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2019年9月28日(土)

ドナルド・キーン 未公開書簡が語る“平和へのメッセージ”

ことし2月に亡くなった日本文学の研究者、ドナルド・キーンさん。
先日、出身大学のニューヨーク・コロンビア大学で最後のお別れ会が行われました。
日本を愛し、東日本大震災をきっかけに日本国籍を取得したことでも知らるキーンさん。
生前、ほとんど語られなかった思いを記したメールが特別な許可を得て、初めて明らかになりました。

日本 愛したドナルド・キーン 私たちに残した言葉

ことし2月に96歳で亡くなった日本文学の研究者、ドナルド・キーンさん。
日本を代表する文豪、三島由紀夫や太宰治の翻訳を手がけたほか、川端康成など、文学界の重鎮とも幅広い親交がありました。
日本人の心の機微や繊細さにひかれたキーンさん。
日本文学が世界で広く受け入れられるきっかけをつくり、文化勲章も受章。
東日本大震災をきっかけに、日本国籍を取得した際には、多くの日本人に温かく迎え入れられました。

ドナルド・キーンさん
「日本人が好きです。
日本人として死にたい。」

日本を愛してやまなかったキーンさん。
しかし、今回新たに明らかになったメールの文面には、あまり語ってこなかった気持ちが記されていました。

“私が懸念しているのは、日本人は私がいかに日本を愛しているかを語ったときしか、耳を傾けてくれないことだ。”

キーンさんと晩年の数年間メールを交わしていた、アメリカ・タフツ大学のチャールズ・イノウエ教授です。
キーンさんと同じ日本文学の研究者で、2人は日本文学の賞の授賞式で出会いました。

イノウエ教授は毎年キーンさんの自宅を訪問し、身の回りの出来事から専門的な文学論まで語りあってきました。
イノウエ教授は、日本人が繊細な心で多様な文化を育み、長い年月をかけて平和を築き上げてきたことを、キーンさんは大事に考えていたといいます。

タフツ大学 チャールズ・イノウエ教授
「キーンさんは、戦争のことをすごく気にかけていました。
戦後に繁栄した日本が、戦争の教訓を徐々に忘れていく姿を見るのがつらかったのでしょう。」

キーンさんが平和に思いを寄せる背景には、70年あまり前の戦争体験があります。
キーンさんは、太平洋戦争で海軍の通訳として日本兵の尋問を担当。
沖縄戦では、日本兵に投降を呼びかける役割も担いました。

今回、明らかになったメールの文面。
キーンさんが嘆いていたのは、他者への寛容さが失われているように見える日本人の姿です。

“月刊誌には、「日本人はなぜ韓国人を嫌うのか」、「韓国人はなぜ日本人を嫌うのか」という記事ばかりだ。”

さらに、憲法の改正が議論になり始めても、歴史や平和について無関心な日本の状況に失望していました。

“憲法に対する私の考えが新聞に掲載されたが、いまのところ2人しか反応がない。”
“奇跡は起きなかった。”
 

7年前に日本国籍を取得したキーンさん。
イノウエ教授に、外国人としてではなく、日本人として内側から意見することで、覚悟を持ってメッセージを伝えたかったと打ち明けていたといいます。

タフツ大学 チャールズ・イノウエ教授
「キーンさんは、愛する日本人に言いたいことがありましたが、アメリカ人からの批判に聞こえることを嫌がり、言いませんでした。
だから外国人としてではなく、日本人のひとりとして批判したかったのです。」

その思いを伝えきれないまま、この世を去ったキーンさん。
混迷の時代を生きる私たちに残した言葉です。

“立場や考え方が違っても、話せば何か解決策に到達することができるはずだ。”

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