日本の文部科学省の関連団体・科学技術振興機構で、中国の学術動向を調査している周少丹さんは、中国の戦略が読み取れる例として国の研究所が発行する“光学”の専門誌「Light : Science & Applications」を挙げました。
7年前に創刊され、国際的な有名科学雑誌に成長しました。
その最大の特徴は、イギリスの「ネイチャー」と提携して、そのブランド力を借りていることです。
ネイチャーなどに普段論文を投稿する著名な科学者たちに論文を寄せてもらうのがねらいです。
科学技術振興機構 周少丹フェロー
「ネイチャーと協力すると、ネイチャーのネットワークやシステムを使って、世界中の研究者に短い期間で認められることが可能です。」
この光学専門誌では、雑誌を編集する人材も、欧米から積極的に招いています。
周さんの調査によると、編集委員の7割は欧米の一流の学者でした。
中国政府は有力雑誌に対し、日本円にして年間最大で3,000万円程度の資金を援助していて、これを元手に、雑誌を作る人材の獲得にも力を入れているのです。
科学技術振興機構 周少丹フェロー
「編集長、編集委員が非常にレベルの高い人だと、多くのレベルの高い科学者が投稿してくれます。
この雑誌の質をまずは認めてもらいやすくなると思います。」
一方、日本の科学雑誌は、苦戦を強いられています。
日本の雑誌には、中国のような国からの大規模な資金援助はありません。
そして、編集委員の多くを日本人が占めているケースがほとんどです。
こうした中、日本化学会の国際論文誌「BCSJ」では、地道な取り組みを行ってきました。
編集部では、著名な日本人研究者に論文を寄せてもらう働きかけを続けています。
また、海外の研究者に少しでも興味をもってもらうため、雑誌に掲載された論文の概要を短くまとめた小冊子を発行し、世界中の研究者に配布しています。
さらに、SNSも活用します。
日本語と英語で、週に3回、最新の注目論文をツイートしています。
こうした努力で、ここ数年で国際的な評価を高めてきました。
しかし、有名雑誌といえるまでの影響力を持つには至っていません。
編集委員の有賀克彦東京大学大学院教授
「日本人の研究の力をなるべくアピールできるような、この雑誌を見たら日本のすごい研究が見られるぞというような雑誌を作りたいと思っています。」
世界の科学雑誌の動向を分析し格付けを行う企業、クラリベイト・アナリティクス・ジャパンは、近年、中国の科学雑誌は、その質も量も、存在感を急速に増してきていると指摘します。
この企業が調査した、科学雑誌の数のここ10年の推移を見ると、日本は、2011年以来ほぼ横ばいで、去年は248誌だったのに対し、一方の中国は、この10年右肩上がりで、去年は219誌と、日本を追い抜く勢いです。
中国の科学雑誌が扱う分野も、あらゆる領域に広がっていて、これによって、中国の研究者たちが質の高い論文を発表しやすい環境が整ってきているといいます。
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン 棚橋佳子取締役
「中国は学術雑誌・科学雑誌だけでなく、学会や発信ということを、個人と組織と研究所などがそれぞれどういう立場でやるかということを、戦略的にもってやっていると思います。
日本は戦略をもって、グローバルに立ち向かうと言うことが必要だと思います。」
有名科学雑誌を発行できるようになると、どの論文を掲載するか決めることができるため、その国の研究者の論文が掲載されやすくなるとも言われています。
これまで埋もれていた研究成果を国際的に発信しやすくなるほか、世界の科学コミュニティー全体にも強い影響力をもつことができると見られています。
しかし日本では、この問題はまだ十分に共有されているとは言えない状態で、日本の一部の研究者は強い危機感を抱いています。
ノーベル賞受賞者を今後も出し続ける科学力を維持していくためにも、日本の科学コミュニティー全体で科学雑誌を育てるという意識を持つことが大事だといえます。