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2020年7月10日(金)

手話とびかうコーヒー店 力引き出す工夫とは

6月末、スターバックスが店員の8割に聴覚障害がある店舗をオープンさせました。店員どうしは手話で会話し、手話のできないお客さんは指さしメニューや筆談などで注文します。「目を見て“ありがとう”とほほえんでくれる感じがいい」「とても表情が豊かだと思いました」とお客さんからも好評です。
この店はほかの店舗と売り上げ目標は同じで、サービスや飲み物の質も一切妥協しません。この会社ではもともと聴覚障害のある人は複数働いていたのですが「1つの店に1人ずつ」の場合が多く、今回のように「集まって働く」のは初めてです。なぜこんな店を作ったのか、その舞台裏を取材しました。

4年越しの夢

東京国立市に出来た真新しい店舗に、6月半ば、初めてスタッフが集合しました。25人いるスタッフのうち19人が、聴覚に障害があります。手話が飛び交う店内。一人一人に笑顔で話しかけていたのが大塚絵梨さん。この店は、4年越しの夢だったと言います。

スターバックスコーヒー社員 大塚絵梨さん
「いままでにない試みなので、ドキドキする反面、不安もあるんですが、みんなをひっぱっていけたらいいなと思います。」

“同じ言語”を話すスタッフで店をやりたい

幼い頃から両耳が聞こえない大塚さん。人と関わることが好きで、学生時代から接客の仕事に憧れていました。
5年前、最初の仕事をやめ、聴覚障害者が接客できるこの会社に転職しました。仕事はやりがいがありましたが、コミュニケーションがうまくとれない中、次第に「経験を積んでも責任ある仕事はできない」といったはがゆさも感じるようになりました。そんな中で知ったのが、マレーシアに聴覚障害者が中心となって運営する店ができたこと。

「私たちも聴覚障害のあるスタッフで集まって店をやってみたい。」

大塚さんは会社にかけあい、耳の聞こえないスタッフで、短時間店を運営する試みを行うことにしました。
すると、スタッフ同士が“共通言語”である手話でやりとりできるため、接客やサービスが驚くほどスムーズにできたのです。障害者雇用に積極的に取り組んできたこの会社でも、これまで障害者がキャリアアップできる仕組みはありませんでした。しかし取り組みを通じ新たな気づきがあったと言います。

スターバックスコーヒー サイニングストア(手話店舗)担当 向後亜紀地区マネージャー
「これまで、障害のあるスタッフにどこか“安全な仕事”を任せてしまう傾向もゼロではなかったのですが、それが彼らの成長を止めてしまっていると気づかされました。力はもう十分に持っているので、いまの力をそのまま発揮してもらえばいいんだと。」

スターバックスコーヒー社員 大塚絵梨さん
「障害を見るのではなく、その人の持っている力を見てほしい。障害者は福祉の対象とか弱者というイメージがあるけれど、それを変えていきたい。」

次々と立ちはだかる壁

大塚さんは今回、障害のあるスタッフとしては初めて、店長とともに店を運営するリーダーの役割を任されました。開店1週間前。新たに集まった未経験のスタッフたちは、さまざまな壁に直面していました。

その1つが、カプチーノ用のミルクの泡立てです。
会社のマニュアルでは、「水蒸気を出すノズルの音」の微妙な変化で仕上がりを判断することになっていますが、音が聞こえないため、うまくいきません。

スターバックスコーヒー社員 大塚絵梨さん
「ノズルがミルクの中にちゃんと入っているか、目で見て確認することが大事。」

みずから試行錯誤でつかんできた「見た目や手に伝わる振動」で判断する方法を伝えます。すると、新人のスタッフは、なめらかな泡を安定して作れるようになりました。
さらに、声を出して人を呼べないため、商品をなかなか取りに来てもらえないなど、次々と出てくる課題に、大塚さんたちは意見を出し合いながら解決策を探りました。

できなかったことが、ここではできる

そして迎えたオープンの日。途切れることなく、お客さんがやって来ました。

聞こえる人、聞こえない人。新たなふれあいが生まれます。

スターバックスコーヒー社員 大塚絵梨さん
「みんな、前の店にいたときはできなかったことが、この店ではできるようになる、そういう意味で、新しい成長につながっている。私もロールモデルになって成長していく姿を見せたい。」

私たちも今回、指さしメニューで注文してみましたが、店員さんと確認のために目を合わせる時間が長いので、笑顔もより印象に残り、ほかにはない居心地の良さを感じました。「障害のある人にはこういう仕事はできない」、そんな思い込みを捨てて、どんな工夫をすれば力を発揮できるのかという発想が大事だと思いました。

取材:今井朝子ディレクター、中山果奈アナウンサー、八幡祐子ディレクター

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