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2020年4月22日(水)

【更新版】「文化を守るために寛容さを」劇作家 平田オリザさん 

【4月27日 更新】
「文化を守るために寛容さを」劇作家 平田オリザさん 新型コロナウイルスによる不安が渦巻くいま、各界の方に生きるヒントや危機を乗り越える提言をきくインタビューシリーズ。
第1回は劇作家の平田オリザさん(57)。平田さんが主宰する劇団も緊急事態宣言をうけて、予定していた公演が延期や中止となっています。
“本当に必要なもの以外は自粛”―そういわれる中で忘れてはいけないのは他者に思いをはせる「寛容さ」だといいます。
テレビ会議システムを使って兵庫県豊岡市の自宅にいる平田オリザさんに伺いました。聞き手は高瀬耕造キャスターです。

(4月17日 インタビュー)

「まるで不条理劇」長期間におよぶ自粛の影響

Q:緊急事態宣言が全国に広がり、舞台やコンサートが軒並み開けない状況ですが、劇団関係者の方にはどのような影響がでていますか?

平田さん:
演劇、ショービジネスの世界は直撃をくらってしまいましたね。人を集めるのが仕事ですので、早い段階でもう自粛率は9割を超えていました。例えば飲食店などに比べても非常に高い自粛率だと考えていただいていいかと思います。
特に演劇は稽古期間がありまして、どんな芝居も最低でも1か月、長いと2か月ほどの稽古をします。それに合わせて広報活動もします。前売り券も売ります。ですから、今もう大体7月8月の公演中止が出てきていますし、ロングランだと7月から9月までの公演を全部中止するところも出てきています。だから、いま我慢すればいいのではなくて、演劇の場合はほんとうに長期の影響が出るんです。一般の皆さんにもぜひご理解いただいたいところです。
35年演劇をやっていますが、劇団で公演中止になったのは初めてです。それから、初日が開くかどうかわからない稽古をずっと続けるつらさというのも初めてです。そんなこと誰も経験していない。もう不条理劇をやっているみたいです。

Q:出演する俳優の皆さんだけでなく、関係する皆さんがたくさんいらっしゃいますよね。

一番大変なのは、照明さんとか音響さんといった技術者の方たちですね。ほとんどがフリーランス、あるいは小規模な会社に所属していて、“ひとり親方”のような働き方をしています。舞台だけでなく、イベント等も一切なくなりましたので、ほぼ無収入の状態になってしまったという事なんですね。例えば私の知り合いの照明の方は、ふだんの年ならこの季節はイベントが多く1か月に25日間くらい仕事が入っていたのが、1日だけになってしまったと。

Q:政府の支援策などが出ていますが?

非常に難しいと聞いています。フリーランスへの支援に行政が慣れていないということが露呈してしまったかなと思います。1つには、小さな会社でも「融資を受けなさい」と言われているのですが、まず法人格がないところが多いと。それから、ぜひちょっとお考えいただきたいのは、製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。客席には数が限られてますから。製造業の場合は、景気が良くなったらたくさんものを作って売ればある程度損失は回復できる。でも私たちはそうはいかない。製造業の支援とは違うスタイルの支援が必要になってきている。観光業も同じですよね。部屋数が決まっているから、コロナ危機から回復したら儲ければいいじゃないかというわけにはいかないんです。批判をするつもりはないですけれども、そういった形のないもの、ソフトを扱う産業に対する支援というのは、まだちょっと行政が慣れていないなと感じます。

文化芸術の連続した線が途切れてしまう

Q:文化への影響はどのように考えていますか?

今回負債を負ってしまって、演劇をやめてしまう人もいるかもしれない。あるいはこの2~3年演劇を上演できなくなる人もいるかもしれない。その中に、あしたの野田秀樹さんやあしたの三谷幸喜さんがいるかもしれないです。若い才能が離れていってしまうこと。それは、個人の問題ではなく、最終的に社会全体の損失でしょう。文化芸術の連続した線が途切れてしまいますので。
もちろん私たち作家とか芸術家はこういう状況も糧にして、作品を作らなければいけないんですけど、それは演劇を続けられればの話ですから。劇場や映画館がなくなったら、私たちが表現する場もなくなりますからね。
先日ベルリンの副市長の方と同じネットの番組に出たんですけれども、その副市長がおっしゃったのは、「このままウイルスを殺せても、殺した瞬間に文化もすべて死んでいたらウイルスを殺した意味がないではないか」と。清潔な社会に戻りました。でも映画もない、演劇もない、歌も聞こえてこない、絵画も生まれてこない。そういう社会でいいんですかっていうことです。

