ページの本文へ

NHK岡山WEBリポート

  1. NHK岡山
  2. 岡山WEBリポート
  3. 監修教師が語る! NHK岡山教育動画「考える岡山」ここがすごい!

監修教師が語る! NHK岡山教育動画「考える岡山」ここがすごい!

  • 2023年11月01日

NHK岡山放送局が、県内の先生たちの監修のもと制作した独自の教育コンテンツ「考える岡山」。NHK岡山が過去に放送したニュースや番組の映像を小学校の「地域学習」の内容に再構成した動画集です。地域学習とは、社会科で子どもたちが暮らす地域の特徴や産業、歴史などを学ぶものです。動画はNHKの教育動画ポータル「NHK for School」にすべてアップロードされ、いつでも・だれでも・どこでもインターネットで視聴できます。昨年度22本の動画がすべて完成し、学校現場で引き続き学習に用いられています。こうしたなか「考える岡山」のポイントを知り、よりよい活用方法を考えていくための教育関係者向けのセミナーが岡山市内で10月に開催されました。

約40人の教育関係者が参加

登壇したのは岡山大学教育学部附属小学校の南再俊先生です。岡山県下の小学校で行われる社会科の授業を長年にわたって研究していて、「考える岡山」のラインナップやコンセプトを監修した教師のひとりです。「学校現場にとって「考える岡山」は何がすごいのか?」をテーマに10のポイントを実例を交えながら語りました。

岡山大学教育学部附属小学校 南 再俊 主幹教諭 

1.「考える岡山」は100%"みんなのため"の教材

南先生が最初に語ったのは「考える岡山」のコンセプトそのものについてでした。

南先生

最初に少し大きな話で恐縮ですが、やはり現場の先生という「教育」を担う先生たちと地元岡山のNHKという「共放送」の担い手が一緒に制作したというコンセプトが素晴らしいと思っています。100%、地域の子どもたちとその成長を支える大人たち、つまり"みんな"のため、公(おおやけ)のために内容を考えることができる。その結果、学校での学びにおいて非常に純度の高い教材ができました。

南先生

ちなみにNHKと一緒にコンテンツを作って気づいたことは、実は授業づくりと番組づくりはとても似ているということ。「どのように問いかけ、どのような情報をどのように伝え、どのように考えさせるか」を設計するという営みは対象が教室の子どもたちか、テレビの前の視聴者かが違うだけで教師もテレビディレクターも同じです。それゆえお互いの経験やノウハウを高いレベルで結集させることができたと感じています。

2.わかる説明

次に南先生が語ったのは映像が持つ効果について。現場の先生の努力だけでは難しいことがNHKとのタッグを組むことで可能になったことが数多くあったといいます。実際に「考える岡山」の動画を参加者と一緒に視聴しながら3つのポイントを挙げました。

南先生

最初のポイントはシンプルです。多くの子どもたちにとって圧倒的に「わかりやすい」映像が多いということ。例えば県南部の干拓の歴史や人々の営みについて学ぶ「児島湾の干拓と先人たち 問題提示編」の以下の動画を見てみましょう。

「児島湾の干拓と先人たち 問題提示編」より 動画はコチラ
南先生

子どもたちは4年生で県南部の干拓の歴史やそこにある先人たちの努力について学んでいきますが、まず最初に干拓の仕組みについて知る必要があります。しかし、その仕組みは大人でも理解に時間がかかるほど。これまでの副読本(地域学習で子どもたちが使う実質的な教科書)のイラストでの説明ではなかなか理解できない子どもたちも多くいました。教師にとっても「難所」の一つです。

そこでNHK岡山が持つ放送局のグラフィック技術を使い、アニメーションで干拓の仕組みを説明したのがこの動画です。わかりやすさは動画を見ていただければ一目瞭然。連続した動きによって多くの子どもたちが直観的に干拓を理解できるようになりました。そしてこの仕組みを初めにしっかり理解することで、子どもたちはより探究意欲をもってそれ以降の学習に取り組むことができるようになります。

