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岡山発 西日本豪雨5年 改修工事 国交省河川事務所元所長の思い

NHK岡山「もぎたて!」リポート
  • 2023年07月06日

西日本豪雨で倉敷市真備町を流れる小田川は、堤防が決壊して大きな被害が出ました。その川の流れをスムーズにして、同じような被害を防ごうと、今、国土交通省が工事を進めています。この工事を担う河川事務所の初代所長は、職場を移ったいまも無事の完成を願い、真備を見つめています。
(岡山放送局 記者 遠藤友香)

いつもは穏やかな小田川

広島県を源に、岡山県西部を東西に流れる小田川。倉敷市内で、岡山県三大河川のひとつ、高梁川に合流します。いつもは静かなその川の流れ。しかし、5年前の7月6日はその様子が一変しました。大雨で高梁川が増水し、小田川の流れがせき止められ、水位が上がっていきました。増水した本流に支流の水が流れにくくなり、水位が上がる「バックウォーター」と呼ばれる現象です。小田川とその支流では各地で堤防が決壊し、倉敷真備町は大きな被害を受けたのです。町の面積の約27%が浸水し、町内では逃げ遅れなどで51人が死亡しました。

河川事務所の“初代所長”

小田川の流れをスムーズするため、高梁川との合流地点を付け替える。
実は、豪雨4年前の平成26年に事業化されていました。その工事が本格化する前に西日本豪雨が発生したのです。川を管理する国土交通省は、その工事を急ピッチで進めようと、豪雨翌年の4月、倉敷市真備町に「高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所」を設けました。

桝谷有吾さん

その事務所の初代所長を務めていたのが、国土交通省の桝谷有吾さんです。現在は東京の本省で、インフラ分野のデジタル化を担当する部署で働いています。桝谷さんは平成25年から2年間、中国地方整備局の河川計画課長として、この付け替え工事の事業化にかかわっていたのです。

桝谷有吾さん
「大変なところに行くなというのが最初の思いだったのと、課せられた仕事の重要さというのが分かっていたので、私もしっかりやらなきゃいけないなという思いがありました。工事が間に合うのが一番だったのにそこができなかったのが本当に悔しいし、残念でしかたがなかったです」

地元からの厳しい声

工事を本格化させて10年で完成させる予定を、5年前倒しする。令和5年度末の完成を目指して、河川事務所は動きだしました。そのためには工事全体をきちんと監督し、住民たちの理解が欠かせません。所長の重責を果たそうと、桝谷さんは精力的に地元を回りました。しかし、最初は、厳しい声をかけられることもあったといいます。

桝谷有吾さん
「はじめは地域の人から『どうなってんだ』みたいなことを事務所に来られて、大声でしゃべられる方もいらっしゃいました」

住民たちと本気で向き合う

工事の住民説明会の様子

転機となったのはその年の5月の住民向けの説明会でした。“どう被害の責任をとるのか”という意見に、桝谷さんは部下とともに“一緒に地域をよくしていきたいんだ”という素直な思いを伝えました。住民と本音でぶつかり合い、話し合う機会になったと振り返ります。
 

桝谷有吾さん
「まずしっかり僕らが受け止める。それを踏まえて、次どうするのかというのを一緒に考えさせてもらう。公共工事は“地域のための事業であるべき”だと思っています。地域の人に役所がやることを理解もしてほしいし、それに対して意見を言ってほしい。地域が本当によくなるために一緒に作っていきたいと話しました」

桝谷さんたちは、2年間に60回もの説明会を重ね、「改修工事は氾濫防止につながる」と訴えました。
 

地域とともに避難訓練や出前授業も

出前授業を行う様子

地域の人たちの命を守りたいと、新たな取り組みも始めました。住民も参加した訓練では、避難に役立ててほしいと、通信アプリで災害情報を共有する仕組みを試してもらいました。また、小学生対象の出前授業も開き、大雨に備えた行動計画のつくりかたを教えました。

家族の支えが

家族で真備の写真を振り返る

桝谷さんが大事にしたのは地元とのコミュニケーション。
それを家族が支えてくれたと振り返ります。桝谷さんは妻と、当時3歳、それに0歳の幼い娘2人と真備町に引っ越しました。地域に溶け込もうと、休日は家族で交流のイベントにも参加。真備のことを知るきっかけになり、仕事にも生かせたと言います。

桝谷有吾さん
「仕事にも不安がありましたし、子どもが小さかったので子育ても不安がすごくありました。しかし、地域の人たちがとにかく優しく、仕事もプライベートも、どちらも支えてもらったなというふうに思っています」

桝谷さんの妻
「災害直後でしたが、困っていたら助けてもらえるし、すごく人との距離が近くて、住みやすいと思いました。今まで住んだ中で一番の町です。人も町もすべてがよかったです」

おととし3月までの2年間、所長を務めた桝谷さん。本省へ戻ることが決まった時、住民から贈られた賞状や色紙は宝物として、いまも自宅に大切に飾っています。

桝谷有吾さん
「僕も真備に生活していて少し認めてもらえたのかなというのがあって、うれしかったです。真備町は僕にとっては第2のふるさとみたいな感じです」

工事の無事の完成を

付け替え工事は、令和5年度末の完成を目指して最終段階です。令和5年6月の時点で進捗率は80%を超えました。所長を退任したあとも、年に数回、真備を訪ねて工事を見守ってきた桝谷さん。今月にも家族で真備町に「里帰り」をする予定です。

大雨の時期や台風の時期を無事に越えて、早く工事が完成してほしいと願っています。

桝谷有吾さん
「まだ工事が完成していないので、雨が降ると不安な人たちもいっぱいいると思います。1日も早く工事が完成してほしい。そして、行政と地域の方々が一緒になって、よりよい地域作りが進んでいったらいいなと思っています。これからさらに真備町が発展することを期待しています」

  • 遠藤友香

    岡山放送局 記者

    遠藤友香

    2019年入局 岡山市政や県内経済、西日本豪雨などを取材

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