これまでの放送

2019年12月3日(火)

日本の動物園に “変革の波”

動物たちの生き生きとした姿が人気の北海道・旭山動物園。
来年(2020年)4月から入園料を20%値上げし、公立の動物園では最も高い1,000円になります。
実は値上げの背景にあるのが欧米からの批判です。
飼育施設が狭いなどと指摘され、さらなる施設の充実を求められているのです。
いま日本の動物園に変革の波が押し寄せています。

旭山動物園が値上げへ 押し寄せる“変革の波”

旭山動物園の「もうじゅう館」です。
ここにいるヒグマの飼育環境が、欧米の批判を受けています。
このヒグマは、「常同行動」と呼ばれるおりの中で同じ場所をぐるぐる回わる動きをしています。
施設の狭さなどから来るストレスで、異常な動きをしていると批判されているのです。

欧米の批判の根拠は、ここ数年で世界的に広がっている“動物の福祉”という考え方です。
動物本来の動きができるよう、自然をそのまま切り取ってきたかのような飼育環境をつくり、十分な広さを確保するとともに、群れで生きる動物は群れで飼うべきだとしています。
ホッキョクグマについては、飼育のガイドラインもすでに定められ、広さは500平方メートル以上。
エサも自分で探して食べられる環境を整えるよう求めています。
危機感を強めた旭山動物園。
施設を拡大するために、値上げで得る資金の活用を決めました。

ヒグマの飼育施設を数億円かけて、今の3倍以上の500平方メートルに拡大。
さらに、川を作ってヒグマが魚を捕食できるようにする計画です。

旭山動物園 板東元園長
「飼育の仕方だったりとか、動物の生活だったりとか、質だったりとか、そういうものをしっかりと捉えていかなきゃならない時代にはなってきている。」

対応迫られる“動物の福祉”

〝動物の福祉〟への取り組みが不十分で、新しい動物を確保できなかったケースも出ています。
札幌市の円山動物園は、ホッキョクグマの飼育施設の広さが欧米のガイドラインの半分ほどしかないという理由で、繁殖のためのクマの提供を拒否されました。

このため20億円以上かけて施設を拡大。
エサを地面に埋めて隠すなど野生に近づける工夫もし、ガイドラインに沿った整備を進めています。
専門家は、いまや〝動物の福祉〟への取り組み無くして、動物園は成り立たないといいます。

帝京科学大学アニマルサイエンス学科 佐渡友陽一講師
「お互いの信頼関係の中で動物を貸し借りするブリーディングローンというのはごく普通になっていて、信頼関係が無かったらやっていけないわけですよ。
そのアメリカとかヨーロッパの動物園の信頼関係の輪の中に、日本の動物園は入っていけますかっていう事が問われている。」

欧米の動物園が施設の拡大などを実現できる理由のひとつが、整備費を確保しやすいことがあります。
入園料の平均は、日本のおよそ4倍の約2,000円です。
また、収入の3分の1が寄付というところもあります。
一方、日本では、旭山動物園のように、値上げに踏み切れる動物園はごくわずかです。
各地にある規模の大きくない動物園の大半では値上げが入園者の減少につながるなどとして、いまの施設のままで対策を見いだそうとしています。

高まる“動物の福祉” 日本らしさ求めて

福岡県の大牟田市動物園では、予算が限られるなか、今ある施設をいかして〝動物の福祉〟の充実を図ろうとしています。

その一例が、レッサーパンダです。
かつて、おりの中に木は数本しかありませんでした。
そこで、木を大幅に増やすとともに、壁には取っ手を付けて、縦にも横にも動けるように工夫しました。

大牟田市動物園 飼育員
「天井もぎりぎりまで高くまで使えて、壁も登ったりとかして、スペースを有効活用して飼育しています。」

子どもたちに大人気のモルモットでは、ストレスを最小限にする展示に切り替えています。
名付けて「自由出勤制度」。
展示スペースまで出ていくかどうか、モルモットに任せることで、動物の福祉を高めようと考えました。

山梨県甲府市の遊亀公園附属動物園では、日本ならではの“動物の福祉”を追求しようとしています。
このライオンは、人間でいえば90歳ほどにもなる高齢です。
視力はほとんどなく、エサも自分で食べることができません。

来園者
「左目が痛々しいんでね、かわいそうですけど、長生きしてもらいたい。」

欧米では、安楽死をさせて苦しみを取り除くことが動物のためだと考えます。
しかし日本では、少しでも長生きしてもらうことが動物の幸せにつながると考えてきました。
国内の動物園でつくる団体は、日本の価値観を認めてもらう必要性を強調しています。

日本動物園水族館協会 成島悦雄専務理事
「欧米からいろいろ言われていますけれども、それは動物福祉に対する考え方の違いで、どちらが遅れているとか、あるいは進んでいるっていうことはではないんだと思います。
日本ではこうなんですよ、というのはやっぱり発信していかなきゃならないと思いますけども。」

実は、欧米のガイドラインのすべてが国際的なルールとして認められているわけではありません。
いわばルール自体が、策定の途中の段階です。
そのため、日本の動物園の取り組みや価値観を反映できる余地は十分あります。
ただ、自然のような飼育環境を、という欧米の指摘はもっともで、日本も不十分な点があることは否めません。
だからこそ各地の動物園は謙虚に受け止めて改善に取り組んでいます。
そうした対応も含めて、日本の主張を訴えていく必要があります。
対応が遅れることになれば、各地の動物園から動物が次々と消えていき、動物園そのものがなくなる可能性もあります。
動物園は、自然を身近に感じ、その素晴らしさを学べる場であるとともに、希少な動物の繁殖という、自然保護の役割も担っています。
動物園をどう改善していくべきか、利用者である私たちも考えていく必要があると思います。

取材:芋野達郎(NHK旭川)

Page Top