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2019年11月21日(木)

“僕とホテルに行ったら採用”!?

「今からラブホに行こう」「一晩だけ我慢すれば大企業に入れるよ」…。
就職活動中の女性たちが、企業の採用担当者に言われたということばです。
職を求める弱い立場に置かれた学生が受ける“就活セクハラ”。
注目を集めるきっかけとなったのは、ことし春、女子大生がOB訪問中に相次いで強姦(ごうかん)などの被害に遭った事件でした。
取材すると、企業のセクハラ対策が進んできたにも関わらず、就活生が“蚊帳の外”に置かれ、加害者が野放しになっている実態が見えてきました。(おはよう日本ディレクター 蓮見那木子)

“殻を破る手伝いをしてあげる” 実体験描いた漫画

インスタグラムでのべ195万回以上読まれた漫画があります。
20代の女性がIT企業の人事担当者から受けたというセクハラの実体験を描いたものです。
女性は、採用面接中に「君は自分の殻を破れていない」とダメ出しされ、「殻を破る方法を教えてあげる」と居酒屋に誘われます。
そこで「僕とラブホに行ってセックスすれば採用する」と繰り返し言われたのです。

女性が断ると、社員は一転して不採用をちらつかせます。
恐怖を感じ、選考を泣く泣く辞退したという内容です。

「就活生に手を出すクズがこんなにも…」

5月に投稿されたこの漫画。作者の笹川めめみさん(ペンネーム)のもとには、インスタグラムを通して「同様の被害に遭った」という声が20以上寄せられました。
その中には、採用担当者から「内定と引き換えに6人と関係を持った、君も一晩だけ我慢すれば大企業の社員になれるよ」と言われた、というものも。

「就活生に手を出すクズがこんなにもいることに、怒りで震えた」というめめみさん。
今も、自分が被害に遭った直後に友人とやりとりしたLINEの画面を保存していました。

被害に遭った直後に友人に送ったLINE

「採用する人材としてではなく、性的対象として見られたことにショックを感じました。
面接官と就活生という力の差を利用されたことが、ただただ悔しかったです。」

相手は課長から“部長代理”に

取材中驚いたのは、めめみさんにセクハラしたという社員が、今も同じ会社にいて、昇進までしていたことです。
名前などを検索したところ、「部長代理」として会社の人材募集についてPRする動画が見つかりました。

めめみさんをホテルに誘ったのは事実なのか。
その社員に電話で話を聞きました。

突然の電話にうろたえた様子の社員。
最初は「誤解ではないか」「たとえ話の中で、そういうことばを発したかもしれないが、記憶がさだかでない」と言っていましたが、追及するうち、徐々に態度が変わっていきました。

「人事権があるというか、採用の合否を決められるという立場で、どこか(就活生を)弱者と見てしまっている自分がいてですね。
絶対的に指導できる立場だというような勘違いを(していた)。
そういった通報があるのならば、非常に申し訳ないということでございます。」

就活生はセクハラ対策の“蚊帳の外”

めめみさんはセクハラを受けた後、就職活動自体が怖くなり、半年間引きこもりがちになるなど、大きな打撃を受けました。
しかし、被害について訴えることはできなかったと言います。

「会社に訴えようにも、窓口になっていたのが、人事担当のその社員だし、できることが思いつかなくて。
とにかく早く忘れたかった。」

ある調査では、就活セクハラを受けた人のうち、「誰にも相談できずにいる」と答えた人が7割を超えていました。(2019年2月Business Insider Japan調べ)

なぜ就活セクハラは、埋もれてしまうのか?
専門家は、就活生が対策の“蚊帳の外”に置かれていることに問題があると言います。

労働政策研究・研修機構 内藤忍研究員

「企業は“社員をセクハラから守る”ことを法律で義務付けられていますが、“企業の外にいる”就活生に対しては、保護を義務付けられていません。
大学も就活セクハラの対策はほとんど講じておらず、就活生は“保護の谷間”に落ちているのが現状です。」

男女雇用機会均等法(2007年改正)により、企業は、社員のために「セクハラ相談窓口」を設置し、懲戒などの処分を講じることが義務付けられています。
しかし、そうした窓口は、ほとんどの企業で就活生には開放されていません。

「就活生の孤立した状況に加害者がつけこんでいる構造になっています。
野放し状態の中で、毎年、次の就活生を狙ったセクハラが繰り返されている可能性が否定できません。」
(内藤忍研究員)

インターンで体を触られる… “今どき就活”が危ない

就活セクハラはどのぐらい広がっているのか。現役大学生が多く所属する団体Voice Up Japanの実態調査に同行しました。すると、就活事情の変化により、新たなリスクが生まれていることがわかりました。
その一つが、今や就活生の8割が参加すると言われるインターンシップです。調査に答えた女子大生は、週3日働く長期インターン中に、指導役の社員(30代)から肩や背中を触られたと言います。

社員が「採用権を持っている」と言っていたため、抵抗できずにいると、行為は次第にエスカレート。エレベーターの中で手を握られたり、服の中をのぞき込まれたりしたこともあったそうです。

“女子大生と簡単に出会える”就活アプリ

もう一つ、被害の温床と指摘されているのが、学生の間で爆発的に使用が広がる“あるアプリ”です。
ことし2月、ゼネコン大手大林組の社員(20代)が女子大生にわいせつ行為をしたとして逮捕された事件。社員はOB訪問中に「就活の参考になる資料を見せる」と言ってマンションの部屋に誘い込んだと言います。ふたりをつないだのが、“OB訪問したい学生”と“社会人”をマッチングするスマホアプリでした。

顔写真と大学名などを登録すれば、さまざまな企業の社員と簡単につながれるこうしたアプリ。登録学生数は23万人を超え、取材した女子大生の中には、アプリで50人以上OB訪問した人もいました。
しかし、学生の座談会では、このアプリを“下心をもって”利用する社会人もいるという声が上がりました。

就活中のハラスメントについての座談会(チャリツモ主催)

「男子学生だとアプリでOB訪問を申し込んでも無視される。“女子大生との出会い目的”の社会人もいるんじゃないかって男友達の間では不評ですね。」

それでも、学生たちがOB訪問に力を入れざるを得ない背景には、採用ルートの複雑化があると言います。ことしは6月の面接解禁の時点で、すでに内定を得ていた大学4年生の割合が7割を超えました。企業が早期選考に力を入れ、インターンなど非公式な採用が増える中、学生たちはOB訪問などでの情報収集に躍起になっているのです。

Voice Up Japan 山下チサトさん(大学2年)

「就活生が人事担当者ではない一般の社員と接触する機会が、以前と比べものにならないほど増え、セクハラが生まれやすい環境になっています。被害がさらに深刻化していくのではないか、怖いです。」

就活生をセクハラから守って

11月、厚生労働省に1万を超える署名が届けられました。記されていたのは、就活生をセクハラから守ることを企業に義務づけてほしい、経団連や大学などに対策を促してほしいといった切実な訴え。署名活動の中心となったハラスメント相談コミュニティサイトを運営するITベンチャー・キュカの片山玲文さんは「泣き寝入りの現状をなんとか変えていきたい」と話していました。

私自身も5年前は就活生でした。親元から巣立ち、大学からも離れて、人生で初めての試練に立ち向かう就職活動は、不安で心細いもの。その心理につけこむ就活セクハラによって、被害者のその後の人生が大きく狂わされている現状に、憤りを感じました。
(ディレクター 蓮見那木子 2015年入局)

対策について伝えた記事はこちら

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