南先生

また動画では仕組みそのものだけでなく、たとえば干拓の際に利用する「潮の満ち引き」の説明から行っています。これも見逃せないポイントの一例です。小学校では潮の満ち引きは扱っておらず、海から遠い場所に住む子どもたちは経験から理解していることも少ないんです。このような教師が把握する子どもたちの実態にも即して映像を作っています。アニメーションという技術だけでなく、教師の経験も合わさることで授業で安心して用いられる教材となっているんです。

3.入手困難な映像

南先生

続いてはNHK岡山という地元の放送局が長年撮りためてきた映像の力についてです。「まちのうつりかわり 資料映像編」を一例に見ていきましょう。

「まちのうつりかわり 資料映像編」より 動画はコチラ
南先生

3年生の子どもたちが、自分が住む市町村の交通や土地利用の移り変わりについて学んでいく単元の回。動画の中では1960年代、まだ山陽新幹線が開通していない頃の岡山駅の空撮映像が出てきます。このような映像は我々教師には入手困難というかほぼ入手不可能です。白黒時代の、しかも空撮という古くから地元に根付き、膨大なアーカイブを保存するテレビ局ならではの映像。これが学校現場に学びのカリキュラムに合わせて還元されることは子どもたちにとって非常に大きな価値があります。

南先生

さらにこのような貴重な映像が提供されることは我々教師にも大きなメリットがあります。これまでは写真を図書館で探してくるなど教師一人ひとりが資料作りに長い時間をかけていたところを「考える岡山」によって映像を良質な構成とともに簡単に手に入れられるようになりました。これによって時間が生まれれば教師はより目の前の子どもたちのために時間を割けるようになります。より効率的な働き方と良質な授業づくりの両立が可能になるんです。

4.リアルな声

南先生

「考える岡山」には地域で暮らす人々や働く人々のインタビューがふんだんに織り込まれています。この「声」が子どもたちの学びを大きく変えます。なかでも最も象徴的なものを見てみましょう。「岡山県の自然災害とその対策」の、被災者の方へのインタビューです。学習指導要領(※1)では被災者の方や児童の心情に配慮しながらも「県内で実際に発生した自然災害の事例」に沿って防災や減災のための仕組みや営みについて学習を進めていくことが定められています。この動画でも平成30年の西日本豪雨の事例を取り上げています。
(※1 文部科学省が示す教育課程の基準。子どもたちの育むべき能力や学ぶべき内容が記されている)

「岡山県の自然災害とその対策 問題提示編」より 動画はコチラ

このインタビューは資料映像ではなく「考える岡山」の趣旨をご理解いただいたうえで、当時の状況や心情を改めて語っていただいたものです。このような「生の声」は子どもたちの学びにはとても大切だといいます。

南先生

この単元を学ぶ上で大切なことは、子どもたちが災害に対して想像力を持ち、防災・減災の必要性を切実に感じたうえで学ぶことです。これまでも副読本には被災者の方の声が文字として載っていましたが、実際の声や表情に触れることで子どもたちの学びの真剣さが変わります

5.「問題解決的な学習」に最適 

ここからは「考える岡山」の動画構成についてのポイントです。

南先生

「考える岡山」のホームページを見てみてください。
1つの単元(テーマ)に「問題提示編」と「資料映像編」という2種類の動画が用意されていることがわかります。

考える岡山HPより
南先生

この二つのクリップの存在こそが、「考える岡山」の最大の特徴です。
子どもたちが思わず考えたくなる流れで学習問題が見つかる「問題提示編」
高品質な映像で問題解決を助け、さらに新たな問いが示される「資料映像編」
学びの流れに対応した性質の異なる2つの動画があります。知識を得るだけでなく、子どもたちが自ら「問い」を発見し、調べるべきことを見定めたうえで問題を解決する。その結果さらに新たな問いを立てながら学びを広げていくという「問題解決的な学習」が可能になるんです。

南先生

いま社会は目まぐるしい速さで変化しています。この時代に子どもたちが知識だけを得ていても10年後にその知識が通用するとは限りません。一方「問題を解決していくプロセス」を学ぶことができれば、その力は子どもたちの一生を通して役に立つはずです。「問題解決的な学習」からはそのような力を養うことができます。

