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2020年5月15日(金)

【更新版】「今こそ体の感覚を大事に」解剖学者 養老孟司さん

【5月19日更新】
「頭で考えすぎるな」と訴えた「バカの壁」の著者で解剖学者の養老孟司さん(82)。不安な毎日を克服するには、体の感覚を大事にすることが大切だといいます。聞き手は高瀬キャスターです。

(5月8日 インタビュー)

自然は「わからない」ことで満ちている

Q:新型コロナウイルスという生き物は養老さんにはどううつっていますか?

養老さん:
生き物というか「生き物の一部」ですね、「かけら」。細胞がないと増えられないわけですから。それ自身が代謝するわけじゃない。つまり生きて動いているわけではない。物に近いんですね。あまりピンとこないかもしれないけど、細胞だと物を食べて自分の体を入れ替えています。それを代謝といいますが、そういうことをやらないで、生きた細胞を利用して自分自身を増やす。細胞がないと、ウイルスもないので、ちょうどコンピューターウイルスと一緒です。コンピューターウイルスはコンピューターというシステムがないと存在しないですよね。こういうウイルスは、細胞というシステムが成立してからその破片として生じたものなんですね。

Q:そのかけらに私たちは恐れおののいている。

しょうがないですね、もっと高級な生き物だと、あまり宿主に害を与えないんですが。寄生虫が典型です。宿主を殺しちゃうと自分も死んじゃいますからね。

Q:出口が見えない中で、すごく不安な日々を過ごしています。

今の人は先が読めないとか、コントロールできない状況が起こると、パニックを起こしやすい。危機管理という言葉がありますよね。管理できない状況を危機というのに、それをあえて管理しようというのが今の人ですから。つまり、危機というのを認めていないんだね。管理できないことの典型が、個人で言えば人が死ぬということですね。

Q:管理できないものを管理しようとするから、より不安になったり混乱したりするということですか?

そうですね。つまり管理する方策が見つからないんですね。それを必死に探している。
コロナは体の都合、自然の出来事です。コントロールしようとしているのは頭、意識の方ですから。体のことはしょうがない。自分の体に何が起きているか、実はわからないんです。

解剖学者として体と向き合ってきた養老さん。自然は複雑で、わからないことで満ちていると伝えてきました。いまテレビで良く目にする新型コロナウイルスの写真。これを見るとわかったつもりになるが、そうではないと言います。

例えばニュースでコロナウイルスの写真が出ますよね。あれってどのくらいの倍率かお分かりですか?ちょっと計算してみたんです。実際のウイルスの大きさがわかりますから、テレビで見るのが10cmくらいとすると、倍率は100万の桁です。100万倍とすると、みなさんの体が1000kmくらいになっちゃいます。ウイルスにとっての細胞は数百倍の大きさですから、人間でいうとビルくらいの立体。その細胞が人間は10兆の桁ありますから、人というのはウイルスに比べてものすごく大きい。人にとっての地球よりも大きいんじゃないでしょうか。ウイルスが見えたらウイルスが分かったか?問題はウイルスじゃなくて、それがとりつく人ですよね。でも、ウイルスを見る目線で人は完全には見られないんです、大きすぎて。

ウイルスについて養老さんは意外なことを教えてくれました。人とウイルス、実は、切っても切れない関係だというのです。

人のヒューマンゲノムが読めたときに分かったのは、3~4割がウイルス由来だっていうこと。人類は古くからつきあっているんです、ウイルスと。結局そんなものが遺伝子に入っていて何しているのかっていうのはよく分かっていないんです。

Q:そこに勝たなければならないみたいなことをよく言いますけれども、土台、闘う相手ではないということになりますね。

闘うというのはあまりいい表現ではないですね、どう手なずけるかという話ですね。一緒にやっていくしかない。これだけ広がるんだからね、自分の中にも入ってくる。あとは命取りにならないように薬を使う。そういうことができるようになれば、風邪と同じですよね。そのときがくるまでは、ジタバタしてもしょうがない。

気持ちがいいように過ごす大切さ

Q:いま会社に行けず、学校にも行けずという中で、自宅にとどまってどう過ごしたらいいんだろうと思う人も多いと思うんですが?

僕は手作業をやってますけどね。虫の標本をつくったり、針刺したり、払ったりしています、筆で。手作業って非常に気持ちが落ち着くものでしょう。なんかね、集中するんですよね。東日本大震災のあと計画停電があったとき、真っ暗だったからヘッドランプをつけて作業していました。非常に落ち着きます。

Q:手を動かす、没入することで、どんなことに気がつけるのでしょうか?

体の調子です。やっぱり自分が気持ちがいいように、気分がいいように過ごすというのが大事です。体のことが典型的でね。どういう状況だと自分の体の具合がいいかっていうのは、意外と気がつかない人が多いんです。わからなくなっちゃう。食べるものも同様で、食べたそのときに「おいしい」「まずい」じゃなくて、食べたあとにしばらくして調子がいいか悪いかで食べ物の善し悪しを決めればいい。そういう微妙な体のことを割合にいまは考えなくなっている。気分がいいか悪いか、明るいか暗いか、結構大事ですよね。

社会が大人になる機会

Q:一連の動きの中で、社会は変容していくというふうに考えますか?

変わるし、変わらざるを得ないんじゃないですかね。やっぱり被害がひどかったところは街ですね、東京、ニューヨークは典型ですね。ヨーロッパは古くから都市社会ですから。日本だと患者さんが少ないのは鳥取とか岩手。人の移動が少ないというのが大きいんでしょうけど。
都市化していくのは体にとってあまりいいことじゃない。典型が少子化ですよね、子どもが減っちゃう。都市の出生率は非常に低いですから。コロナより上の生き物としての人が、都会ではどんどん減っちゃうんですね。東京の真ん中で子育てって難しいですよね、遊ばせるところがない。コロナでこうした問題があぶり出された。今後都市、街というものに対する考え方は変わっていくと思います。

Q:分断ということがよく言われて、例えば医療従事者の方やその家族に対しての差別や偏見など、社会が非常に「優しくない」状況にあるように思うんですが、そうした状況はどう見ていますか?

まあ言ってみれば、今は社会が病気しているような状態ですね。それが終わったあとに、みんなが少し大人になってくれているとありがたいですね。
昔は結核がありましたからね。若い人が結核になると1年くらい休学させないといけない。休学が済んで帰ってきた子は大人になっていた。育ったなっていう感じがしていた。もうちょっと長い目で物を見るようになる。その場その場の反応をあまりしなくなる、大人になる。よく言うんですけど、人は変わるんです、変わっていくんですよ人は。育つ、子どもだったら。大人が育って悪いことない。

Q:こうした事態を通して、私たちが一段大人になる、成長することができるんじゃないかということですか。

今はゆっくり物を考える機会ってないですからね。毎日が忙しい人ほどそうでしょう。昔は「人生とはなんだ」とかね、人生の意味なんかを聞くとね、それは若い者、暇な学生が考えることだって大人に言われましたよ。今みんなが暇な学生状態になっちゃったわけで。改めてそういうことを考えてもいいんじゃないでしょうか。

Q:養老さんにそう言っていただくと、この時間も有意義に使える気がしてきます。

無意味なはずがないんです。何かが起こったときに起こったことが無意味にならないように、そのあとに生きることが大事なことでしょう。

「おはよう日本」では、新型コロナウイルスによる不安が渦巻くいま、各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をシリーズでインタビューしています。
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