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糸満ハーレーのアヒラートゥーエー 伝統継承か動物保護か議論

刑事告発したNPO法人の主張と報道陣とのやりとりも一挙公開
  • 2023年07月18日

糸満ハーレーの中で行われる「アヒラートゥーエー」をご存知でしょうか。港に放ったアヒルを捕まえるもので、ゆうゆうと泳ぐアヒルと必死で追う人間との知恵比べともいわれています。このアヒラートゥーエーをめぐって、いま議論が起きているのですが…。

(NHK沖縄放送局記者 西銘むつみ・阿部良二)

糸満ハーレーが刑事告発!?

ウミンチュのまち糸満市の伝統行事、糸満ハーレー。豊漁や航海の安全を願う「ウグァンバーレー(御願バーレー)」や船を転覆させる「クンヌカセー」など、一連のレースや催しは市の指定民俗文化財になっています。

糸満ハーレーのウグァンバーレー

この糸満ハーレーの中の行事のひとつ、アヒラートゥーエーについて、東京のNPO法人「アニマルライツセンター」の岡田千尋代表理事ら2人が、7月10日に沖縄県庁で記者会見を開きました。岡田代表理事は、糸満ハーレー行事委員会の委員長のほか、6月のアヒラートゥーエーに参加した2人を、動物愛護法違反で沖縄県警察本部に刑事告発したと説明しました。

会見する岡田代表理事(右)

そもそもアヒラートゥーエーとは

このアヒラートゥーエー。そもそも、どのような由来があるのでしょうか。

1970年代に、沖縄で調査を行った国立民族学博物館の君島久子名誉教授は、中国の文献が、600年以上前の14世紀以前にさかのぼることを物語っていると指摘しています。

福建省や浙江省などでも、広く行われていると記述。その上で、▼水の神様へのいけにえやお礼、▼潜る技術の鍛錬、▼娯楽などいくつかの説を挙げ、「一見余興かにみえたが、これがどうして、かなり重要な伝統的行事であり、かつ国際的な広がりを持っていた」と述べています。

糸満ハーレーで行われる神事

糸満では、アヒルのほかにスイカも投げ入れられ、若い世代を中心に老若男女が参加します。日頃は漁船が出入りする漁港が巨大なプールと化し、ウミンチュやウミンチュのたまごたちが泳ぐ技術を披露します。

刑事告発の理由は

このアヒラートゥーエーを刑事告発した理由について、アニマルライツセンターの岡田代表理事らは次のように主張しました。

暴力的な行為が見られた。追い回して捕まえると骨折や窒息の可能性もある。精神的な恐怖、ストレスが非常に大きくなるようなイベントだ。

▼動物を海に投げ入れて大勢の人間が追いかけるというのは非人道的ではないか。昔から知っていると慣れて問題意識がない人も多いが、普通の方に話すとすごくびっくりされる。動物に対して非人道的な行為を行うのは、人間に対して非人道的な行為を行うことにもつながり、教育上の問題がある。

▼景品として生きた動物を利用することは全国的に廃止に向かっている流れがあり時代に反している

▼食べ物となる動物たちに、殺される直前に苦痛を与えるのは非倫理的だ。動物たちに感謝する文化が日本にはあるが、そういったものに全て反するのではないか。これは一番言いたいことだ。

▼人獣共通感染症にもつながる。鳥インフルエンザをまんえんさせてしまう可能性もある。

▼売買目的で参加している人がいるようで、教育上、風紀上、悪影響を及ぼしている

▼捕まえた後、個人が食肉処理する場合、人道的な方法が保証されていない。生きたまま飼育するにしても、ネグレクトのようなことが起こりうる

▼糸満ハーレーはアヒル取り競争がなくても十分に成り立つ。

報道陣の質問に対しては

この主張に対して、報道陣からは様々な質問が投げかけられました。

報道陣の質問に答える岡田代表理事(右)

Q 伝統行事だといわれているが。

A 伝統とか文化を言い訳にできないのではないか。中国で行われていたとされるが、糸満の文化ではないのでは。アヒルだけでなくスイカを投げ入れるなど、伝統文化を維持するという側面よりも、イベント性・娯楽性・収益性が絡んできているのではないか。

Q 伝統行事とはいえないという考えはどういうことか。

A 伝統だとしても時代にあわせて改善すべきだというのが私たちの考えだ。三重県の上げ馬神事のようなものも、かたちを変えていく必要がある。動物が死んだり、恐怖を感じたりするようなものは、変わっていかないと伝統行事として持続できなくなると思う。

