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2019年10月2日(水)

変わる? 赤ちゃん“命の線引き”

赤ちゃんは通常、妊娠40週前後で生まれてきますが、なんらかの理由で、おなかの中で十分に発育する前に生まれてくるケースが早産です。
おととし(2017年)1年間で、妊娠23週で生まれた赤ちゃんは298人。
22週だと130人いました。
ただ、妊娠21週だとひとりもいません。
国の基準では、妊娠22週未満で生まれた赤ちゃんは生きられる見込みがないとされ、医療現場では人工呼吸器をつけるなど、救命措置が基本的に行われません。
流産として扱われます。
妊娠21週と22週の間に、いわば「命の線引き」があるのです。
しかし、医療技術の進歩によって、妊娠22週未満で生まれた赤ちゃんも生きられる可能性が指摘されています。
これに伴って、基準を改めるべきなのか、議論が始まりました。

妊娠22週未満は救えない 変わるか? “命の線引き”

13歳の有賀茂美さんは「妊娠22週」の基準より前に生まれ、助かった女の子です。
出産当時、母親の真美さんは主治医から、妊娠22週未満で生まれた場合、救命措置はしないと告げられていました。

出産したのはその1日前、21週と6日目でした。
わずか508グラムの赤ちゃん。
本来なら救命されないはずでした。
しかし、出産に立ち会った新人の看護師が主治医とは別の医師を呼び出し、救命措置が行われました。
茂美さんは、全くの偶然で救われたのです。

発達の遅れが指摘されている茂美さん。
都内の特別支援学級に毎日通っています。

母 真美さん
「ありがたいと思います。
いろんな偶然が重なったと思うんですけど、この子のおかげで大変な幸せを得たような。」

救命措置をするかしないかの基準は、妊娠22週が適切なのか。
長野県立こども病院では、妊娠22週で生まれた赤ちゃんの9割以上が救命措置で命を取り留め、その後退院しています。
しかし、そのうちおよそ3割に、重い呼吸障害や脳性まひなどの障害があります。
もし妊娠22週未満の赤ちゃんを救命するようになれば、障害のある赤ちゃんは増える可能性が高いといいます。

長野県立こども病院 廣間武彦医師
「妊娠22週で生まれた赤ちゃんの中には重篤な障害を持ち、いろいろな医療的ケアを必要とするお子さんもいらっしゃいます。
どこまで赤ちゃんの生命を救うかということに、日々悩んでおります。」

いま国の研究班が、基準を下げるべきか調査を行っています。
調べているのは、救命措置が行われているギリギリのライン、妊娠22週、23週台で生まれた赤ちゃんの生存状況です。
生存率が高ければ、基準が引き下げられる可能性があると言います。

国の研究班 代表 森崎菜穂医師
「22週23週のお子さんが、かなり生存する方が多くなっていて、本当にこの22週未満は生きられないと定義することが正しいのかどうかということを、もう一度再考する必要があるのではないかと思う。」

国は法律で、妊娠期間がどれくらいあれば生まれてきた赤ちゃんが生きられるのかを示す「生育限界」を定めていて、これが新生児医療の現場で救命するかしないかの基準として使われています。
そして生育限界は、これまで医療技術の進歩にあわせて変更されてきました。
1953年に妊娠28週と定められましたが、その後、24週に変更。
22週となったのは、今から29年前のことです。
今回変更するかどうかは、研究班の調査結果が来年度中にまとまる見通しで、その結果を受けての議論という状況です。
ただ専門家の間では、生育限界を変える場合は、生まれた子どもと家族に対するサポート体制を充実させることが不可欠という声があがっています。

取材したのは、早産で生まれた子どもとその親たちが集う会です。
障害があったり他の子に比べて発達が遅かったりした場合、参考になる情報が少なく、相談先も限られることに苦労しているといいます。

「哺乳力が弱いからおっぱいも飲んでくれないし、(健診で)飲んでくれないんですって言ってもわかってもらえない。」

「感染のリスクが怖かったので、2歳くらいまでほとんど家から出ない。」

こうした子どもや家族を支えるためには、それぞれの発達や障害に応じたケアが必要になります。
神奈川県立こども医療センター・新生児科の豊島勝昭医師は、早産で新生児集中治療室に入院していた子どもなどを対象に、定期的に運動や知能の検査を行って、治療や生活面のアドバイスをしています。
生育限界を引き下げた場合、子どもの成長にどのような影響がでるのか、はっきりしていません。
幼少期だけでなく、就学後もできるだけ長期にわたって支える必要があるといいます。

神奈川県立こども医療センター 豊島勝昭医師
「生育限界を下げていくかどうかというのは、新生児医療の治療の成績だけで決めるわけではなく、助かった子たちのその先の支援体制もあわせて考えていく必要がある。」

日本は、新生児医療の技術は世界トップレベルと言われていますが、一方で退院後の継続的なケアが十分に行われていません。
例えば、スウェーデンでは早産で生まれた子に関する国の登録制度があり、成人期まで継続的にサポートされますが、日本ではそれぞれの医療機関の自主性に任されています。
早産の子どもをケアする健診は、退院してからそれほど時間がたっていない3歳児に対しても、およそ6割ほどしか実施されておらず、年齢が上がるとさらに低くくなると思われます。

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