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2020年4月22日(水)

フラワーデモ1年 前へ 踏み出した一歩

去年4月から、全国各地で毎月開かれてきた集会「フラワーデモ」。性暴力の被害者の苦しみが、なかなか伝わらない社会に抗議する目的で始まり、今月(4月)で1年がたちました。この中で特に目を引いたのは、当初 話す予定のなかった被害者たちが、多くの人の前で次々と経験を語り始めたことです。デモによって、一歩前に踏み出した人々を追いました。

この記事のポイント
◆大勢の人の前で語られはじめた 経験と痛み
◆10年以上抱えてきた思いを初めて受けとめてもらえた人も
◆フラワーデモは、各都道府県にも

まちで語り始めた 経験と痛み

初回のフラワーデモは東京駅前の広場で開かれました。以来、月に一度、多くの被害者と支援者が集まる中、被害者はマイクを持ち、次々と語ります。

スピーチをする女性
「私は、性暴力の被害者です。この ひと言を言うのに、とても勇気がいります。この言葉を言って、周りにどういう反応をされるのか…。冷たい反応をされることが多く、とても怖い。」

参加者は 話にじっと耳を傾けます。語る人も聞く人も みんな手に花を持つことがフラワーデモの約束事。被害者の“痛みに寄り添う”気持ちを表すためです。

デモを呼びかけたのは、性や人権に関わる問題の取材を続ける 作家の北原みのりさんです。大勢の人を前に、被害者が自ら語り始めたことは予想外だったといいます。

北原みのりさん
「夜で、知らない人の前で、“まちなか”じゃないですか。そういう中で自身の体験を話す人がいるのは全く想像していなかった。性暴力は日常的に起きている。だからこそ、(自分が)暮らしている まちで 立ちたい人が こんなにも出てきたんだなということを思い知らされました。」

内閣府の調査(2018年3月)では、回答を寄せた3300人あまりのうち、無理やり性交などされた経験のある人は、20人に1人にのぼります。そのうち、「誰にも相談しなかった」という人は56.1%。その理由は、「恥ずかしくて誰にも言えなかった」「世間体が悪い」など。周りの反応や非難を恐れて、声をあげにくい現状があります。

初めて受けとめられた 心の痛み

フラワーデモで、自分の思いを初めて受けとめてもらったという女性がいます。ゆいさん、25歳です。中学生のころから、通学電車でほぼ毎日のように痴漢の被害に遭い、時には、下着の中に手を入れられることもあったそうです。当時、体調を崩してしまうほど 追い詰められていたゆいさん。しかし、周りに被害を打ち明けても、寄り添ってくれる人はいなかったといいます。

ゆいさん
「“それは女として認められたってことだから 良かったんじゃないのか”と。言われながら、ふつふつと心が傷つきました。」

ツイッターで被害を打ち明けても、見知らぬ人たちから「被害妄想では」など、心ない声にさらされました。

ゆいさんがフラワーデモに出会ったのは 去年。SNSで知り、東京駅前に駆けつけました。

「つらい思いを分かち合える人に出会いたい。でも、参加することで偏見の目が向けられないだろうか…。」ためらいながら会場に行くと…

ゆいさん
「すごく あたたかい場で、みんなが 話している人に 気持ちを向けて寄り添っていて、“あなたが言うことを信じるし、なんでも話して。私たちは聞くから”という心を持っている。すごい、私も話してみたい!と思いました。」

ずっと暗闇にいたところに、一筋の光が差したような思いだったといいます。その晩、ゆいさんは、自身のツイッターに投稿しました。

「フラワーデモ やっと行けた」

2か月後、ゆいさんは 自らマイクを持ち、10年以上ひとりで抱え続けてきた思いを初めて語りました。

ゆいさんのスピーチ
「12歳からずっと痴漢の被害に遭い、触られてきたことで、自分の体が卑わいなものなんじゃないか、気持ち悪い 汚いものなんじゃないかという思いが ずっとあったので、男の人とあんまり接することができなくて…」

長い拍手の中、「話してくれて ありがとう」というかけ声も あがりました。

ゆいさん
「自分がずっとひとりで抱えていた出来事が、フラワーデモで話した瞬間に、みんなと共有した出来事になって。もちろん それだけで心が治るということはないんですけど、少なくとも 以前よりは前に進んだというか、(被害に)向き合うことを始めることができる。」

性暴力の被害者のカウンセリングを長年行ってきた 臨床心理士の信田さよ子さんは、フラワーデモは、被害者たちが前を向く 大切なきっかけになっているといいます。

信田さよ子さん
「話を批判しないで聞いてもらうというのを繰り返すことで、トラウマは段々過去のものになり、小さくなっていく。否定されないというだけで、ものすごく意味は大きいです。」

フラワーデモ 広がる 痛みの分かち合い

フラワーデモは、この1年で すべての都道府県に広がり、参加者は、延べ1万人を超えました(主催者発表)。

痛みの分かち合いは、これまで性暴力を身近に感じてこなかった人たちにも広がっています。今年1月、東京のフラワーデモに参加した所 十三(ところ じゅうぞう)さん。友人に誘われ、気軽な気持ちで参加しましたが、被害者の語る姿に圧倒されたといいます。

所 十三さん
「みなさんが すごくストレートな言葉で堂々と話されているのを見て、その勇気たるやすごいなって。自分は(性暴力の被害を)見て見ぬふりしない、という気持ちになった。」

去年から 福岡のフラワーデモに参加してきた小柳有美(なおみ)さんは、声をあげた被害者の人たちを応援しようと、歌を作りました。寄り添う気持ちを 歌詞に込めました。

「あなたは一人じゃない
あなたの背中を押すよ」

フラワーデモで声をあげたことで、前を向けるようになったという ゆいさん。「次は、自分が苦しんでいる人を支えたい」と、いま、弁護士を目指し、勉強に励んでいます。

ゆいさん
「被害者の方たちが自分の力を取り戻して前を向けるよう、その人たちの力になれるような弁護士になりたい。」

この1年、フラワーデモで あげられてきた声は、性暴力が 家庭や学校、職場など 日常の身近なところで起きているということを明らかにしました。自分の隣にいる人たちも 何かしらの被害に遭って、ひとりで痛みを抱えているかもしれません。もし 誰かから被害を打ち明けられたら、フラワーデモで話を聞いている人たちのように、「否定せずに受けとめる」ことが大切です。

いま、新型コロナウイルスの影響で、フラワーデモを開催することは難しい状況ですが、代わりに、メールやSNSで声を募り、思いを共有する動きが広がっています。今後は、どう続けていくか、地域ごとに検討していくということです。

また、各都道府県には、専門スタッフが対応する相談窓口、「性暴力被害者のための ワンストップ支援センター」があります。話した内容が本人の同意なく家族や第三者に伝えられることはありません。


取材:飛田陽子ディレクター


NHK「みんなでプラス 性暴力を考える」では、性暴力の問題を継続的に取材し 発信して、みなさんと一緒に考えています。あなたのご意見をお寄せください。

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