Q 該当するのはアヒラートゥーエー全てか。それとも、その中での個別の行為か。

A 最初は乱暴に扱うのがだめかと思っていたが、いま総合的に考えると全体がだめだと考えている。取り扱い方ではなく、生きた動物を景品にするという考え方自体がアウトだ。

Q 例えば、沖縄でいえば闘牛があり、県外だと鵜飼いもある。そういったものも、いずれもやめるべきということか。

A それぞれ多少違うが、社会がどう受け入れているかだと思う。鵜飼いについていえば、いまの日本社会が鵜飼いを拒否している段階ではないので、それを求めるのは時期尚早だろう。沖縄の闘牛については、あまり知らない。

Q 売買については、アヒルを保護する観点で買い取っている人がいるという話もあるが。

A それは違う。保護団体は、こういうものに値段をつけるのは一種のタブーとしてやらない。やるとそれ目的で続いてしまうという可能性があるので。廃止、縮小を求めていることについて値段をつけるのはNGだ。

Q ハーレー行事委員会に2015年から改善・廃止を求めたということだが、直接会ったことはあるのか。

A 今までに直接会ったことはない。私たちが東京にいるということもあるし、そのあと、ことしに関しては電話がつながらなくなってしまった。文書のやりとりは当初はあった。

Q 団体として中止を求める呼びかけはしているのか。

A 私たちは漁協(ハーレー行事委員会)に連絡すると業務に支障が出ると思うので、糸満市に連絡するよう呼びかけている。私たちとしては市の方に決断をしてほしかった。

Q なぜ刑事告発なのか。

A 何を考えているかが問題ではなく何をやったかが重要な点で、これが法律というものだと思う。法律に違反したのだったら、先に警察に通報するのは何の問題もないと私たちは考える。動物だからそう考えるのであって、これが人間を殴った場合ならおかしくないだろう。

Q ハーレー行事委員会にはどうしてほしいのか。

A 生きた動物を使うのではなく、別の物に番号を書いて浮かべ、それを取ることで景品をもらえるというものを提案したい。伝統であっても代替して社会は成り立っている。動物虐待という負のイメージを持たないものに変えてもらうことが重要だ。生きた動物以外の景品にしてもらいたいと考えている。

主催者側の意見は

糸満ハーレー行事委員会 東恩納博委員長

主催者側のハーレー行事委員会の東恩納博委員長にも話を聞きました。

東恩納委員長は、糸満市議会議員から中止を求める意見があったことを踏まえ、地元にはかった上で開催を決めたと話します。

東恩納博 委員長
約50名近くいるハーレー行事委員会で決めていくことなんですよ。実施することに賛成の方は挙手をお願いしますと言ったらほとんどです。85%近い人が挙手して賛成多数とみなして、今回ことしも実施しますという形で決めた経緯がございます。

中止を求める意見が1000件以上寄せられている

しかし、糸満市や東恩納さんのもとには、中止を求めるはがきやメール、それに電話などが合わせて1000件以上寄せられています。そのほとんどが県外からの意見だといいます。

柔らかい素材のかごを配布

東恩納さんはアヒラートゥーエーの参加者には、水中で首をつかまないなど、丁寧に扱うよう呼びかけています。さらに、捕まえたアヒルがけがをしないよう、柔らかい素材のかごを配布するなど、虐待にならないよう心がけていることも、知ってほしいと話しています。

東恩納博 委員長
地元の人からね、これ動物虐待だからやめてくれと、で、ハーレー行事委員会もやめてくれという意見がほとんどを占めるんだったら、これやりませんよ。それは。当然のことです。しかし、地元の人たちは、これだけもう楽しみにみんな待っている行事ですのでね。大切に受け継いでいって、後世にね、またバトンタッチできるようにやっていくというのが大きな使命だと感じていますので、その方向で一生懸命取り組んでいきたいなと考えております。

取材後記

地域の伝統行事をめぐっては、宮古島の「パーントゥ」でも、厄払いの神に泥をなすりつけられたことを観光客が問題視するトラブルが起きています。

観光客にとどまらず、SNSの発達によって国内外に地域の伝統行事が広く知られるようになり、さまざまな意見が交わされるようになりました。

アヒラートゥーエーの議論は、多様な価値観にさらされる中で文化の多様性をどのように守っていけばいいのかという難しい課題を突きつけられているように感じました。

  • 西銘むつみ

    NHK冲縄放送局 記者・解説委員

    西銘むつみ

    1992年入局。沖縄放送局では主に沖縄戦や戦後処理を継続的に取材。3年いた首都圏放送センターでは、当時の環境庁、沖縄開発庁を担当。

  • 阿部 良二

    NHK冲縄放送局 記者

    阿部 良二

    旭川局、佐賀局、名古屋局を経て冲縄へ。県政担当として知事の訪米に同行。

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