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2020年8月27日(木)

世界をつなぐ “『はだしのゲン』の歌”

いま、日本で生まれた歌が世界の人々を結びつけています。タイトルは「広島 愛の川」。広島から海を通じて世界に平和を届けたいというメッセージが込められています。この歌を合唱する動画に参加した人は、16か国・346人にのぼりました。


この詞を書いたのは、原爆が投下された広島で生きる少年を描いた漫画『はだしのゲン』の著者、中沢啓治さん。8年前(2012年)に亡くなる前、病床で最後に残しました。この「広島 愛の川」は、なぜ世界の人々の心に届いたのでしょうか。

「『広島 愛の川』に曲を」 若手作曲家が志願

作曲家の山本加津彦さん。東方神起や西野カナさんなどの作品を手がけてきました。『はだしのゲン』を読んで育ったという山本さんは「広島 愛の川」のメッセージに引き込まれ、曲を付けたいと自ら申し出ました。

『はだしのゲン』では、原爆で多くの命が失われた場所として描かれていた川。それを「愛の川」と表現しているところに、中沢さんの強い願いが込められていると感じたのです。

“愛を浮かべて川流れ
水の都の広島で
語ろうよ川に向かって
怒り、悲しみ、優しさを
ああ、川は 広島の川は
世界の海へ流れ行く”

作曲家 山本加津彦さん
「地獄の川を見ている人が愛の川っていうことは、すごく未来に向かっているな、中沢さんの願いだなと思っていて、平和のためのつなぐ川であってほしいという願いが込められていて、それで愛の川って書いたと思うんですよ。じゃなきゃ書けないですよね。」

世界の歌声で動画を

今年(2020年)、山本さんは世界の人々の歌声を集めて、この歌の動画を作ることにしました。分断が深まる世界情勢、さらに新型コロナウイルスの感染拡大。こうした時代だからこそ、中沢さんの思いを世界に届けたいと考えたのです。

作曲家 山本加津彦さん
「いままでできなかった、世界に広島からメッセージを届ける、思いを受け取ってもらうっていうことは、今回もしかしたら少しその一歩が踏み出せるんじゃないかなっていう気がして…。」

歴史認識の違いを乗り越えて

山本さんが世界中から歌声を集める手がかりにしたのは、25以上の言語で出版されている『はだしのゲン』の翻訳家のグループでした。しかし、紹介された中国の人から、実現には大きな壁があると指摘されました。「中国では、今年(2020年)は抗日戦争勝利75周年という位置づけ」。歴史認識の違いから、被爆した広島をテーマにした歌は難しいというのです。

作曲家 山本加津彦さん
「広島が被害者っていう視点だけだと、中国の子どもたちには説明がつかない.山本さんの考えを聞かせてくださいというメールが来て。」

そこで山本さんは、中沢さんの詞にある「優しさ」に込められたメッセージを伝えました。怒りや悲しみは消えない事実だけれど、次の世代には人の優しさを残してあげたいという願いです。そして、中沢さんが平和への願いを託した『はだしのゲン』の1ページを添えました。「国境も無く自由に虹の橋を渡って世界中の人々と仲良く話し合って戦争のない平和な世界がつくれたら素晴らしいなと、いつまでもいつまでも虹をみつめていた」。

思いを伝えてから2週間。中国の子どもたちの歌声が続々と寄せられました。山本さんが世界の人々とやりとりをしたメールは500通以上。各国から歌声が届きました。

中東からは『はだしのゲン』が愛読書だという高校生が参加。隣国で続く紛争を肌で感じるからこそ、詩が心に響いたといいます。

エジプトの高校生 ファリダ・マーヒルさん
「とても深い意味の詞です。あの川の水が愛と平和を運んで世界に広めるという意味に感動しました。私たちはどんな問題も戦争ではなく知恵と話し合いで解決するよう努力しなければならないと思います。」

著名なアーティストも参加

著名なアーティストも協力を申し出ました。以前から山本さんと音楽をつくってきたクリス・ハートさん。原爆を投下したアメリカ出身という立場に悩みながらも、思いは同じだと参加を決めました。

クリス・ハートさん
「僕はこういう企画に入っていいのか、本当に皆さんは納得できるのか、それもすごいちょっと不安で。でも、もっといい世界をつくろうという熱いメッセージがすごくいいなと思って。」

世界平和への願い 伝え続けたい

人々の平和への願いを結びつけた、「広島 愛の川」。山本さんは、中沢さんのメッセージをこれからも届けていきたいといいます。

作曲家 山本加津彦さん
「いろいろな思いを抱えて参加してくれた海外の子どもたちの思い、今回の被爆75年のタイミングのみんなの気持ちを無駄にならないように、次につなげていきたいなと思っています。」

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