これまでの放送

2020年8月26日(水)

世界で反響 “平和”考える絵本

2011年に出版された『へいわって どんなこと?』。日本の絵本作家が中心となり、中国や韓国の作家と共同で作り上げた絵本で、日本ではこれまでに10万部以上発行されてきました。この絵本がいま、政府への大規模な抗議活動が続けられてきた香港で、大きな反響を呼んでいます。国境を越えて支持される平和の絵本、何が多くの人の心をとらえているのでしょうか?

香港で注目される“自由・尊厳”描く絵本

子どもたちに、「平和とは何か」を問いかける『へいわって どんなこと?』。描かれているのは、“自由”や“尊厳”が守られる、何気ない日常の大切さです。

“おなかが すいたら だれでも ごはんが たべられる。”

“いやなことは いやだって、ひとりでも いけんが いえる。”

“いのちは ひとりに ひとつ、たったひとつの おもたい いのち。”

絵本が香港で出版されたのは去年(2019年)12月。民主主義などを求める大規模な抗議活動が続くさなかでした。香港の出版社の編集長、黄雅文(こう・がぶん)さんは、「なぜいま大人たちが声をあげているのか、子どもたちに知ってほしい」と考えたと言います。

香港の出版社 編集長 黄雅文さん
「私たちがなぜ平和を求めたいのか、(子どもたちに)説明ができなかった。この本は子どもにとって分かりやすいだけでなく、深い。私たちが求める平和を説明するのに、よい懸け橋になっていると思う。」

香港では出版以来、書店などで次々と読書会が開かれ、今年(2020年)7月には、香港で有名な出版界の賞も受賞しました。

日・中・韓の絵本作家が共同制作

これまで、日本・中国・韓国の3か国で出版された『へいわって どんなこと?』。4年の歳月をかけて、日・中・韓の絵本作家たちが協力して作り上げたものでした。
そのプロジェクトの中心となったのが、これまで、家族や命の大切さをテーマに30冊近い絵本を手がけてきた絵本作家・浜田桂子さんです。育った環境や、歴史観の異なる作家たちが集まることで、より普遍的な平和のメッセージを届けられると考えたといいます。

絵本作家 浜田桂子さん
「中国や韓国の作家の方たちと心を重ねて、平和の絵本を作ることができたら、将来を生きる若い人や子どもたちにとって大きな意味があるだろうと考えて、一歩を踏み出したわけです。」

3か国の作家で議論を重ねることで、文章の細かい表現なども変えていきました。絵本の冒頭は、「せんそうを しない。」という誓いの冒葉から始まります。実は試作の段階では、「へいわって せんそうをする ひこうきが とんでこないこと」という表現にしていました。ところが韓国の作家から、“飛行機が飛んで来る”という受け身ではなく、“自分たちが戦争を起こさない”という自発的なメッセージにしたほうがよいと指摘されたといいます。

絵本作家 浜田桂子さん
「非常に痛烈な批判がきた。“浜田さんは無意識かもしれないけれど、日本の方たちの独特の平和観がよくあらわれている文章だ”と。“もう二度と、他国の人を苦しめないという感覚が希薄だから、こういう文になったのだ”と。」

そうした議論を通して、絵本全体も、子どもたちが主体的に「平和とは何か」を訴えるつくりになっていきました。

“きっとね、へいわってこんなこと。みんなの まえで だいすきな うたが うたえる。”

“わるいことを してしまったときは ごめんなさいって あやまる。”

絵本が問いかける現代へのメッセージ

絵本の完成以来、浜田さんは、アジアを中心に世界各地を自ら訪ね、読み聞かせや講演を行ってきました。国の違いを越えて、平和とは何かを考える子どもたち。その一方で、世界ではへイトスピーチや人種差別など、一人一人の命や尊厳が脅かされる出来事が相次いでいます。浜田さんは、他人を思いやり、かけがえのない存在だと認め合うことが、いまの世の中には必要だと考えています。

絵本作家 浜田桂子さん
「人の痛みにどう自分の心を重ねられるかというと、一人一人が生まれてきてよかったという自尊の気持ち。自分の目の前にいる人も一緒なんだ、この人もかけがえのない存在なんだって、生きていくことを大切にされる、そういうことがすごく大事だと思います。」

絵本は最後、こんな場面で終わります。

“へいわって ぼくが うまれて よかったって いうこと。”

“きみが うまれて よかったって いうこと。”

“そしてね、きみとぼくは ともだちになれるって いうこと。”

Page Top