこ、そしてドローンでした。

 

 

舞ちゃんに寄り添って

ドラマに限らずですが、撮影の仕事をしていて私が達成感を感じる瞬間は、演者さんと一体感を感じられた時です。撮影していると、頭で考えていることに関係なく、吸い込まれるように撮りにいっているような感覚になる瞬間があります。そういう時は、後で見てもいいカットが撮れていることが多く、お芝居と心が一つになれたなと思えるようなカットが撮れた時は達成感を覚えます。

劇中写真 舞の笑顔

ばらもんだこのシーンも、そんな達成感を感じたシーンの一つでした。このシーンでは、たこをあげる舞ちゃんに関わるカットは、舞ちゃんの表情を一瞬も逃すことのないように、自由に動くことができる手持ちで撮影に臨みました。

子ども時代の舞を演じる浅田芭路さんの、たこをあげる時の躍動感、たこあげに成功した時の喜びの表情は、お芝居とは思えない本物の舞ちゃんそのもの。そんな舞ちゃんに引き寄せられるように、私自身がいい表情をもっと近くで、一番いい位置で見たいと、自然と体が動きました。

 

画像
手持ちでカメラを構える私

舞ちゃんのこのあふれるような喜びの表情をしっかりととらえられたことで、五島編の成功に手ごたえを感じることができました。

現場では、まだまだ未熟で上手くいかず落ち込むこともあります。しかし、さまざまな困難にも負けず立ち向かう舞ちゃんのように、私も立ち止まることなく、最後までしっかりとお芝居に向き合い、「舞いあがれ!」の世界を描いていきたいと思います。

 

 

画像 カメラを構える筆者

カメラチーフ 大石理沙
2010年入局。長野局での4年間の勤務を経て、東京でドラマ撮影に携わる。担当番組は、「真田丸」「ひよっこ」「半分、青い。」「なつぞら」など。2020年に大阪局に異動。今回の「舞いあがれ!」が朝ドラ初チーフとなる。大阪局では、ドラマ以外にも「わが心の大阪メロディー」や「全国高等学校野球選手権大会(甲子園)」など、関西ならではの番組にも携わらせてもらいカメラマン生活を満喫している。

 

 

余談ですが、五島ロケが終わり五島列島を出発する際、撮影に協力して下さった島のみなさんがフェリーの見送りに来てくれました。五島の文化で、本土から赴任していた先生が島を去る時などには、島の人達が盛大にフェリーをお見送りします。下見の際にその風景に何度か遭遇し素敵すてきだなと思っていましたが、まさか自分達もこんなに盛大にお見送りしてもらえるとは思わず、とても感動しました。大変だった五島ロケでしたが、五島のみなさんのおかげで最後まで撮り切ることができました。コロナ禍にも関わらず私たちを温かく迎え、多方面でサポートしていただき、常に安心してロケに臨める環境を作ってくださった五島の皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。地元のみなさんとの交流も、朝ドラのロケならではの醍醐味だいごみだと思います。

子役時代の五島編は、今日で完結となりましたが、この後も要所で五島の映像が登場する予定です。お楽しみに!

画像 見送りしてくださる地元のみなさん

        ▼「舞いあがれ!」見逃し配信中

        ▼公式Twitterはこちら!

        ▼公式Instagramはこちら!