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2021.10.22私の“人生をかけた一作”「おかえりモネ」を
振り返ってみました

私の“人生をかけた一作”「おかえりモネ」を振り返ってみました

はじめまして。「おかえりモネ」チーフ演出の一木いちきです。

これまでは大河ドラマ「義経」「天地人」「八重の桜」「いだてん」、連続テレビ小説「どんど晴れ」「ゲゲゲの女房」「まれ」ほか、 岩手県大船渡市が舞台の「恋の三陸 列車コンで行こう!」、福島県浪江町が舞台の「LIVE! LOVE! SING! 生きて愛して歌うこと」など、 東北を舞台にしたドラマを多く手がけました。

「おかえりモネ」はチーフ演出としては初の作品です。というか、チーフ演出としてやれるのは生涯一作と思っておりますので、 「おかえりモネ」は私の人生をかけた一作です。

そんな作品が、まもなく最終週を迎えようとしています。この少し変わった朝ドラが、どのように生まれ、作られていたか。 フィナーレに向けてお伝えできればと思うことを振り返ってみました。

どうかおつきあいください。

ドラマ演出の仕事とは? ~おかえりモネの具体的場面から

まずは、ドラマの演出って一体どんなことをしているの? について。

まずは現場を仕切る=あらゆるものへの方向性を示す役割をしています。脚本に書かれたシーンの舞台はどこか、 どういうシチュエーションから始まるか、どういうお芝居をするか、それをどのように撮影するか、などについての方向性を示します。
では、「おかえりモネ」の具体的場面を使ってお話しさせていただきます。

第20週 第98回(9月29日放送)ラストシーンであり、第3部幕開けにおける最重要シーン。
亮がモネの帰還について、「きれいごとだ」と突きつける場面です。

まずは舞台の選定。10代のころならば2階のモネの部屋で話をすることも考えられますが、台本上の設計通り「居間」を選びました。 彼らはもはや子どもではなく収入ある大人となり、家を維持するメインメンバーとなったことを、 舞台空間=居間で示します。

座る位置=ステージングは極めて重要です。季節が夏ならばガラス戸を開け放ち、廊下縁側庭なども人物を配置する場所になりえますが、 11月の東北なので、こたつに入る配置にします。モネはテーブルのセンター席、いわゆるお誕生日席に座ることが多いですが、 ここではホスト役としての位置にしました。モネの位置も、家に友人を招きホスト役をする十分な年齢となったことを示すための演出です。

亮は後から来るので、最も庭に近い位置に配置します。
未知の位置は、寝てしまった悠人と三生に毛布をかけてやることを「利用して」意図的に途中で変えています。 この後、モネと亮のガチの対決に備えること、そして未知が、モネとの約束「私がそばにいる」を守り、3年にわたって亮をさりげなく 支えてきたことを、視覚的に印象づけるためです。

モネから亮を見たら(撮影したら)、未知が亮に寄り添っているように見えます。しかしリアルな距離は絶妙に開いています。 恋人同士ならばもっと近づきますが、それ未満であることを、別カメラが見せる「距離」で感じてもらいたいという位置取りです。

さて、撮影する際には、一度で芝居のすべてを撮るか、方向を分けて撮るかを判断します。
二人とも感情を激こうさせる場面の場合は、4台のカメラを駆使して、芝居のすべてを撮ります。

例えば第15週 第75回(8月27日放送)ラスト、モネと未知が亮からの電話を巡って言い合う場面は、最初から最後まで一発撮りです。 東京の象徴のような服を投げる未知、投げられたモネの表情、どれも一発撮りの集中の中でこそ撮りえた芝居です。

一方、この場面の軸は亮とモネだったので、方向性を分けて撮ることにしました。

モネ方向を先に、亮の方向を後にしました。清原さんや蒔田さんは圧倒的に一発目に驚異的な集中を見せる役者さんです。また、二人はそのときの人物の考えていること、心理状態などを確認したら、それを腹に落として人格ごと 表現してくるような演者です。

そして永瀬さん。歌手活動や演劇などライブの舞台経験を豊富に持つ方によく感じる表現の強さ、たくましさを、彼もやはり持っています。 繰り返し演じても鮮度を失わない、それどころか、やればやるだけ登ってきてくれる人です。 二人の芝居のよさを抽出するためにも、2回に分けて撮影することを選びました。

いつも穏やかな笑みをたたえ、みんなより一歩大人に近づいていたかのような亮が初めて見せる顔でした。永瀬さんに伝えていたのは、 頑張りたいと思えば思うほどままならない現実があるということです。

古くから7つの海にこぎ出し世界と交わってきた気仙沼の人々。日本中の漁師を明るく迎え入れ、「海と生きる」を掲げる強さ。 圧倒的な美しい風景。
その一方で、サンマをはじめ漁獲高は目に見えて減少。人口は減り、それ以上の速さで漁業者が減っている現実があります。

