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2019年11月5日(火)

なぜ見過ごされたのか ADHDに悩む女性たち

「忘れ物や遅刻が多い、家事が段取りよくできない」。
一見誰にでもある悩みのようですが、克服しようとしてもどうしても繰り返してしまって自信を失い、ついには医療機関を受診するという人が特に女性に多く見られます。
こうした女性のなかには、「ADHD」注意欠如・多動症と診断される人がいます。
生まれながら脳の機能の一部がうまく働かない、発達障害のひとつです。
大人になるまでその症状が見過ごされてしまい、悩みを深めているADHDの女性の実態も明らかになってきました。

35歳でADHDと診断された、加藤杏菜さんです。
「整理整頓が苦手」といい、衣類など身につけるものはすべて目に見えるところに置いています。
収納するとどこに何があるか、分からなくなってしまうのです。
結婚して10年、夫と2人で暮らしていますが、食事のほとんどがコンビニなどの弁当です。
料理を作り始めても最後まで集中力が続かず仕上げられないためです。

加藤杏菜さん
「料理を始めても気が散って長い時間がかかっちゃうんです。
他のことが気になってしまつたり、次にすることに気がいってしまったりして、料理を仕上げられないんです。」

集中して物事に取り組めないという傾向は、小学校のころからみられたといいます。
最も困ったのは宿題。
提出できないことが多くありました。
しかし、勉強は得意で成績もよかったため、強くとがめられることはありませんでした。

加藤杏菜さん
「宿題に取りかかっても他のことが気になって手がつかなかったんです。
自分はどうして宿題を仕上げることができないんだろうって思っていました。
勉強がなまじできたから、まわりの大人はみんな『あなたはやればできるのに…』と言っていました。」

大学でもレポートの提出を忘れることがたびたびありましたが、無事に卒業。
念願だった教員免許も取得しました。
しかし、教師になったとたん、問題に直面しました。
児童の成績表や保護者への文書などの提出が、どぅしても、締め切りぎりぎりになってしまったのです。
何度も同じことを繰り返すうちに、先輩や同僚にあきれられたり、小言を言われたりすることが多くなっていったといいます。

加藤杏菜さん
「仕事が期限にあげられず、まわりに迷惑をかけているなと感じてすごくストレスでした。
できない自分はなんてだめな人間なんだろうって思っていました。」

加藤さんは次第に倦怠感に悩まされるようになり、心療内科を受診。
その結果、「ADHDが原因で激しい気分の浮き沈みを繰り返す双極性障害」と診断されました。
日常生活を送るために、薬の服用が欠かせなくなった加藤さん。
仕事にやりがいを感じていましたが、気分がしずんで起き上がれないことも増え、先月、やむなく退職しました。

加藤杏菜さん
「ごまかしごまかしやってたけど1回リセットしようという気持ち。
子どものころの早い段階で、ADHDの特性があるっていうことを知っていれば、双極性障害とかそういうものにならないで済んだんじゃないでしょうか。」

加藤さんのように、大人になってからADHDに気づく女性は多く見られるようになっています。
大阪を中心に活動する、女性の発達障害の当事者会には、ADHDやその可能性がある女性が60人以上参加しています。
そのほとんどが長年違和感を抱いていたものの、大人になってから診断された人です。

参加者
「結婚して3年ぐらいになりますが、私がごみをちょっと置きっ放しにしたら、夫から『なんで片づけるってことができへんの?』と言われ続けて、けんかになったんです。」

参加者
「子どものこと、主人のこと、私のこと、それに家のこと、全部私がしなければいけない、そういうときにどうしたらいいかって思ってしまう。」

自らもADHDと診断された、代表の沢口千寛さんは、会員の多くをしめる30代から40代の女性たちが、就職、結婚、出産、という経験を積み重ねていくにつれて、悩みを深めているのでは、と感じています。

沢口千尋さん
「仕事をやりながら、家事をやるなど、やらなきゃいけないことがいっぱいあるのに、役割に対してできないと、どんどん自分をせめていって、自分からへルプがだせないのかなと思います。」

なぜ、女性のADHDは、悩みが深刻になるまで見過ごされてしまうのでしょうか。
ADHDの診断基準は主に、「多動性・衝動性」と「不注意」の2つです。
専門家によりますと、このうち、「じっとしていられない」といった、「多動性・衝動性」の特徴的な行動は、主に、男の子に多くみられるといいます。
一方、女の子に多いのは、「課題を順序立ててやりとげられない」など、「不注意」による行動だとされています。
ただ、こうした行動は、基本的な生活習慣が身についていないからだとみなされやすいというのです。

発達障害クリニッケ附属発達研究所の神尾陽子医師は、「子どものころ不注意による行動が多く、大人になるまで自らがADHDであると気づくことができず苦しんでいる」男性もいるとしながらも、これまで、比較的、早い段階でみつかり、支援につながることが多かった男の子に対して、女の子は、問題が深刻になるまで放置されてしまっていたのではないか、といいます。

神尾陽子医師
「ADHDの女性はまわりから見たらそんなに目立たなくても、ものすごく傷ついていて自己効力感つまり自信、がなくて、不安やうつに苦しんでいるということがいえます、子どものときに、早く気付いてあげることは一番大事だと思います。」

まわりの大人が気付くのは決して簡単ではありませんが、そのヒントになるかもしれない「目安」を専門家に聞きました。

・勉強中に不注意な間違いをする。
・活動中に注意を持続させることが困難。
・話を聞いていないように見える。
・指示に従えず勉強をやりとげられない。
・課題を順序立てるのが困難。
・精神的努力が必要な課題を嫌う。
・必要なものをよくなくす。
・外的な刺激によってすぐ気が散る。
・日々の活動で忘れっぽい。

こうした「不注意の症状とされる9項目のうち6項目以上に当てはまる」。
また、「9項目のいずれかが半年以上続いてみられる」「学業に悪影響を及ぽしている」などの場合には、専門医や地域の保健センターに相談してみるとよいと、専門家は指摘しています。

今回、取材に協力してくれた女性たちは、仕事や家庭に影響が出ないよう、1人でがんばりすぎていると感じました。
専門医も、「自分がどうしてもできないことにつぃては、まわりに少し手伝ってもらってもいいのではと」と話しています。
ADHDの人も、適切なサポートがあれぱ、自分のぺースで物事に取り組んだり、能力を発揮することができます。
本人そしてまわりの人も、その個性を受け入れていくことができれぱ「生きづらい」と感じる人をより減らしていくことができるのではないか。
今回の取材を通してそう感じています。

取材:石川香矢子(おはよう日本)

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