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2019年12月1日(日)

『ズッコケ三人組』 いまに伝えるメッセージ

長く、子どもたちから絶大な人気を誇ってきた『ズッコケ三人組』シリーズ。
著者の那須正幹(なす・まさもと)さん(77歳)が、子どもたちに生きるための大切なメッセージを伝えたとして、11月、歴史ある児童文化賞を受賞しました。



児童文学作家 那須正幹さん
「長生きして、子どもたちに夢と希望を与えるような作品を書けという励ましだと思います。」

那須さんの代表作『ズッコケ三人組』シリーズ。
1978年から26年間、50巻まで続き、「児童文学の金字塔」とも言われてきました。
主人公は、小学6年生のハチベエ、ハカセ、モーちゃんの三人組。
ごく身近な日常の中で、さまざまな事件や難題に遭遇する物語です。
特徴は、それまでの児童文学にはなかった、厳しい現実や世相を盛り込んだことです。
子どもの自殺や、体が不自由な高齢者の独居問題。

クラスメイトを追い詰めるサラ金など。
きれいごとだけではない、リアルな現実を描いたのです。
その真意はどこにあるのか、作品にどんな思いを込めたのか。
那須さんに直接たずねてみると…。

那須正幹さん
「もっと社会に子どもを出してもいいんじゃないかと思うんだけどね。
子どもも“社会の構成員の1人”だから、やっぱり大人とのつきあいというか、ただ、いわゆる大人に指導される子どもではなく、大人と対等につきあっていく、そういう子どもを描いていこうと思って。」

作品の中で那須さんは、子どもたちを厳しい社会の中に容赦なく飛び込ませてきました。

80年代後半に書いた『ズッコケ結婚相談所』です。
当時、急増していた離婚・再婚を、子どもの立場から描きました。
自分が赤ちゃんの時、両親が離婚したモーちゃん。
小学6年生の時、母親から、再婚したいと男性を紹介されます。
悩み抜いた末、モーちゃんが口にした一言は、「父さんと呼べない」。

那須正幹さん
「両親はね、好き合って再婚するんだから、それはいいかもわからないけど、子どもにとってはどうなんだろうと思って。
やっぱり、子どもにも“親の選択権”があるんじゃないかというのが僕の考え方でしたね。」

リアルな現実を描いた『ズッコケ』シリーズ。
その人気の理由を研究してきた宮川健郎(みやかわ・たけお)さんは、当初は、大人からの反発が大きかったと語ります。
「悪書」だとされ、図書館においてもらえない時期もありました。

武蔵野大学 名誉教授 宮川健郎さん
「遠ざけておきたいテーマをどしどし書いちゃったんで、本を与える家庭のお父さんお母さんは、ちょっと自分たちが経験してきた子どもの本と違うから、だいぶ戸惑いはあったと思いますね。」

一方、当時の子どもたちは、斬新な内容に夢中になっていました。

小学6年生の時から、40年に渡り、『ズッコケ』シリーズを読み続けてきた飯塚宣明(いいづか・のりあき)さん。
子どものころ、作品を通してかいま見る大人の社会に引き込まれ、読みふけったと言います。

飯塚宣明さん
「それって必ず、人である限りは、いつかは自分自身経験していかなきゃいけないことじゃないですか。
自分が仮にそういう目に遭ったら、どういうふうに思うだろうかとか、そんなことを子ども心に考えるきっかけになっていたと思いますね。」

飯塚さんが、本と一緒に、今でも大切にしている物があります。
那須さんからの手紙です。
子どものころ、ファンレターを出すと必ず返事をくれ、本を読んでくれたことへのお礼などが丁寧につづられていました。

飯塚宣明さん
「同じ人間どうし、“対等に”関わってくださるというのは、すごく強く感じますね。」

子どもと1人の“人間”として対等に向き合い、“社会”というものを伝えようとしてきた那須さん。
ぶれないその信念は、那須さん自身の生い立ちと経験から生まれたのだと言います。

那須さんは広島で生まれ、昭和20年8月、3歳のときに、爆心地から3キロの自宅で被爆しました。
家族は無事でしたが、焼け野原となった街や、後遺症に苦しむ人々など被爆の影響が色濃く残る土地で育ったのです。

そして、大人になり、4人の子どもを持った那須さん。
広島のことを伝えたくて、子どもがまだ幼い頃、思い切って原爆資料館に連れて行きました。
ところが…。

那須正幹さん
「被爆人形、そこまで連れてくると、皆もう動けなくなって。
ちょっと刺激が強すぎたかなと。」

しかし、それからおよそ10年が経った頃、高校生になった子どもから、思わぬことを言われます。

“資料館にもう一度行きたい”

那須正幹さん
「子どもの時にすごく怖かったけど、あれは何だったのかなと思って、『やっぱり、もういっぺんきちんと原爆について知りたくなった』と言って。
その時はすごくショック受けるかもわからないけれど、大人になってもういっぺんそれを再確認する。
だから(現実社会との)出会いというのが大切だなと思って。」

「時に残酷で、理不尽な現実社会との出会いを作る」。
そんな思いで物語を描いてきたという那須さん。
同時に、生きるために、前を向く人間の強さをにじませることにもこだわってきました。

5年前、ふるさと広島を襲った土砂災害。
那須さんは、被災の現場や避難所などを自らの足で取材し、目の当たりにした惨状を、『ズッコケ』シリーズで生々しくつづりました。
そして物語の最後、那須さんは、実際の現場で目にした印象的な場面を描き込みました。
苦しみの中で立ち上がる子どもの姿に、大人が希望を見いだしていくのです。

“あそこの壁に『希望新聞』ていう、壁新聞がはってあるんだ。
避難所の子どもたちが、作ってるんだよ”
“なかには家が流されたり、身内が亡くなった子もいるんだよ。
でも、底抜けに明るいんだ。
彼らから元気をもらってるって感じ” 『ズッコケ熟年三人組』より

那須正幹さん
「人間っていうのは、それほどやわじゃないから。
またみんな、自分たちで生きていくね、すべも持っているし。
人間の未来、その源は子どもたちだという。
子どもたちを信じることは未来を信じることだからね、やっぱりそういう気持ちを僕は持っていますね。」

77歳の那須さん。
これからも、子どもたちに向けて作品を描き続けていくと話しています。

取材:伊藤加奈子

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