6.明確な単元構成

南先生

構成をもう少し細かく見ていきましょう。考える岡山は1単元2つの動画の中でさらに細かくいくつかのセクションに明確に分かれています。そしてそれぞれが小学社会科の「三次(さんつぎ)構造」の考え方とぴったり一致しています。

南先生作成の発表スライドより抜粋
南先生

小学社会科では、
▼「学習問題を見つけ、つかむ」までを一次
「問題の調べ方を考え、追究して解決する」までを二次
▼「さらに問題を深堀りし、社会に働きかける」過程を三次
このように学びの過程を大きく3つに分けています。この学校現場の考え方に対して考える岡山では、各単元の問題提示編の「学習問題まで」が一次、問題提示編の「考えるヒント」と資料映像編のそれぞれのトピックが二次、そして資料映像編の最後の「もっと考える岡山」が三次に対応しています。若い先生や社会科が苦手だという先生は、まずこの考え方に沿って授業づくりをするだけでも苦労しがちです。しかし考える岡山はすでに動画の流れがこの考え方のスタンダードを満たしています。子どもたちの思考の流れに沿った良質な構成であると同時に教師にとってもよりよい授業づくりのための参考になるのです。

7.「問い」で終わる構成

南先生

「考える岡山」の構成のなかでとりわけ特徴的で伝えたい点があります。それは普通の番組や動画と違い「問い」で終わるという、いわゆるオープンエンドと呼ばれるつくりです。問題提示編では、子どもたちが取り組むべき「学習問題」が出て、その問題を解決するために着目すべき点のヒントが示唆されて動画が終わります。そして資料映像編も、問題を解決した後、さらに「もっと考える岡山」というより深い問いが提示されて終わります。そして、その問いの質が秀逸です。

「蒜山高原の人々のくらし 資料映像編」のエンディング 動画はコチラ
南先生

例えば「蒜山高原の人々のくらし 資料映像編」では「蒜山高原に多くの観光客が訪れるのはどうしてか?」という問いが出されます。子どもたちは、豊かな自然という観光資源があり、高速道路が通り自動車で行きやすく、また地元の人々が定期的にゴミ拾いをするなど自然を守り活かすための努力をしているからだということを学びます。
一方「もっと考える岡山」では、自動車で多くの人が訪れると環境汚染の懸念があることや、定期的なゴミ拾いも多くの人が訪れ一部の心無い人がゴミを捨てているということの裏返しであることを示します。そのうえで「観光での地域振興と自然保護の両立のため何ができるか」という「さらなる問い」を提示して終わるんです。

南先生

学んできたことに対するもう一つの面や、現実に地域の人々が抱えている葛藤を最後に示すことで子どもたちは揺さぶられながらもより真剣に考え学びを深めることができます。「もっと考える岡山」の問いは、未だ答えが出ていない現在進行形の社会問題や大人でも頭を抱えるような問いです。けれども子どもたちもすでに社会の一員であり、子どもたちが本気で考える、考え続けるというのが社会科の授業のあるべき姿だと思います。「考える岡山」は、そのような「考え続ける社会科」の強い味方です。映像教材なのに「見る岡山」や「知る岡山」ではなく「考える岡山」というタイトルである理由はこの構成に詰まっているんです。

8.「見方・考え方」の明示 

南先生

現行の学習指導要領(※2)のキーワードの一つが「見方・考え方」です。学習指導要領では各教科ごとに鍛えるべき視点(見方)や考え方が示されており、子どもたちがこの「見方・考え方」をはたらかせることが深い学びにつながるとされています。

小学校の社会科においては「位置や空間的な広がり」「時期や時間の経過」「事象や人々の相互関係」などがその見方とされ、「場所・時間・つながり」などと簡単にまとめられることもあります。
(※2 学習指導要領は10年に1度改訂される。現在の学習指導要領は平成29年に示され、小学校では令和2年度から実施されている)

