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2019年10月8日(火)

“再編・統合の議論を” 国が実名公表 厳しさ増す公立病院

9月下旬、厚生労働省は、診療実績が特に少なかったり、似たような病院が近くにあったりする全国424の公立・公的病院を実名で公表し、再編・統合を議論するよう求めました。
これに対し、自治体からは地方の実情を無視しているなどと強い反発の声があがっています。
その一方で、「医師不足」や「赤字経営」が深刻化し、今後、再編や統合をしないと病院を維持出来ないと考える自治体もあります。

医師不足・赤字経営 厳しさ増す公立病院

宮城県北部にある人口およそ8万の登米市です。
市内で最も大きい登米市民病院。
6年前に23人いた常勤の医師は、毎年のように減り続け、現在16人。
慢性的な医師不足に苦しんでいます。
住民の命を守る救急医療。
専門の医師がいないため、この日は整形外科医が日中の診察を終え、そのまま当直に入りました。

治療が落ち着くと医師はとなりの部屋に。
おなかの痛みを訴える夜間外来の患者も、同時に診察していました。
この病院では、できるだけ救急搬送を受け入れたいと努力していますが、およそ半分しか患者を受け入れられていないのが実情です。

登米市民病院整形外科医 大井秀毅医師
「残念なことに本当に(救急患者を)診られる人がいないというのも事実です。」

さらにこの病院では、11年前から常勤の産婦人科医がいなくなり、分べんできなくなっています。
この女性は、妊娠初期の健診は受けていたものの、出産は車で40分かかる隣の市の病院で行いました。

別の病院で出産した女性
「(隣の市の病院に)行くのが大変で、1人で行けないので母についてきてもらう。
こっち(登米市)でも分べんできるようにしてほしい。」

医師不足は、登米市内にあるほかの公立病院では、より深刻です。
常勤の医師は、市立豊里病院が7人。
市立米谷病院は3人。
豊里と米谷の2病院は今回、国が公表したリストに入りました。
また、3つの病院すべてが赤字経営で、毎年、市はあわせて20億円前後を負担。
その財源となる基金も、数年後には尽きてしまう恐れがあるといいます。
登米市の熊谷市長は、このままではすべての病院が共倒れしてしまうと危機感を募らせています。

登米市 熊谷盛広市長
「限られた一般会計の中から、20億を繰り出していくことは、非常に厳しい。
あそこにあるものも残さないといけない、ここにあるものも残さないといけないということは、もう無理だと。
そうでないと、登米市の地域医療そのものが成り立たなくなっていく、崩壊していくと私は危機感を持っています。」

しかし住民からは、再編や統合が進めば「遠い病院に通わなければならない」などと不安の声が上がっています。

男性住民
「実際そのよう(再編)になった場合、大変ですよね。
タクシーやバスを利用するといっても時間的な制限は、バスはある。
タクシーだとお金がかかります。」

女性住民
「みんな内科やら何やら米谷病院で診てもらっているので、困ります。
(病院が)無くならないようにしたい。」

どう論議を進める? 公立病院の再編・統合

今、医師が都市部に集中し、どうしても医師を十分確保できない地域もあります。
そこでは医師の長時間労働が頼みとなっていますが、今後、医師の働き方改革が進んでいくので、それも限界を迎えます。
また、公立病院の経営を維持するために全国の自治体が負担している総額は、年間およそ8,000億円にものぼり、都市部も例外ではありません。
このため、再編や統合の議論をせざるを得ないという地域が出ています。
国や自治体が一方的に議論を進めても、理解は得られません。
大切なのは、住民に「再編後の明確なビジョンを示すこと」ではないでしょうか。
その先進的な事例を取材しました。

明確なビジョン示し 再編・統合の議論を

奈良県の山あいにある南奈良総合医療センターです。
3年前に3つの自治体にあった病院を再編して、新しく開業しました。
再編を進めた松本昌美院長です。
当時、住民などから強い反発がありましたが、病院の現状や今後のビジョンを1年かけて丁寧に説明し続けました。
その中で、最も強調したのは救急医療です。
当時の救急搬送の受け入れ率は、およそ40%。
半分以上は拒否せざるを得ない状況でした。
それが、3つの病院を再編すれば、医師が集約され、受け入れ体制を拡充出来ると訴えました。

南奈良総合医療センター 松本昌美院長
「24時間365日、救急搬送を断らない。
いかにすればそれができるか。
そしてそれを目指します。
そのためにこのプロジェクトは動いていることを理解していただいたら(住民の反応は)違いました。」

こうした議論の結果、この地域では新たに中核となる病院を設立して、医師や機能を集約。
もとあった3病院のうち2つは機能を縮小して残しました。
再編後、救急搬送の受け入れ率は70%近くまで上がりました。
さらに、病院の規模が拡大し、若い研修医の受け入れが可能になりました。
医師は再編前の48人から58人に増え、口くう外科や、産婦人科を新設することができました。

男性住民
「(病院が)近くにあったほうがいいことはいいけど、こういうところでいろんな先生に診てもらうのもいい。」

再編統合したからといって、メリットばかりあるわけではありません。
奈良県の事例では、交通の便が悪くなったり、診察の待ち時間が長くなったりなど不満の声もあります。
メリット、デメリットをきちんと住民に示すことが重要です。
専門家は次のように話しています。

病院の再編・統合に詳しい 城西大学 伊関友伸教授
「ちゃんと情報が公開され、データもちゃんと示された上で、やむを得ないなというような選択をしてもらう。
住民の意見をちゃんと反映して、合理的で、かつみんなが納得できるような決断に導いていくことが必要。」

ひと言で再編や統合といってもやり方はさまざまです。
1つに統合するだけでなく、病院を残して機能を分ける方法もありますし、赤字覚悟で今のまま病院を維持するという選択もあります。
国は1年後までに結論を出すよう求めていますが、それぞれの地域で何を残すべきか、どこまでなら許容できるか、将来を見据えた議論が求められます。

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