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2020年7月20日(月)

UAE初の火星探査機打ち上げ成功 “希望”を日本に託したわけ

7月20日午前6時58分、H2Aロケット42号機が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。今回、H2Aロケットが搭載したのは、UAE=アラブ首長国連邦の火星探査機「HOPE(ホープ)」です。打ち上げからおよそ1時間後、高度430キロあまりで予定通り探査機を切り離し、打ち上げは成功しました。およそ7か月をかけて、火星を回る軌道を目指す計画です。

加速する宇宙開発

いま、各国の宇宙開発が加速しています。
5月に、アメリカの民間企業が開発した宇宙船「クルードラゴン」が、初めて宇宙飛行士を乗せて打ち上げられました。宇宙開発に民間企業が本格的に参入する時代の象徴として注目されました。アメリカは、2024年にアメリカ人宇宙飛行士を再び月に送ることを目指しています。この計画には日本も参加を表明しており、将来、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つことがあるかもしれません。
さらに目指す先が火星です。「生命の探査」を目的に、各国が火星に無人探査機を送り込む動きが活発になっています。地球と火星が2年に1度、距離が近くなるタイミングが迫っているため、アメリカは7月末、中国もこの夏に火星探査機の打ち上げを予定しています。
今回、アラブ諸国で初めての火星探査に挑んだUAEがタッグを組んだのが、日本でした。開発最前線を取材すると日本とUAE、それぞれの宇宙開発にかけるねらいが見えてきました。

UAE火星探査計画 背景に国家戦略

UAEは石油の富を背景に、中東の経済ハブとして成長を遂げて来ました。来年(2021年)、建国50年を迎えるにあたり、国家プロジェクトとして打ち出したのが、火星探査です。2015年の式典で、ドバイのムハンマド首長はこう宣言しました。 「探査機の名前をHOPE(希望)とします。これは投資です。費用は問題ありません。」

石油の将来にかげりが見える中、新たな産業の柱を作ろうと目をつけたのが宇宙開発でした。ドバイ郊外にある宇宙センターには、200人以上のスタッフが勤務しています。センターは若手の技術者を海外に派遣して、ノウハウを蓄積して4つの人工衛星を開発し、宇宙へ送り出してきました。今回、アメリカの大学と連携して開発にこぎつけたのが、高さ3メートル、重さ1.5トンのUAEの火星探査機「HOPE」です。

来年中に火星周回軌道に到着することを目指し、火星の大気を観測する計画です。火星探査という壮大な宇宙開発計画で先端技術の獲得や、人材育成を推し進め、中東地域の科学立国を目指すというのです。

UAEのサラ・アミリ先端技術担当相はNHKの取材に対し、その計画の意義を語りました。

UAE サラ・アミリ先端技術担当相
「これはUAEの産業多角化計画の1つです。宇宙産業で培った技術は、他の産業でも活用されるのです。若者に(就職などの)多くの機会を提供し、夢や可能性を広げられます。」

打ち上げを担う日本にもチャンス

国の未来をかけUAEの火星探査計画は、打ち上げを託された日本にとってもチャンスです。
日本のH2Aロケットは、打ち上げ成功率が世界トップレベルを誇ります。2018年の人工衛星打ち上げに続き、UAEからのH2Aロケットでの打ち上げの受注は二度目です。費用が高額で、海外からの受注を増やすことが課題となる中、資金力のあるUAEと信頼関係を築いてきました。受注した三菱重工業の打ち上げ輸送サービスのミッションマネージャ、亀之園孝司さんは、今回の打ち上げではずみをつけ、新たな主力ロケットの売り込みにもつなげたいとしています。

三菱重工業 亀之園孝司さん
「他国のロケットに対して競争に勝っていくというのが使命ですので、きちんと打ち上げることで、信頼いただいているものをさらに高めていって、次に開発中H3ロケットの受注につなげていきたいという考えです。」

H2Aロケットは、打ち上げ能力を増強したH2Bロケットも含めると、今回で、2005年以来、45回連続で打ち上げに成功したことになり、打ち上げの成功率は98%となります。受注競争が激しくなっている人工衛星の打ち上げビジネスの拡大への期待が高まります。

JAXAも、UAEの宇宙庁と協定を結び、関係の強化を進めています。去年(2019年)、国際宇宙ステーションにある日本の実験棟「きぼう」で、人材育成の一環として、UAEの宇宙飛行士と共同教育プロジェクトも行いました。今後、小型衛星に関わる計画など、技術的な連携も深めていく予定です。

JAXA特別参与の若田光一宇宙飛行士は、UAE宇宙庁の諮問委員も務めています。若田さんは日本の強みを生かして国際連携を進めることが、日本の宇宙開発には不可欠だといいます。

JAXA特別参与 若田光一さん
「(宇宙探査は)1回だけでできる活動ではないわけです。 互恵的にミッションを進めていくことが一番妥当な解決だと思います。我々が強みである技術を生かして、国際宇宙探査に参画していくことが、日本の国際的なプレゼンス、発言権を行使していくことにおいても非常に重要なのかと思います。」

今後の日本の宇宙開発は

UAEと日本というのは思いがけない組み合わせのように感じられますが、資金力のあるUAEと、高性能のロケットを持つ日本は、互いにタッグを組む良き相手とも考えられます。今後も成功を積み重ねていけば、協力を進めるほど大切なパートナーになっていくものとみられます。

日本の宇宙開発を見る中でも、日本は実績を積み重ねて、世界から一目置かれる存在になってきています。無人の探査機「はやぶさ」が史上初めて小惑星のかけらを持ち帰り、世界を驚かせたほか、4年後には、火星の衛星フォボスからもサンプルを持ち帰る探査機の打ち上げ計画が進むなど 特徴のある探査を得意としています。宇宙開発の国際協力が進む中で、日本の存在感は大きくなっていて、各国への貢献が求められる側に成長してきています。

取材:吉永智哉記者(ドバイ支局)、飯野真理子ディレクター(政経・国際番組部)

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