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2020年12月21日(月)

がんと闘う母親を笑顔に 子育て世代のがん患者の「心のケア」

年間およそ5万6,000人。新たにがんになった人の中で、18歳未満の子どもを持つ人の数です。子どもを持つがん患者は、治療と子育ての中で精神的に追い詰められます。厳しい現実と向き合う患者たちの「笑顔」を取り戻そうとする取り組みを取材しました。

追い詰められるがん患者たち

千葉県に住む、谷口佳江(たにぐち・よしえ)さん。34歳です。去年(2019年)乳がんが見つかり、手術を行いました。抗がん剤の副作用や通院に追われ、仕事を辞めざるを得なかった谷口さん。体の不調を抱えながら、娘を育てる日々が続きました。
治療に追われ、育児をまっとうできないもどかしさを抱えながら生きる日々。唯一悩みを打ち明けることができた同じ境遇の友人たちは、亡くなってしまいました。谷口さんはうつ状態になり、笑うことができなくなっていきました。

谷口佳江さん
「『母親はいるだけでいいんだよ』って、ほんとにそうなのかな。いても、抱きしめてあげられなかったら、遊んであげられなかったら、ご飯作ってあげられなかったら、意味がないんじゃないか。そもそもこの治療に意味があるのか。いっそのこと、みんなで死んじゃったほうが楽なんじゃないか。そんなことまで考えてしまいました。」

「写真撮影」で患者の笑顔を引き出す

国立がん研究センターの調査によると、20~39歳のがん患者の約8割を、女性が占めていることが分かっています。
いま、がんになり、追い詰められた母親たちの笑顔を取り戻そうという取り組みが始まっています。その1つが「写真」です。がん患者と家族の写真撮影を行ってきたNPOが、「笑顔」をテーマにした写真展を福岡で開きました。
NPOを主催する、がん専門医の金城舞さんは、がんを患う母親たちと向き合ううちに、彼女たちの幸せな姿を目に見える形で示すことが、心の支えになると気付いたといいます。

医師 金城舞さん
「がんになると、心から笑えなくなるという方がいらっしゃいます。カメラマンさんにリードしてもらいながら写真を撮ることによって、人の力を借りてでも笑顔を目に見える形にすると、自分の幸せな姿を客観視できるようになるのではないでしょうか。」

写真が展示された松田妃美さん。当初は写真を撮影することに、ためらいがあったといいます。

松田妃美さん
「笑顔を残すと正直怖い。これが遺影になっちゃうじゃないかとか、いろいろ考えちゃう。」

2年前乳がんが見つかったとき、松田さんは第2子を妊娠中でした。出産と手術を同時期に経験しましたが、治療のストレスや経済的な負担が増える中、夫との関係は悪化し離婚しました。
再発のリスクを抱えながら1人で子育てをする日々。そんなとき知ったのがNPOが行う家族写真の撮影会でした。松田さんは、娘たちに自分の笑顔を見せていない自分に気付いたといいます。

松田妃美さん
「見てはいけないものを、たくさん長女には見せちゃって。不安定でふらついてる自分とか、寂しい思いをさせたと思うんです。“これからは”みたいな思いがありました。」

写真を残すことが前を向くきっかけに

「自分の笑顔をどんどん子どもたちの記憶に刻んでいきたい」と思うようになったという松田さんは、撮影会に臨みました。
最初は緊張していた松田さん一家でしたが、撮影が進むうち、徐々に母親の笑顔が娘たちに伝わっていきました。撮影は3時間、200枚におよびました。

最終的に選んだのは、松田さんの笑顔が最も輝いていた写真でした。

松田妃美さん
「私が笑えば、あの子はすごく笑うから。笑えてる写真をどんどん残していく。決して遺影とかにはさせない。」

治療と育児の両立に悩み続けてきた千葉の谷口さんは、この春、念願だった農園を営むことを決めました。
谷口さんが前を向くきっかけになったのも、NPOに撮ってもらった笑顔の家族写真でした。

谷口佳江さん
「笑顔で生きたいですし、一日一日楽しく生きたい。でもなかなかうまく行かない日もたくさんあって。自分が変わるきっかけになったのかな。やっと、少しずつですけど、思えるようなってきました。」

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