南先生

考える岡山の資料映像編ではこれらの見方に沿って2~3つのトピックが資料としてまとめられています。ホームページからはNHK for Schoolの部分視聴機能を使ったその部分だけ見ることができるリンクも設定されています。

考える岡山ホームページより  赤枠部分が「見方」に対応した資料部分
南先生

また「見方・考え方」を働かせることだけでなく、次の学びにつなげていくためにも子どもたち自らが「どんな見方・考え方を働かせ、それによってどんなことが分かったか」を振り返ることも大切です。そのときに考える岡山が示している枠組みによって、学びの振り返りがしやすくなるのです。もちろん、考える岡山を見るだけで主体的・対話的で深い学びの全てが達成されるわけではありません。教師の工夫が不可欠ですが、その大きな助けになることは間違いないでしょう。

9."取扱説明書付き"

南先生

さらに考える岡山ホームページの「先生のページ」には各単元の「活用案」いわば教師向けの取扱説明書がダウンロードできます。A4用紙2枚分ほどで動画を見るタイミングや見る前の留意点、見た後の想定活動などが端的に記されています。

 

活用案の例(一部)
南先生

それぞれの単元の制作の監修を担当した教師が執筆していて名前も記されています。全員岡山県内の先生ですし、質問があれば直接聞いてもいいと思います。活用案はその名の通り「案」つまり一例にすぎませんが、社会科が苦手な先生や動画教材の活用に慣れていない先生の助けになるはずです。「まず、この単元で活用してみようかな」というときに背中を押せたらと思っています。

10.「令和の日本型学校教育」対応

最後に南先生は、今の子どもたちと教育現場を取り巻く環境のなかで考える岡山をどう活かせるかについて話しました。
 2021年1月に中央教育審議会の答申の中で示された「令和の日本型学校教育」。デジタル化やAIの進化などの社会の劇的な変化やコロナ禍など、予測困難な時代の中で日本の学校教育の新しいあり方が提起されました。

南先生

考える岡山は「令和の日本型学校教育」のなかで大切にされていることの多くを実現しながら活用できると考えています。例えば「個別最適な学び」。考える岡山をはじめとするNHK for Schoolの動画はGIGA端末が児童に一人1台整備されている現在では児童それぞれの端末でそれぞれのペースで繰り返し見たり、理解に合わせて好きなところで止めたりできます。またこれから学ぶ場所のイメージなど、問題解決の前提への理解度を動画視聴によって揃えられると、そこから「協働的な学び」にもつながりやすいでしょう。そして考える岡山は学校だけで見られるものではなく、昨年はテレビで放送し、今もインターネットで誰でも視聴可能です。つまり「社会に開かれた教育」の一つのかたちです。大人も学べるような動画で子どもが学ぶ。これは尊い社会の姿だと思います。

でも、まだまだこれから!

セミナーではこのほか、考える岡山をはじめとする動画コンテンツを授業で用いる際の教師の困りごとを解決する質疑応答や、考える岡山の今後の展望などについての議論などが行われました。ここまで考える岡山の「ここがすごい」を語っていた南先生ですが、セミナーの最後に南先生が出したスライドにはこんな言葉が書かれていました。

「まだまだこれから∞ 考える岡山」—
 南先生は次のように語りました。

南先生

考える岡山は昨年、制作が一段落しましたが、むしろ我々教師が「考える岡山」をどう教室で活かしていくかという意味ではまだまだここからです。動画は学年を超えて今後5年・10年と繰り返し活用することができます。「このような使い方ができる」「子どもたちのこんな学びにつながった」「社会科だけでなく、こんな教科でも活用できた」など、実践が積み重なっていくことで考える岡山はまだまだ成長していくと思います。

中国地方では今年度、NHK山口局の「やまぐちクエスト」・NHK鳥取局の「考える鳥取」とNHKの地域放送局×地元の先生のタッグによって生まれた地域学習動画コンテンツが新たに生まれています。今後も地域のNHKと学校現場が協力しながら、このような子どもたちのための取り組みを進めていきたいと考えています。

ページトップに戻る