亮は毎日役に立ちたい、何とかしたいと思って生きている。思えば思うほど苦しくなる日がある。それでも父が海に戻るまではと、 戻りたいと思えるようにと、必死に耐えている日々がある。その日常を腹に落としてこの場面に挑みましょう、という話をしました。

最終的に、役者さんの演技に責任を持っているのも演出です。ただ、表現者として研ぎ澄まされた役者さんへの演出は、 彼らが信じられる空間を提供し、心地よく芝居ができる空気感を作る、ということでほぼ終了と言っていい。 それはそれで実に! 難しいことです。

15~25歳に届けたい、おかえりモネの世界

「おかえりモネ」は主人公が15歳で東日本大震災にあってから、その後の10年をいかに生きたかを描く物語です。 それはそのまま、この世代の方々にこそ、この物語を見てほしいという願いを込めています。

企画の原点に、気仙沼市の中学3年生の答辞があります。「自然の猛威の前には、人間の力はあまりにも無力で、 わたくしたちから大切なものを、容赦なく奪っていきました」。「見守っていてください、 必ずよき社会人となります」と決意と覚悟を語っていました。

深く感動するとともに苦しくもなりました。間違ったり回り道をしたっていい、あなたたちはどこで何になってもいい、 どうかそれも忘れないでと願わずにいられませんでした。

亀島のモデルとなる気仙沼大島の中学生たちは、およそ一週間物資の供給がない中、プールの水をろ過するなどあらゆる手を使って 島民の命を守りました。とにかく大人にならねばならなかった、希望にならねばならなかった。そして本来ならば先頭に立っていたはずなのに、 島に戻れなかったモネを主人公とし、あのとき何もできなかったとひそかに悔やみ続ける多くの人々の思い を託すこととしました。

しかし翻って、この物語は何も気仙沼の話にはとどまらないと思っています。
いま災害級の渦中にあり、学生たちは今しか体験することのできない特別な時間をことごとく奪われました。こんなに若者が、 若者としていられないのは、戦時中以来ではないでしょうか。

それだけの災厄が降りかかる中、それでも社会の役に立とうとしてくれているこの優しい世代のみなさんに、伝わればいいなと思っています。 あなたたちのことを見ているよと。決して勝手に「希望」と祭り上げることをせず、まずは私たち世代が頑張るよと。 「モネ」に出てくる大人たちのセリフは、実は若いみなさんに向けての、かなり直接的なメッセージでもあります。

彼らは常に正しい人間ではないし、弱い部分や欠点もある。でも子どもたちの未来のために、大人としての 矜持きょうじを守ろうと「じたばたと」踏ん張っている。そんな生き方をまずは見てほしいです。 モネで描く大人世代の行動や思いは、作家の安達さんを始めとした、私たちの願いがかなり入っています。

朝ドラと現代劇

もし朝ドラをやるならば、現代に横たわる大きな課題から目を背けたくないという思いは強くありました。 それは気象災害と、今の圧倒的な「生きづらさ」です。
気象災害は温暖化という地球規模の問題とともに、放置された山や限界集落など、日本の社会問題もはらんでいます。 都市と地方の分断や富裕と貧困の分断から、人が人を監視し足を引っ張り合うかのような現代に、行き詰まりを感じます。

朝ドラで描かれることの多い女性の社会進出や、さまざまな意味でのサクセスストーリーよりも、いま女性として社会人として行き詰まっていることを考えられる題材にしたい。今をとらえたい、という感覚がありました。

何か起こらなくても、人が人を思いやるだけでドラマになっている。
安達さんの描く世界を、最初は穏やかすぎると思った方もいたと思います。しかし今は、この優しさをしっかりと受け止め、評価してくださる方がたくさんいることに、少し驚くとともに本当にありがたく思っております。時代が少し、変わってきたのかなと感じています。

大きな展開や分かりやすい対立構造がなくても、ほんの小さな心の機微を大切に感じ取ってくれる。迷いやためらいを見せる人間を愛おしいと見てくれる。そんな優しく繊細な、「受け手」が確かにいることを感じていました。 どれほど心強く感じていたか、背中を押していただいたか分かりません。

さて、「おかえりモネ」はまもなく最終回を迎えます。
ここまでの応援、本当に本当にありがとうございました。
私自身も、登場人物たちが本当に生きているかのような感覚があり、彼らと別れる日が怖いとさえ思っています。 欠点があり、当意即妙に話ができなかったり、明るくふるまえなかったり、失敗したり失言したり…。しかしだからこそ愛おしい。 本当に人間くさい人たちです。

どうか、お一人でも多くの方々に、どんな思いでもいいです、何かが届くことを願ってやみません。 最後までどうかよろしくお願いします。

profile

一木正恵まさえ

北海道出身、1993年NHK入局。
主な演出作品に、連続テレビ小説「どんど晴れ」「ゲゲゲの女房」、大河「義経」「天地人」「八重の桜」「いだてん」など。

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