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2019年12月25日(水)

病児保育が使えない!

病気で保育園や学校に行けない子どもたちを、一時的に預かってくれる病児保育施設。
インフルエンザが流行するいま、仕事が休めないという親たちが頼りにする、まさに「駆け込み寺」のような存在ですが、いま岐路に立たされています。
全国の施設の7割近くが、赤字経営に陥っていると言われているのです。
今月(12月)、先駆的な取り組みで注目されていた横浜市内の施設が、経営難を理由に閉鎖。
利用者が悲鳴を上げています。

横浜市港南区にある、病児保育の施設。
今月13日、開設からわずか2年で営業を終えました。
営業最終日、施設には花束を持って訪れる利用者の姿がありました。
利用者が口にしていたのは、将来の不安です。
閉鎖前、年間のべ7,000人の利用があったこの施設。
全国的にも珍しい、独自のサービスを行ってきました。
その1つが、病児保育の受け入れに欠かせない医師の診断書を事前に用意しなくても、子どもを受け入れることでした。
ここでは、常駐する医師の診察を受けたあと、すぐに子どもを預けることができました。
親たちにとっては、忙しい朝の時間帯、とても助かっていたと言います。

もう1つの特徴は、その規模です。
通常、施設の定員が6人程度のところ、ここでは最大で150人の受け入れが可能。
「希望者は断らない」という方針でした。

なぜ、閉鎖せざるを得なかったのか…。
理由は、利用者数の変動の激しさです。
ひと月の利用者数をみると、1日に30人利用する日がある一方、2人しか利用しなかった日もありました。
利用者が少ないときでも一定のスタッフを確保しなければならないため、人件費が経営を圧迫。
赤字は年間1億円以上にのぼりました。
施設長の岡田栄一さんは、「利用者の人数が確定しない上、自治体からの支援も得られず経営が難しくなった。申し訳ないけど、社会貢献にも限度がある」と話しています。

施設を頻繁に利用していた塩見正樹さん・結香さん夫婦は、今後、子どもの病気にどう対応するか話し合いを続けています。
現在、育児のため休職中の結香さんは、来年(2020年)4月の復職を希望しています。
気がかりなのは「病児保育」です。
かつて長女は、多い月には6回、閉鎖した横浜の施設を利用していました。
塩見さんの自宅の周辺にある病児保育は3か所。
受け入れ人数は、2か所が4人まで、多いところでも10人です。
どの施設も事前に、かかりつけの医師から診断書をもらわなければ受け入れてくれません。

結香さん
「午前半休は、絶対とらなきゃっていうことでしょ?」

正樹さん
「お迎えも行かないといけないでしょ?
2、3時間くらいしか働けないよね。」

結香さん
「1回施設に電話したらね、キャンセル待ち4人目って言われた。」

正樹さん
「それだったら、行けるかどうか分からないね。」

今回の取材では、施設の閉鎖を受けて、会社を辞めようと考えている人もいました。
全国的に見ても施設の数は十分とは言えませんが、もうひとつ利用者の選択肢を狭めているのが、病児保育の仕組みです。
現在の仕組みでは、原則、住んでいる市区町村にある施設しか利用できないのです。
このルールを変え、病児保育を使いやすくする取り組みが、山梨県で始まっています。

山梨県にある施設の一つでは、利用者の3割が、近隣の市町村から来ています。
山梨県は去年(2018年)4月から、県内にある全ての病児保育施設を、住んでいる市町村に関係なく利用できる仕組みを整えました。
他の市町村からの利用者は「自宅の近くに幼児保育がいままでなくて探していて、お世話になっています。県内の施設を全部使えるのはありがたい」と話しています。

この仕組みを支えているのが、IT技術です。
施設の利用者たちが活用しているのは、山梨県が運営するインターネット・サイト。
県内に17ある、全ての施設の空き具合や営業時間などを一目で確認でき、簡単に予約することができます。
この取り組みは、施設にも大きなメリットがあると期待されています。
定員に空きがある施設は、他の自治体の施設に入れなかった子どもを受け入れることで、利用者を増やせます。
変動の大きい利用者の数を、安定させることにつながるのです。
住んでいる市区町村の枠を越えて、県内全ての施設が利用できるという取り組みは、山梨が全国初です。
この仕組みを整備した山梨県・子育て支援課の下條勝課長は「より利用者が使いやすく、また利用の数が増えるということから、経営の安定化につながるんじゃないかと考えています」と、その狙いを話していました。

「病児保育」の課題は、施設が利用しやすくなることだけで解決するわけではありません。
共働き世帯が増える中、親の勤め先が、より柔軟に休めるようになるなど、社会全体の理解も必要です。
国も病児保育について、今年度、大規模調査を進めるなど、課題解決に向けて動き出そうとしています。

取材:上田ひかりディレクター

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