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2019年10月15日(火)

ラグビーワールドカップ “サポート役”高校教師 一流審判に学ぶ

ラグビーワールドカップで、選手たちの活躍を陰で支える重要な存在が「審判」です。
今大会では世界各国から23人の一流の審判が集められています。



今回、大会の組織委員会は、審判たちが試合に集中できるよう「ローカルリエゾン=地元案内役」と呼ばれる日本人のサポート役を全国で9人選びました。
試合の前後、審判団に付き添って、会場へのアテンドや食事の用意、スケジュールの管理などを手伝います。
このサポート役に選ばれた9人の中の1人が、大分県の高校の先生です。
夢の舞台で、一流の審判から何を学んだのでしょうか。

大分市の大分東明高校の英語の教師、井餘田智さんは、英語力を生かして、ワールドカップの審判をサポートしてほしいと依頼を受けました。
井餘田さんは、ラグビー部のコーチも務めています。
3年前に審判の資格を取得したばかり。
将来、ワールドカップで審判を務めるのが夢です。
そんな井餘田さんにとって、今回の審判のサポート役は、一流の審判のすごさに触れる大きなチャンスです。
ラグビーの審判は、一試合80分を休みなく走り回り、走る距離が10キロ以上にのぼることもあります。
また、激しい身体接触で興奮する選手たちを統率してゲームをコントロールするのも審判の役目です。
井餘田さんは、体を自己管理するこつや、短い時間で選手から信頼を得る極意を学びたいと考えていました。

井餘田智さん
「雲の上の存在の人たちで、技術面であり、内面、精神面を学びたいと思っています。」

井餘田さんのメモを見せてもらうと、分刻みで審判団をサポートするスケジュールを綿密に立てていました。
また、試合前日に彼らにリラックスしてもらうため、どんな場所で夕食をとってもらうのがいいか、候補をピックアップしました。

井餘田智さん
「外国人はラーメンを好きらしいので、大分駅周辺のラーメン屋さんをピックアップしています。」

井餘田さんは、ワールドカップ本番の前日となる10月8日、ホテルに来た審判団を出迎えました。

翌日の試合の主審は、フランスのジェローム・ガルセスさん(45)です。
4年前の日本・南アフリカ戦の主審を務めたのがガルセスさんです。
日本が歴史的な勝利を達成できたのは、ガルセスさんのフェアプレーを重視する姿勢があったためとも言われています。
井餘田さんは、早速、審判団を食事に案内しました。
私たちNHKの取材陣も、同行しようとしたところ、審判団から試合前のメディアとの接触は控えたいと断られてしまいました。
井餘田さんによれば、審判団の夕食は、両チームの特徴を事前に確認するミーティングのようだったといいます。

井餘田智さん
「審判団は、両チームの試合の映像を見ながらまじめに話しておられた。
食事ひとつにしても細心の注意を払って、お酒を飲まないとか、そういうのもありました。」

翌10月9日の試合当日、井餘田さんは、キックオフの4時間も前に会場に到着しました。
控え室の掃除や飲み物の用意など、審判団が集中できる環境を事前に整えるためです。
そして午後7時前、主審のガルセスさんの笛で、優勝候補の一角・ウェールズとフィジーの試合が始まりました。
試合は、序盤から両チ―ムが激しく攻撃しあう展開となりました。
井餘田さんが、強く惹きつけられたのが、試合前半の白のフィジーがトライを決めたよう見えたシーンです。
このとき、ガルセス主審は、ゲームを止め、トライの前の状況について副審とビデオ判定室に情報を求めました。
このとき、二つの反則が連続していました。ウェールズの選手が相手に危険なタックルを行ったあと、フィジーの選手が前へパスする反則を行っていたのです。
ガルセスさんは、その時の状況を短い言葉で素早く確認。
そして、両チームのキャプテンを呼んだガルセスさんは、選手の気持ちを静めつつ、反則の内容を次のように説明しました。

主審 ジェローム・ガルセスさん
「ウェールズの2番による危険なタックルがあった。
そしてフィジーのトライも取り消します。
フィジーにペナルティキックの機会を与え、ウェールズにはイエローカードです。
安全上の問題があり、危険なプレーでした。」

状況を冷静に分析し、公平な判断で両者を納得させる。
フェアプレーを重んじるガルセスさんの真骨頂です。

主審 ジェローム・ガルセスさん
「審判は選手と良い関係を築くこと、ゲームを持続させていくことが大事なんだ。」

試合後、井餘田さんは、主審・ガルセスさんから学んだことについて、次のように話しました。

井餘田智さん
「チームワークでAR(副審)、TMO(ビデオ審判)と連携をとって判定するところや自分の目に見えるものを信じて力強く笛を吹く、判定をするところ、あのあたりが一流なのかなと感じました。」

翌日、次の試合に向けて大分を後にする審判を見送った井餘田さんは、審判たちから次々にエールの言葉をもらいました。

副審 カール・ディクソンさん
「審判にとって重要なことは相手とコミュニケーションをとること、そして、相手の立場に立って、相手を尊重すること、もちろん自分自身も試合を楽しむこと。
これからも審判を目指してがんばってほしい。」

井餘田さんのノートには、今回サポートした審判1人1人からのサインとメッセージが寄せられていました。

井餘田智さん
「一流の審判の方々と接してみて、裏の努力というのが大事なんだと感じました。
思い出ということで、メッセージやサインをいただきました。
この一冊が自分の今回の宝物です。」

ラグビー元日本代表主将の廣瀬俊朗さんによると、もともとラグビーには審判はいなかったそうで、難しい判定を助けてもらうため選手の方から審判をお願いした歴史があることや、ラグビーにおいて、審判と選手は、コミュニケーションを取って一緒に試合を作る「仲間」と見られているのが、ほかのスポーツと違う点だということです。

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