多胎家庭には実際、どのような負担があり、どんな支援が必要なのか。
同じように追いつめられそうになった3つ子の母親が、その経験を語ってくれました。
生後7か月の3つ子を育てる道絵さんです。
日中、夫は仕事のため、3つ子の世話を1人でしなければなりません。
3つ子の1人は肺に病気を抱え、呼吸器を使っています。
授乳は1日5回。
決まった間隔で、3人同時に飲ませるのは一苦労です。
1回の授乳で、準備から洗い物まで1時間。
合間におむつを替えたりするなど、休む間もありません。
3つ子を育てる苦労を身にしみて感じていた道絵さんは、事件についてこう話していました。
3つ子の母親 道絵さん
「他人事じゃないと思ったのがいちばんで、支援がほとんどなかったからお母さんが孤立しちゃって、多分、困ったことがたまりこんで、そのはけ口がなくって子どものほうに向いちゃったんだろうな。」
道絵さんを最も苦しめたのが、睡眠不足です。
生後4か月のころ、1日8回ミルクをあげていたときのスケジュールです。
3時間おきに授乳。
その後、後片付け、おむつ替えが続き、また次の授乳時間に。
1日の睡眠時間は、1時間半ほどしかありませんでした。
当時の育児日誌には、「夜間、3人同時泣き」、「ムリ」など、追い詰められた道絵さんの言葉が並びます。
道絵さん
「つらかったですね。
寝られないから。
寝不足でどうしようもない気持ちが、目の前の子供に向いちゃうことが多くて、なんで寝ないのと怒ったり、やっちゃったなっていうのがいちばん大きくて、そればっかり、後悔とかあとから押し寄せてきた。」
病気の次男に加え、さらに2人の乳児を育てるのは困難だと主治医が判断し、道絵さんは訪問看護を受けられるようになりました。
看護師は次男の病状を診るだけでなく、残りの2人の入浴や育児も手伝うなど、ほぼ毎日1~2時間支援します。
わずかな時間、道絵さんは仮眠をとるなど、体を休めることができると言います。
道絵さん
「1時間、2時間寝させてもらえたのが、本当に助かってます。
この時間けっこう大事だな。」
道絵さんのような母親を、どう支えればいいのか。
全国でも、先進的に活動しているNPOがあります。
NPO「ぎふ多胎ネット」を立ち上げた、理事長の糸井川誠子さんです。
自らも3つ子を育てた経験があります。
糸井川さんは、3つ子を抱えた道絵さんのような人のために、定期健診の手伝いを行っています。
こうした機会に子供の世話を手伝うだけでなく、母親の悩みを聞くなど、不安を取り除こうとしています。
さらに、NPOでは双子や3つ子などの多胎児を抱える親たちに向けた子育て教室を開くなど、親同士が出会う場を設け、互いの悩みを共有し、孤立をなくそうとしています。
こうした機会に糸井川さんは、多胎児を持つ家庭に対して自宅を訪問し、家事や育児の負担を軽くする支援体制を、自治体に整えて欲しいと訴えています。
NPO ぎふ多胎ネット 理事長 糸井川誠子さん
「支援が必要なのは、本当に短い期間なんですよ。
おおむね3歳ぐらいまでなんですね。
そこまで手厚くきちっと支援をすれば、その後は本当に健康的に育っていく家庭なんですよね。
でもそれがシステムになっていない。
形になっていない。
それをやっぱり、制度としていかに組んでいくかっていうことが、行政の役割だと思うんですね。」
多くの命が産まれた喜びを感じられるように、そして、これ以上、小さな命が失われないようにするためにも、育児を支える仕組み作りは喫緊の課題です。
取材:小野匠哉(NHK名古屋)、村上裕子(NHK名古屋)