Q:日本だけでなく、世界中でいまその危機にあるということですね。

そうですね。ただ海外の方が圧倒的に文化に対する支援がもともと強い。日本は文化政策が非常に弱いところにこれが直撃してしまったので、非常に苦しい状況にありますね。ドイツの文化担当の大臣は「芸術はただ単に必要不可欠なものだけでなく、生命維持装置だ」とまでおっしゃっている。人々が生きていくうえでどうしても必要なものなんだということですよね。
芸術というとすごく高尚なものに聞こえるんですけど、そうじゃないんです。例えばカラオケでストレスを解消する。でもそのカラオケは何かの楽器によって演奏され、楽譜によって記録されてきたわけですよね。西洋音楽という芸術の長い営みの恩恵を、カラオケという大衆芸能として私たちは享受している。

そして、日本では、社会における芸術の役割は大規模災害に鍛えられて高まってきたともいえるんですが、今回は状況が違う。
1995年の阪神淡路大震災のときは、避難所などにアーティストが訪れても、「こんなときにそれどころじゃない」と言われていました。それが、いろいろな蓄積から医療関係者の方のご理解も深まってきた。2011年の東日本大震災のときには、発災から3日間、1週間は命を守ることが大事だけれども「落ち着いてきたら今度は心身の健康ですね」と。そういうときに、スポーツも含めて広い意味で「文化の役割が必要なんだ」ということは認識として日本でも広まったと思っていたんです。
ところが今回、見えない敵で、しかも先が見えない。本来は、芸術の役割を果たすべきときなのに、集まってはいけない。これは私たちも想定していなかったんですね。やはり私たちの一番の強みはライブ、人と人がふれあうことなので、それができないというのはつらいですね。こういう状況でアートに何ができるかということは、私たちに突きつけられた課題でもあるわけです。

Q:いつから活動を再開できるかわからないという中で、どのような支援を求めていますか?

大変なのは国民みんな一緒ですから、どうにかしのぐしかないんですが、やはりその次の段階では、文化政策としての支援は何か用意していただかないといけないかなと思います。お金の問題だけでなく、表現の場を奪われてしまったということがあるので。
例えばこの状況が終息した段階で、政府や自治体が空いている劇場を借り上げて、上演の機会を与えて、そこに支援するなど、特例的な枠組みというのも考えられるんじゃないかと思います。

 

(兵庫県豊岡市での稽古の様子 2020年3月)

「命の次に大切なものは人それぞれ」危機の時代に寛容さを

Q:一方で、今はなかなか言い出しにくい、声をあげにくい状況でもあるのではないかと感じます。

そうですね。「そんなものは不要不急で、好きなやつらだけがやっているんだろう」という厳しい意見もインターネット上に結構あります。
もちろん命はみんな大事ですよね。それは守らなきゃいけない。だから当然自粛もしなきゃいけない。
一方で、命の次に大切なものは一人一人違うんだと思うんです。音楽がなきゃ生きていけないという人もいれば、演劇で人生が救われた人もいれば、スポーツが生きがいの人もいる。

何に救われるかは一人一人違うので、「あなたは必要ないかもしれないけれど、人によっては命の次に大切なんだ」ということをご理解いただければなあと。
「演劇いま行けなくて残念ですね。私は家で映画を見ていますけど、この主演の人ってもともと演劇出身なんですよね」というふうに、他者にちょっとずつ寛容になるということが大事だと思います。

Q:余裕がないと、なかなかその寛容さを持てないということも。
インターネットで厳しい言葉を投げかける人にほどアートを届けたいんですけど、そこに届かないというジレンマがありますね。これ以上こういう状況が長く続くと、人の心が壊れていってしまう。それがいちばん怖いところです。
芸術と意識しなくても、音楽を聴いて悲しくなったとか、映画を見て救われたとか、みなさんあると思うんですよね。それを思い出していただいて、このウイルスが収まったら、「誰かと一緒に映画を見に行きたい」とか「演劇見に行きたい」とか、誰かと一緒に行きたいという気持ちを持ち続けていただくということが大事かなと思います。
文化は、いちばん目先の利益が出ないもので、100年後、200年後への投資ですから、そういうものを大事にする社会になればいいなと思います。

Q:最後にメッセージをいただけたら。
一番心配なのは、やっぱり子どもたちです。休校措置で人とのつながりが切れてしまって、文化的なものに触れる機会も極端に少なくなっていますよね。私の地元の豊岡市でも、休校措置期間に調査をしたところ、子どもたちの言動が非常に暴力的になっているという結果が出ています。早く子どもたちに、アートやスポーツを届けたいなと思います。一刻も早く届けたいので、安全を確認されたところからそういうものが再開できればと思いますし、私たちはその準備をしておきたいと思います。

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