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2019年10月27日(日)

台風19号 高齢者・障害者の命 どう守る?

台風19号では高齢者や障害者など、避難の際に支援や配慮が必要な人たちを受け入れる「福祉避難所」が十分に機能せず、大きな混乱が生じていたことがわかってきました。



越辺川(おっぺがわ)が氾濫し9つの福祉施設が浸水した埼玉県川越市では、台風が接近する中、多くの施設が深刻な状況に陥っていました。
建物の2階に避難し100人全員が救助された、特別養護老人ホーム「川越キングスガーデン」もその一つです。
この施設では本来、事前に別の場所に利用者を避難させることになっていました。
施設の避難計画を見ると、想定していた避難先は福祉避難所に指定されている近くのケアハウス。
しかし、川が氾濫した場合、この施設も浸水するおそれがありました。
ほかに避難できる場所は、一般の避難所に指定されている学校だけでした。
体の弱った高齢者を設備の整っていない場所に移動させるより、施設内にとどまったほうが安全だと判断したのです。

施設長 渡邉圭司さん
「100名を移動するのが、どれだけ危険で、時間がかかるか。
ここにとどまっていた方が、はるかに安全であると判断しました。」

しかし、台風の接近にともなって川からは水があふれ、想定したよりも深刻な事態になっていきました。

建物の中まで浸水し、職員24人が手分けして、100人の高齢者を2階に避難させ始めました。
ところが、思いがけない事態が起こります。

施設長 渡邉圭司さん
「途中で停電になり、エレベーターが使用できなくなりました。
お年寄りを階段を抱えて上がり、お一人お一人、歩ける方も職員が付き添ってケガのないように移動しました。」

避難は困難を極め、全員が逃げ終えたのはおよそ2時間後。
1階部分は完全に水没していました。
高齢者全員が救助された川越キングスガーデン。
しかし、安心して避難できる場所がなかったための苦渋の決断だったのです。
移動できる距離に、体の弱ったお年寄りも安心して避難できる場所があれば違う判断があったかもしれません。
取材を進めると、意外な事実が判明しました。
川越市内で、福祉避難所に指定されている施設は27か所。
ところが、半数近くが浸水の危険性のある場所にありました。

さらに、この27か所はすべて福祉施設であるため、もともとの入居者がいます。
用意されている福祉避難所が浸水エリアにある上に、受け入れられる人数も限られているのです。
そのため多くの人が一般の避難所などに向かいましたが、その後の生活に大きな影響が出ています。

高齢者・障害者 避難のその後

川越市内にある障害者施設の入居者が避難している公民館。
9割が自閉症の人で、慣れない環境が大きなストレスになっていました。

施設職員
「男性と女性は、ふだん別々に生活しているので、やっぱり一緒にいるっていうこともあって落ち着かないのかもしれません。」

実は、彼らにとってここは3か所目の避難場所なのです。
最初に避難したのは、「市民センター」でした。
しかし「市民の予約が入っている」と言われ、翌日、小学校に移動。
ところが、ここでも「あすから授業が始まる」と言われ、この公民館にやってきました。

社会福祉法人 けやきの郷 職員 内山智裕さん
「ほとんどの方は自閉症なんですが、環境の変化に適応するのにものすごい時間がかかります。
覚えようとした物がまた違う環境になり、また一からというのは、彼らにとっては相当なストレスになるし、相当な苦痛だと思います。」

100人の高齢者が救助された「川越キングス・ガーデン」では、施設が使えるようになるまでの間、助かった高齢者たちをほかの施設などに預かってもらっています。
しかし、台風から10日後、避難していた利用者の1人が亡くなったという知らせが届きました。

施設長 渡邉圭司さん
「施設で12年過ごしてくださっていた人なので、私たちが最後までみて差し上げたかったという、残念な思いはあります…。」

環境の変化で、体調を崩す人も出始めています。
施設の職員達は手分けして受け入れ先の施設を訪問し、利用者のケアにあたっています。
避難するときも避難後も大変な状況が続く、福祉施設の避難の問題。
大きな災害が相次ぐ中、高齢者や障害者がスムーズに避難するにはどうすればいいのでしょうか。

福祉施設の防災に詳しい、鍵屋一さんに聞きました。
まずは福祉避難所など、安全で、安心して避難できる場所を地域に1つでも多く作ること。
次に、まさかのときに相互に協力する施設どうしの「困った時はお互い様」の連携を作っておくこと。
このとき重要なのは、災害が起きる前に取り決めておくことです。
この2つを実現する上で重要なのが、「行政の役割」。
施設任せではなく、地域全体で障害者や高齢者の避難を考えるという発想が大切だと、鍵屋さんは指摘します。
さらなる災害に備え、同じような課題を抱えている自治体では、避難所についていま一度見直す必要があるのではないでしょうか。

取材:清有美子 宗像真宏 古市駿(NHKさいたま)

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